大好きな彼女が書くには
一応閲覧注意です。一応。
大好きな貴方から日記帳を貰った。
とりとめもなくただ日々を書き綴ろうと思う。
これはきっと、私にとっては毒になる。
そしていつかこの日記帳を盗み見る貴方には致死性すら持つだろう。
昔貴方にプレゼントされた万年筆で書いてみる。インクの匂いが心地いい。貴方はセンスがないと思っていたけれど、この万年筆を貰った時からその考えは改めた。たくさん考えて買ってくれたのだろうな、と思う私好みの名前入り万年筆。冷たいインクの色も、この筆先から走ったものだと思うととても温かい。だからこそ、思う。私は、貴方に一体何を求めているのだろう。
関係が壊れるのが怖くて、何も言えない。貴方はもうすぐ婚約者と結婚する。彼女とは上手くいっているのね。とても幸せそうに報告してくれた。私はにこりと笑ってこう言うの。「貴方が幸せになってくれれば、それが私の幸せよ」馬鹿みたいに一途に愛してた。それももうすぐ終わりなのね。
私の中の負の感情が栄養になって、私の胸に花が咲く。比喩ではない。花咲病。報われない恋に狂った愚か者だけが掛かる不治の病。貴方には伝えない。誰にも知らせない。私は孤独なまま生涯を閉じよう。その方が、この日記帳を手に取った貴方に傷を残せるから。
貴方とは生まれた時からずっと一緒だった。貴方は私をいつも守って、甘やかして、大切にしてくれた。成長してからもそれは変わらなかった。優しい貴方の後ろをついて回る私を、決して邪険にはしなかった。私はいつからか貴方に恋をした。けれどもそれは伝えていい感情ではなかった。
この思いには、きっと代償が必要だ。だって、私の婚約者にも、貴方にも不誠実だから。でもね、捨てられないの。だから、花は咲いてしまった。今まで咲かなかったのは、きっと私と貴方が特殊な関係だったから。特別で、唯一。私の片翼。でも、あと少しで貴方の片翼は私ではなく彼女になる。嗚呼、なんて無情。
ねえ、ここまで読んで気付いたかしら。そう、私は貴方のせいで、貴方のために死ぬのよ?ねえ、傷ついてくれる?私を哀れんでくれる?私を忘れないでくれる?私の影とずっと一緒に生きてくれる?彼女ではなく私の影と寄り添ってくれる?…ごめんなさい。
何も変わらないの。ずっと一緒にいられるかもしれない。…私に花が咲かなかったなら。でも、咲いてしまったの。日に日に美しく咲く花。蕾はまだまだある。これが私の命のタイムリミット。ねえ、あと何回貴方の笑顔を見られるかしら。
貴方が部屋に帰った後、吐いた。私の命はもう僅か。ねえ、好きよ。本当は声に出して伝えたかったの。好き。好き。好き。愛してる。ああ、この日記帳はきっと、あと数回しか使えない。
もう、手の感覚がない。痺れてる。まだ、思うように動かせているのが救いかしら?ああ、花が咲くたびに貴方のそばにいられるあの子が恨めしくなる。恨めしくなるたびに花が咲く。もう、止められないの。
ねえ、気付いた?これはね、貴方への最初で最後のラブレターでもあるのよ?愛してるわ。大好きなの。ああ、もうすぐ最後の蕾が…
「…爺ちゃん、何読んでるの?」
「爺ちゃんを一番愛してくれた女性からの最初で最後のラブレターだよ」
「え?ラブレター!?誰から、誰から?ばあちゃん!?」
「いや、ばあちゃんではないよ」
「え?爺ちゃん、浮気ー?」
「いいや。言っちゃ悪いけど、爺ちゃんはばあちゃん一筋だから、相手の女性からの片思いだよ」
「ふーん。で、なんて返事をしたの?」
「…。さてなぁ?忘れたの」
「えー。爺ちゃん不誠実だー」
「ほっほっほっ」
孫の頭を撫でる。この日記帳を読んだ後、可愛い唯一の双子の妹の墓の前で、返事をした。
「それでも、今度生まれ変わっても俺は君と双子になりたい」
ただ、それだけのお話。
大丈夫でしたか…?大丈夫でしたら他の小説もよろしくお願いします。