表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6

最初、彼女が発した言葉の意味がよくわからなかった。


「合格されてたんですか?」


「えっ?」


彼女が言ってるのはなんのことなのだろう。

混乱しながらも、とにかく到着した電車に乗り込んだ。

初めて同じ車両の同じドアから電車に乗る。


「○大の推薦入試、受けてましたよね?」


「えっ」


二度も同じ言葉しか出てこないというとんだ間抜けな大失態。

でも実際頭の中は大混乱で

どうして彼女がそれを知ってるのか、わけがわからなかった。


「あれ?わたしたちあの日大学ですれ違ったんですけど、

もしかして気づいてなかったですか?」


「えっ」


三度目も「えっ」しか出てこない。驚きすぎて。

驚きすぎて会話にならない僕のことをあきらめたのか彼女は一方的に話し続ける。


「わたし、春からあの学科に進むことになりました。

もしかしたら一緒なのかなって思ってました」


同じ大学、同じ学科。

想定外すぎて思考回路が追いつかない。

でも、大学ですれ違って僕を認識してくれてたってことは

ここでの僕の存在に気づいていたってことなのか。

4月からずっと、僕はどれだけの時間を無駄にしてしまったのだろう。

僕にちょっとの勇気があれば、季節が移り変わっていったこの1年弱の通学を、

本の話をして音楽の話をして、一緒に過ごせたかもしれないのに。


そう思いながらあの石に触れようとポケットに手を突っ込む。

無駄にしてしまった時をとり戻せるものなら、

戻してしまいたいという考えがちらっと過る。

そして、思いかえす。


4月の桜、5月の風、6月の雨……

いろんな想いを抱えて味わったこの駅のプラットホームでの時間ほど

大事な思い出なんて、そうそうないんじゃないか。

縮まらない距離があったことで感情が強く揺さぶられ、

だからこそ、濃密でかけがえのない時間が持てたんじゃないか。

何もなかったなんてことはけしてなく。


ポケットをさぐっても、なぜかあの石はどこにもなかった。



「ほら、見て」


揺れる電車の中、彼女が視線で僕をいざなう。

その先には、朝に残る月。


今、僕たちは隣で、同じ朝の月を見ている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とても好きなお話です。 不思議な石は出番がありませんでしたが、 逆にそれが良かったと思うのです。
2024/05/11 09:43 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ