二人の訪問者
病室に入ってきた男達は胸ポケットから警察手帳を取り出して名乗り出した。
「はじめまして立花さん。
私は今回の事件を調べてる佐々木と申します。」
「同じく赤坂と申します。」
「はじめまして、立花奏真と申します。」
高校生を相手にとても低姿勢で挨拶をした二人に少し拍子抜けしてしまった。
警察官はもっと厳つい顔つきで、第一発見者を容疑者の様に問い詰めるとイメージしていたが間違いみたいだ。
ドラマの見過ぎだな。
佐々木と名乗った男は柔らかい顔つきに、少々白髪の混ざった髪を短髪でセットしている。
細身だがしっかりと鍛えられているのか立ち姿がとても美しい。
絶対に細マッチョだ。
目は真っ直ぐに俺を見つめている。
自信と正義感に満ちた目だ。
赤坂と名乗った男は佐々木に比べて少しゴツい体つきだ。
爽やかな顔つきと髪型のおかげで暑苦しさは感じない。
学生にモテそうなタイプだな。
そんな事を考えていると佐々木が話を切り出した。
「早速で悪いんだけど、当時の事を話してもらってもいいかな。もちろん君の負担にならない程度で。」
そう言いつつも、目は全てを話してくれと語っている。
赤坂も続いて口を開く。
「彼女から、美穂さんから大まかな証言は聞かせてもらったよ。現場の状況とも一致する。
だけど、実際の発見状況は君の口から聞きたいんだ。」
「もちろんです。だけどゆっくりでもいいですか? さっきみたいな事になるとちょっと……。」
正直言って協力はしたいけれど、自信が無い。
間違った事は証言はしたくないのでゆっくり思い出す時間が欲しかった。
それに美穂の前で何度も取り乱したところは見せるわけにはいかない。
「当然、君の体調を第一にする。」
佐々木の力強い言葉に安堵した。
赤坂が手帳を取り出した。
俺の話を全てメモをしていくようだ。
赤坂がこちらに顔を向けて準備ができた事を確認した俺は、ゆっくりと当時の状況を話し始めた。
バイト先から自転車での帰宅途中に起こった事を、意識が無くなるところまで。
なんとか話し合えると佐々木が腕を組んで考え込み始めた。
それと同時に赤坂も手帳を見て少し表情が曇る。
「佐々木さん、これはちょっとまずいかもしれないですね。」
「えっ? 俺何か変なこと言いましたか?」
ありのままを話したのにそんな事を言われると不安になるじゃないか。
不安がる俺に向かって佐々木が訳を話す。
「そうじゃないんだ。
被害者の死亡推定時刻が君の証言によって狭まったんだ。」
なんだ。
それなら何もまずい事はないじゃないか。
自分の証言が二人に伝わって安心した俺とは裏腹に、今度は赤坂が重い口を開く。
「美穂さんからの証言では、バイト終わりの君が自宅に着いたくらいのタイミングで電話したと聞いたんだ。」
「だけどその時、君は現場にいた。
自宅から自転車で5分くらいのところに。」
ここまで言われても何もピンとこない。
「つまりどういう事ですか?」
「簡潔に説明すると、君が現場に着いた時はまだ犯行直後だったというところがまずい点だな。」
佐々木の言葉に赤坂も首を縦に振る。
佐々木が俺の顔を真っ直ぐと見つめて言った。
「君は犯人を見ていないと言っていたが、犯人は君を見ていた可能性がある。」
それって結構まずくない?