ディアス王太子殿下の心、求愛されてしまったわ。
「私では駄目なのか?」
「はいっ?????」
何を言っているのだろう?王太子殿下は…だって私と王太子殿下は…
ディアス王太子は叫んだ。
「兄妹だが、血は繋がってはいない。」
周りが一斉にこちらを見る。
慌てて、ミルデリアは唇に指を当てて、
「大声で言ってはいけません。このことは内密にですわ。」
「そうだったな。」
ミルデリアの母マリエリティは国王陛下に見初められ、今や王妃になっている。
彼女はとても美しい人だったので、国王陛下が人妻でも関わらず強引に王妃に望んだのだ。
ユーリテクス伯爵は諦めるしかなかった。妻を国王陛下に差し出したのだ。
ミルデリア自身はユーリテクス伯爵の娘なので、伯爵家で育てられた。
後妻に入って来た今の義母はミルデリアの事を本当の娘のようにかわいがってくれている。
一方、ディアス王太子を産んですぐに、生母であった王妃は亡くなってしまった。
だからディアス王太子は今のマリエリティ王妃に育てられたようなものである。
ちなみに、国王には他に子がいない。ディアス王太子が唯一の子である。
そしてマリエリティ王妃には国王との間に子が出来なかった。
ディアス王太子にミルデリアは中庭に連れて行かれる。
熱烈に口説かれた。
「隣国の王女、有力貴族の公爵令嬢達。色々な女性が私の婚約者候補に挙がっている。
だが、だれとも私は結婚したくはなかった。勿論、いつまでも駄々を捏ねている訳にはいかない。未来の王妃を決めねばならない。でも、私は…ミルデリアの事が好きだ。好きなんだ。どうか、私の妻になってくれないだろうか…」
ミルデリアは慌てて、
「私は伯爵令嬢です。王妃なんて務まりませんわ。」
「君の母上マリエリティ王妃だって伯爵家の出身だ。だが、今や、並ぶもの無き優秀な王妃として外国にも名を馳せている。」
「ディアス王太子殿下の母上でしょう?今は…私の母上はレーナ母上ですわ。」
「だが、君の生みの親だろう?」
「私の母上はレーナ母上だけです。」
母親の記憶なんて、ろくにない。
自分を産んで2年後、母親は国王に見初められて王家に行ってしまったのだ。
数回、避暑と称して、伯爵領にディアス王太子と共に会いに来たことがある。
「ミルデリア。久しぶりね。覚えている?貴方の母よ。」
幼いミルデリアは泣いて嫌がって、後妻のレーナに抱き着いて、
生母が会いに来たと言うのに、甘える事をしなかった。
ディアス王太子はミルデリアをお姫様抱っこし、ベンチに座ると、耳元で囁く。
「私はミルデリアの事がずっと好きだった。会いに行くたびに愛しさが増した。私は君より二歳年上だ。もうすぐ学園も卒業し、本格的に婚約者を決めねばならない。私はミルデリアと結婚したい。どうか、頷いてくれないか?」
「ですから、私は王妃なんて…」
「私の心だけでは駄目なのか?」
「あの…恋とか愛とかだけで、王妃が務まるとは思えません。膝から降ろしてくれませんか?」
やっと、ディアス王太子の膝の上から解放される。
ミルデリアは慌てて、その場を後にする。
教室に戻ると、三人の公爵令嬢達に囲まれた。