信頼
想定外の返答に俺は唖然とした。
「だけど、実際に俺は犯人を見てないから問題ないんじゃ。」
せっかく落ち着いたのにまた動悸がし始めた。
「たとえ君が見ていなくても犯人が君を見てしまっていた場合、君は狙われるかもしれない。
用心深い犯人であればある程危険性は高い。」
佐々木の発言は俺を絶望させた。
どうしてこんな目に会うんだ。
ただバイト終わって家に帰っていただけなのに。
正体のわからない犯人に対して、恐怖感と日常を壊された事による怒りが湧いてきた。
俺は行き場の無い怒りを拳を握りしめて発散するしかない。
突然、俺たちの話を聞いていた美穂が口を開いた。
「犯人が奏真を狙っているかもしれないなら、奏真を守ってもらえませんか?」
美穂の話に俺は縋るような思いで佐々木を見た。
そうだ。警察官が目の前にいる今しか頼めない。
「お願いします佐々木さん。」
ここで話を通しておかないといけない。
でなければ俺は恐怖で外出できなくなるだろう。
命を狙われているかもしれない状況で呑気に外出できるほど俺は肝は座っていない。
精一杯二人に頭を下げた。
「わかった。この状況で君を一人にして普段通りの生活をさせられるほど警察は薄情じゃない。
赤坂、しばらくお前が付き添っておいてくれ。」
「わかりました。」
二人は意外とあっさり決めてしまった。
警察って案外フットワークが軽いのか?
だけどこれで少しは安心できる。
「ありがとうございます。」
提案してくれた美穂にも感謝を伝える。
「美穂もありがとう。何から何まで。」
そう伝えると美穂はそんな事ないと首を横に振る。
彼女の存在が俺に安心感を与えてくれている。
こんなに良くしてくれる彼女に俺は何ができるんだろうか。
そうだ、この事件が解決したら思いっきり楽しいデートの計画を立てよう。
彼女を笑顔にするためにはなんだってしてやる。
そう心に誓った。
そのまま話はまとまり、美穂は佐々木に送られる形で帰宅する事になった。
二人が病室を後にすると赤坂と俺の二人だけになった。
どうやら他の警察官が来るまでは赤坂が残り、一旦帰宅してから戻ってくるそうだ。
病室でも俺の警護をしてくれるらしい。
お手数をおかけします。
まだ代わりの警察官が来るまで時間がかかるのか、赤坂は俺に事件意外の話を振り始めた。
「彼女とはいつからの付き合いなんだい?」
殆どが美穂との話だけど。
「美穂とは幼馴染で家が近所なんです。
なので小さい頃から一緒にいる事が多くて。」
改めて他人に話すと恥ずかしいな。
「そっか。
それにしても彼女って凄く落ち着いているね。
さっきの会話もだけど相手の話をしっかり聞いて自分の意見を答えてる。
高校生でもあそこまで落ち着いて警察官と話している子はなかなか見た事がない。」
昔は一緒に虫取りなんかをして遊んでいたが、中学校に入ると活発な女の子から優しい優等生に変わっていった。
俺と二人の時は昔と変わらない事が多いけど、それ以外の時は優等生に変わる。
さっきまでの美穂は優等生の美穂なのだから、赤坂にそういう印象を与えるのは当然だろう。
そんな会話を続けていると、あっという間に時間は経って赤坂と入れ替わりの警察官が病室にやってきた。
簡単な引継ぎをを終えると、赤坂は俺に手を振って病室を後にした。
赤坂と大分打ち解ける事が出来たからか、これから彼が警護してくれる事に喜びと頼もしさを感じる。
替わりに来た警察官との会話は長く続かなかった。
一言『大変な目にあったね。』と言われたくらいでそれ以降、相手から話をする事はなかった。
気まずいな。
『早く赤坂さん戻って来ないかな。』