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メロディが響き、駅に電車がはいってくる。
4両編成の冴えない色の車両。
並んで電車を待つ乗客のほうに、できる限り自然に視線をやる。
いる。
それを確認してはじめて、僕の一日が始まる。
部活を引退して、通学の電車を二本遅らせてすぐ、彼女に気づいた。
違う学校だが高校の制服で多分同じ学年くらい。
容姿はいたって普通だと思うし、自分は容姿にこだわりがないのでそういうことじゃなくて、
彼女の佇まいが好きだった。他の子たちと違ってみえた。
いつもイヤホンで何かを聴いてる。
勉強系の何かかもしれないが、音楽な気がした。
彼女のそばにいってイヤホンから漏れる音を聴きたいと何度真剣に考えたことか。
彼女はスマホもたまにはいじるがほとんどの時間は文庫を読んでいる。
本にはカバーをかけているので何を読んでるかはわからない。
「何を読んでるんですか」と聞けたらと何度思ったことか。
田舎なのでこの時間帯でも電車はそこまでぎゅうぎゅうでもないというより普通の混み具合なわけで、
なんとなくみんな定位置を作っていて、
そこがそれぞれのテリトリーだという暗黙の了解を共有している。
そこで、電車を待つ位置を変えるとか車両の違う場所を新たな居場所にするというのは、
なかなか勇気がいる行為だと思っていたので、今より近寄ることは選択肢になかった。