両親の初めて見せた一面
目を覚ますと見慣れはじめた天井が目に入った。
どうやら赤坂を待っていたが寝落ちしてしまったらしい。
ベッドから体を起こすと、壁際の椅子に赤坂が座っていた。
「おはよう奏真君。
少し顔色良くなったね。」
「おはようございます。赤坂さん。」
少し落ち着いてきたのか心なしか体も軽く感じる。
「そういえば、奏真君のご両親は海外にいたんだね。
今日中には病院に着くって連絡があったよ。」
「二人ともここに来るんですか?」
「当たり前だよ。
君はまだ未成年なんだから、ご両親に連絡するのは当然だよ。
それに、入院の手続きとかもあるし。」
そりゃそうだ。
だけど二人とも戻ってくるなんて思わなかった。
高校生になった途端二人揃って『家のことは任せたよ』なんて言って仕事しに海外に飛んで行ってしまったから。
「奏真君が救急搬送された時点で連絡先はわかっていたんだけど、時差の関係で連絡するのに時間がかかってしまったみたいなんだ。
それとお母さんが電話に出たらしいんだけど、突然の事で貧血を起こしてしまって、お父さんに代わってもらって事情を説明したみたいだよ。」
ここまで両親に心配をかけたのは、俺の人生で初めてではないだろうか。
赤坂と話を続けようとした時、突然病室のドアが開きドアを開けた人物がベッドに向かって来た。
「奏真‼︎
大丈夫なの? いきなり電話があって入院したって聞いたから心配で!」
「母さん⁉︎」
「ちょっと母さん、奏真が戸惑ってるだろ。
少し落ち着いて。」
「父さん。」
噂をすればなんとやらだ。
「奏真君のご両親ですね。
私は奏真君の警護を担当しています、赤坂と申します。
よろしければこちらの椅子にお掛けください。」
赤坂は先程まで自分が座っていた椅子をベッド傍に持って来て声をかけた。
「ありがとうございます。
母さん、とりあえず座って。」
「ごめんなさいね、ありがとう。
奏真、本当に怪我は無いの?
事件に巻き込まれたって聞いたから心配したのよ。」
「ごめん、心配かけて。
でもどこも怪我とかしてないから安心して。」
「怪我をしてないから大丈夫なんて言われて『はいそうですか』とはならないだろう。
顔を見るまでは生きた心地なんてしなかったぞ。」
二人はまだ少し心配した表情をしていたけれど、取り敢えず直接会ったことで安心してくれたみたいだった。
「二人とも仕事の途中なのに、わざわざ来てくれてありがとう。」
「子供に何かあったら心配するのは当然でしょう。
奏真は本当にお父さんに似て馬鹿真面目なんだから。
気にしなくて良いことに神経使って。」
「ちょっと母さん、馬鹿はないだろう。
一応父親としての威厳が。」
夫婦漫才でもするかの勢いで話をしていた両親に、赤坂が声をかけた。
「ところで、病院の先生にはお会いになりましたか?
奏真君の入院の手続きと今後のこととかは。」
「そうだった。
母さん、取り敢えず先生に会いに行って話を聞いてこよう。
奏真、お前は美穂さんとゆっくり話でもして待っていなさい。」
父さんの言葉で美穂が病院に来てくれていることを知った。
二人は立ち上がって病室を出て行くと、入れ違いで美穂が入って来た。
どうやら廊下で待っていたらしい。
先程まで母さんの座っていた椅子に今度は美穂が座った。
「お母さん達帰国したんだね。」
「そうみたいだな。
俺もさっき赤坂さんに言われるまで、母さん達が帰国したなんて知らなかった。」
赤坂がごめんと口パクで謝ってくる。
「お母さん達相当慌てて来たみたいだね。
病院の入口で凄かったんだから。」
凄かったってなんだ?
「何かあったの?」
「空港からタクシーで直接来てたみたいだけど、お父さんはお釣りは要らないって財布ごと渡そうとしてたし、お母さんは受付に走って行って奏真の名前を何回も伝えていたし。
二人とも荷物を下ろし忘れてたり。」
あの父さんまで慌てていたなんて。
それも財布ごと渡そうとしたなんて想像できない。
「私が声をかけた時、お母さん私の肩を掴んだの。
手が震えてた。顔も青白かった。」
想像以上に両親が慌てていた事にもっと驚いた。
「奏真はとっても大事にされてるんだね。」
「そうみたいだな。」
ここまで自分が愛されているなんて知らなかった。
普段はテレビ電話で話したりしても、ご飯はちゃんと食べているかとか、困った事は無いかくらいの一人暮らしを始めた大学生にかけるような言葉だったから。
「だけど直接会えてよかったね。
お母さん達もそうだけど、奏真も顔色が良くなってる。
少しは元気出て来た?」
「おかげさまで。」
やっぱり、親の顔っていつ見ても安心できるんだよな。
こんな時だから余計に。