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10-28 建速勇人(16)

 和政が五百騎で高師直へと突っ込んで行った。

 高師直は今度は騎馬隊を分ける事無く、それを一塊にして受け止めた。そのまま包み込み殲滅する構えだったが、そこに小夜が立て続けに突っ込んで行く。

 高師直もそれを予想してか外側への備えを厚くしていたが、小夜に呼吸を合わせて和政が進む方向を外側に転じ、挟撃の形になった事であっさりとそれは突き破られた。

 全軍が小夜の意思に合わせてほとんど同時に動くように思える奥州軍に対し、足利軍はどうした所でその動きに応じて後手後手に動くしかない。

 だから、勝ち目はほとんど無い。

 それでも決して勝負を投げる事無く粘り強く戦い続ける高師直は、間違いなく今まで勇人が戦場で出会った中でももっとも手強い将の一人だった。

 小夜と和政が一度高師直の騎馬隊を突き破った所に、五辻宮が回り込んでいる。

 小夜も和政も、まるで五辻宮の騎馬隊などいないかのように、すぐさま駆ける方向をそれぞれ左右に変え、無防備な側面を五辻宮へと晒しながら高師直の騎馬隊に再び向かって行く。

 五辻宮はそれを突く事はせず、凄まじい勢いで反転した。

 勇人は、そこにいた。

 読み勝ったのか。それとも、あちらも敢えて正面からのぶつかり合いを望んでいたのか。

 相手は五辻宮を囲むようにして先頭に護衛の十騎。勇人の周囲には左近、ちあめ、赤、青がいる。

 青が鞍上で立ち上がった。すぐ後ろを走る赤も鞍上でしゃがみ込む奇妙な姿勢を取る。

 何をする気なのか。考えている余裕はなかった。目の前からは凄まじい殺気が襲ってくる。

 斬撃。三つまではかわした。自分に斬撃を放って来た相手は無視して五辻宮へと向かう。

 同時に、青が馬上で後ろ向きに跳躍し、しゃがみ込んだ赤の肩に乗った。

 二人が同時に跳躍する。二人分の跳躍の力を、一つに。凄まじい高さまで青の体が浮き上がるのが視界の端で見えた。

 勇人の正面には五辻宮。

 斬撃。そのまま交差する。


「そちはあの時無理をしてでも斬っておくべきであったかな」


 そんな声が聞こえた。

 互いに首を狙った一撃だったが、どちらも届かなかった。そして勇人の方が、まだわずかに遠い。

 青は跳躍によって相手の頭上から襲い掛かり、赤も同じ相手に馬上から同時に襲い掛かる事で二人で一騎を倒している。そして青はまた馬の上に着地していた。

 ちあめもすれ違いざまに一人を馬上から落としている。左近は相手の攻撃を防ぐだけで今は精一杯だったようだ。

 五辻宮はそのまま駆ける方向を変え、離脱する。

 二人、倒した。こちらはやはり二十騎ほどを失っている。その内二人は、勇人を庇うようにして斬られていた。

 旗本の残りは三百五十騎。ここはその命をどう使うか、それを考えるしかなかった。


「生きた心地がしないな。受けるだけでやっとだ」


 左近が馬を寄せて来た。


「それでも一人は引き受けてくれている。君を鍛えておいて良かった、と思ってるよ」


 逃げる五辻宮の騎馬隊を追った。

 恐ろしく手強い騎馬隊だが、それでも数の少なさゆえに弱点はある。高師直の騎馬隊からさほど離れられないのだ。

 高師直の騎馬隊から離れた所を小夜と和政と勇人の三人に包み込まれれば、さすがにどうにもならない。

 そして、高師直の方は、積極的に五辻宮と連携するつもりは無いようだ。

 だから自ずと、五辻宮が駆けられる方向は限られる。しかも五辻宮は、小夜を狙わなくてはいけない。

 勇人は小夜と和政の位置を確認すると、五辻宮を追うのを途中でやめ、高師直の騎馬隊へと背後から突っ込んだ。

 頭の中で小夜の動きを思い浮かべながら、そのまま高師直の騎馬隊を突っ切り、外に出る。外に出た所に、五辻宮がいた。しかも、背後である。

 不意を衝けた。そう思い、ぶつかる。

 後方の二十数騎を落とした。しかしそのまま、五辻宮は勇人が作った高師直の騎馬隊の中の間隙に逃げ込む。さすがに、追い切れなかった。


「また、惜しい」


「向こうも、七十騎程度には減ったかな」


 しかし攻撃力はまだほとんど落ちていないだろう。

 それでも、一方的に読み負けた、と言う事は五辻宮に対して重圧になっているはずだ。

 勇人は一度高師直の騎馬隊からも離れた。

 また、小夜と和政の騎馬隊の動きに目を向ける。もちろん、意表を衝いて自分に向かってくる事に関しても警戒を怠っていない。

 高師直の騎馬隊とぶつかり合う小夜がまたあるかなしかの隙を見せた。それを待っていたかのように高師直の騎馬隊の中から五辻宮の騎馬隊が飛び出す。

 半ば予想していた。それでも実際に動き出すのはそれを確認するまで待った。小夜なら勇人が多少遅れてもまず凌げる。

 駆け出す。


「何っ」


 飛び出してきた五辻宮の騎馬隊は二十騎ほどに過ぎなかった。大きく広がり、数を多く見せている。五辻宮もその護衛の騎馬の姿も見えない。

 囮。なら、本体はどこを狙うのか。

 反対側で和政が五辻宮の五十騎に側面を突かれていた。

 和政が一人馬首を巡らし、五辻宮に向けて飛礫を三発放つ。それは五辻宮の護衛によってどれも防がれていた。

 剣を抜いた和政と五辻宮が交差する。和政が落馬するのが見えた。

 勇人は咄嗟に動揺を押し込んだ。まず、囮の二十騎を小夜と連携し徹底して殲滅する。


「上林和政殿、討ち死に」


 二十騎を殲滅した所で伝令の声が聞こえてきた。

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