赤坂視点 先ずは腹ごしらえから
病室を後にした俺は、先に病院を出た佐々木に電話をしながら徒歩で駅へと向かっていた。
病院まで乗ってきていた車は、佐々木が相良美穂を送るために乗って行ってしまったからだ。
数コールで佐々木が出た。
「お疲れ様です佐々木さん。
今お電話続けても大丈夫ですか?」
「おお、大丈夫だ。
今コンビニでコーヒーを買ったところだ。」
とりあえず大丈夫そうなので佐々木の居なくなってからの話を報告した。
と言っても、殆どが立花奏真と相良美穂の話になってしまったが。
あらかた話を終えると丁度よく駅に着いた。
「では佐々木さん、今駅に到着したので一旦自宅に戻ります。
準備が終わったらまた奏真君の病室に向かいますので。」
「ちょっと待て赤坂。」
電話越しに佐々木がコーヒーを飲み干す音が聞こえると佐々木が続ける。
「直接お前に話したい事があるから少し駅で時間を潰しておいてくれ。
直ぐに迎えにいくから。」
佐々木とコンビを組んで一年が経つが、直接話したい事があるなんて初めて言われた。
もしかして新たな情報でも掴んだのだろうか。
佐々木が自宅に送った相良美穂は、第一発見者ではないけれど警察官よりも先に現場にいた人物だ。
何か思い出した事があったのかもしれない。
「何か重要な事でもわかったんですか?」
「話は直接伝える。
とりあえず駅で待っていろ。」
そう言うと佐々木は一方的に電話を切った。
佐々木は俺よりも遥かに経験のある警察官だ。
何か気がついた事でもあるのかもしれない。
刑事の勘とか。
とりあえず朝飯でも食べて待とう。
手頃な店を見つけて中に入る。
店員に待ち合わせしている事を伝えて料理と佐々木を待つ。
十分ほどで料理が運ばれてきた。
久しぶりの温かいご飯だ。
普段は自炊をせずにコンビニで買った物やスーパーの惣菜ばかり食べているから、少し豪勢に親子丼なんて頼んでしまった。
蓋を開けると白い湯気がふわっと上に上がり微かに出汁の匂いが広がる。
上にはちょこんと卵黄が乗っかり、三つ葉が添えられている。
ゆっくり座って食事をするのが久しぶりすぎて、自然と頬が緩んでしまう。
両手を合わせ小さくいただきますと呟き箸を持つ。
やっぱり、食事ってこうやって味わって食べる物だよなとしみじみ思いながら一口目を口に運ぶ。
「随分と旨そうな物頼んだな。」
声に驚き顔を上げると、沢山の商品が入ったコンビニの袋を持った佐々木が立っていた。
「久しぶりにゆっくり朝食でも食べようかと思ったんですけど。
そうだ、佐々木さんもご一緒にいかがですか?」
佐々木は少し考えてから。
「それじゃあお言葉に甘えて。
後輩の誘いは断れないな、これお土産だ。」
「俺の奢りですか?」
「誘ったのはお前だろう?」
佐々木は笑顔で店員に親子丼を注文した。
自然に俺が奢る流れになってしまった。
佐々木は笑顔で持っていたコンビニの袋を差し出してきた。
中身は殆どがスナック菓子や菓子パンみたいだ。
親子丼の半分くらいの値段で買えそうな量だけど、まあいいか。
雑談をしながら親子丼を食べ進めると、佐々木がお茶を啜りながら本題を切り出した。
「それじゃあそろそろ話をしようか。」
急に本題を話し始めた佐々木の顔にはいつもの笑顔は無く、真っ直ぐに俺に目を向けた。
俺は一旦箸を置いた。