母と再会したけれども、貴方なんて母じゃない。
「貴方生意気よ。伯爵令嬢の癖に。」
ユリアーネ・ハレスティ公爵令嬢に突き飛ばされる。
マリー・カリステロ公爵令嬢が床に手をつく、ミルデリアの手を足で踏みつけながら、
「わたくしのような高貴な公爵令嬢こそ、ふさわしいのよ。諦めなさいよ。」
ミリアーナ・エストロッテ公爵令嬢に思いっきり髪を引っ張られながら、
「そうよ。いい加減にして頂戴。」
痛い…誰も助けてくれない。私は王家なんて行きたくない。
あの女と顔を合わせたくない。だって…私を捨てたんですもの。
涙がぽろぽろこぼれる。
教室の扉が開いて、ディアス王太子が飛び込んで来た。
「お前達何をしている。」
公爵令嬢達はオホホホホと笑って、
「こらしめてやっていたのですわ。」
「生意気にもディアス王太子殿下に取り入って、身の程知らずですわ。」
「そうよそうよ。生意気な…伯爵令嬢の癖に。」
その時、教室の扉から一人の婦人が現れた。
「わたくしの娘に何をしているのです?貴方達。」
皆が良く知っている有名人が、真紅の帽子を被り、同色のドレスを着て、扇を手に3人の公爵令嬢達を睨みつけた。
マリエリティ王妃である。
皆驚いた。どうして王妃がこんな所へ。
公爵令嬢達は真っ青になり、
「申し訳ございませんっ。」
「お許しをっ。」
「ごめんなさいっ。」
マリエリティ王妃は扇を口元に当てて。
「我が娘を虐めていたのです。それ相応の処分を覚悟する事ね。久しぶりね。ミルデリア。
母に良く顔を見せて頂戴。」
ミルデリアは首を振って。
「貴方なんて私の母ではないわ。私の母はレーナ母上よ。」
マリエリティ王妃は悲しそうに、
「わたくしは貴方の事を忘れた事はなかった。ユーリテクス伯爵家を出たくはなかった。
王家の命は断れない。許しておくれ。ミルデリア。」
ミルデリアは泣きながら教室を飛び出た。
ディアス王太子が後から追いかけて来て、背後から強く抱きしめて来た。
「マリエリティ母上だって、君と離れたくなかったんだ。ミルデリア。解ってやって欲しい。
私も君と離れたくない。お願いだ。私の妻になってくれ。愛している。ミルデリア。」
「嫌っ…私、伯爵領に帰るっ…ディアス王太子殿下と結婚なんてしたくない。あの女と顔を合わせたくない。」
ディアス王太子に壁に押し付けられ、強引に唇を奪われる。
何とか逃げようとすれども、男性の力には叶わなくて。
涙が溢れる。
嫌よっーーー。助けてっーーー。
「ディアス。ミルデリアが嫌がっているのに、何をしているの?貴方。」
ディアス王太子はミルデリアの唇を貪っていたが、声の主を睨みつける。
「母上のせいだ。ミルデリアが私の妻になってくれないのは…こんなに愛しているのに。
諦めようと思っていた。良き兄として、ミルデリアにふさわしい男性を紹介しようと、
でも…耐えられなかった。私はミルデリアの事を愛しているんだ。」
声をかけてきた、王妃マリエリティは、ディアス王太子に、
「だからと言って、無理強いはよくないわ。ディアス。今宵は食事でもしましょうか?
3人で。ミルデリア。王妃の命です。受けるわよね。」
王妃の命では言う事を聞く以外にない。
ミルデリアは渋々頷いた。
招待された一流レストランは個室で、丸テーブルを3人で囲んで食事をする。
夕陽が差し込んで、外は暗くなりつつあり、
シャンデリアの灯りがテーブルの豪華な料理を照らして、
運ばれてくる洒落た前菜、ソースのかかった上等な肉、名前が解らないような数々の料理に、ミルデリアは緊張しながら、フォークとナイフを使い食べて行く。
マリエリティ王妃は嬉しそうに、ミルデリアとディアス王太子に話しかける。
「息子と娘と共に食事が出来るなんて、なんてわたくしは幸せなんでしょう。
ミルデリア。お前が生まれた時、わたくしはとても嬉しかった。女の子が欲しかったの。男兄弟で姉や妹がいなかったものだから。
どんなドレスを着せようかしら、どんなお洒落をさせようかしら。これから何を教えて行こうかしら。って、楽しみにしていたのよ。だけど…わたくしは国王陛下に望まれてしまった。
国王陛下の元へ行ってから、わたくしはディアスの母になったの。ディアスには厳しく接したわ。義理の母とは言え、わたくしは未来の国王陛下の母。そしてこの国の王妃。
それはそれで、張り合いがあったけれども…ミルデリア。貴方の事を忘れた事はなかったのよ。貴方がディアスの妻になってくれるというのなら、わたくしは貴方の母になれる。
貴方にわたくしの全てを教えられる。勿論、王妃なんて覚悟が無いとなれない物。
苦労も沢山あるわ。だから無理強いしない。ディアス。お前も無理強いしては駄目。
いいわね。」
ディアス王太子は頷いて、
「私とて、ミルデリアの幸せを願っている。ミルデリアの不幸を願っている訳ではないんだ。
ただ、私は…私の手で幸せにしてやりたい。いけない事なのか?国王陛下と言う物は…ミルデリアを望んではいけないものなのか?」
熱い眼差して見つめて来るディアス王太子。そして、優しい慈愛の眼差しでこちらを見つめてくるマリエリティ王妃。
決心がつかなかった。
ディアス王太子と結婚して先々王妃になる決意。
自分の母と暮らして、王妃としての全てを受け継ぐ決意。
「私は伯爵領に帰ります。ごめんなさい。」
マリエリティ王妃は頷いて、
「解ったわ。今宵は楽しかった。有難う。ミルデリア。」
ディアス王太子もため息をついて、
「ああ、伯爵領へ戻ってしまうんだな。どうか…元気でミルデリア。君の幸せを願っているよ。」
ミルデリアの心は痛む。
そして、翌日、伯爵領へ戻るミルデリアであった。
伯爵領へ戻って一ヶ月後にまさか、驚くべき知らせが飛び込んで来るとは思いもしなかった。