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9-14 建速勇人(6)

 土岐頼遠と桃井直常。そこに陸奥守が来ると分かっていたかのように、一千騎ずつで左右から挟み撃つように駆けて行っている。

 咄嗟に師行の位置を探した。いない。いや、後衛が動き出したのに合わせて、政長率いる南部勢も動き出している。そこに介入するつもりか。

 師行は小夜を狙う騎馬隊の動きに気付いていないのか。それとも、ここは勇人だけでどうにかしろと言う事か。


「上等」


 口の中でそう小さく呟くと、勇人は朝雲に速度を上げさせた。鬼丸国綱を抜く。

 小夜を挟み撃とうとしている騎馬隊の内、桃井直常の方に背後からぶつかった。途中まで綺麗に断ち割り、そこで方向を変えて内側からかき回すようにぶつかり合う。

 勇人自身が二、三人を切り倒した所で、ぶつかり合いをやめて一旦離脱した。土岐頼遠の方が駆ける方向を変えてこちらに向かって来るのが見えたからだ。

 こちらは二百五十騎である。合わせて二千騎の敵にまともに押し包まれれば、どうにもならない。

 それでも束の間のぶつかり合いで、二十騎ほどは落としたか。

 小夜も合流してくる。束の間、二千二百五十騎と二千騎のにらみ合いになった。

 敵はかなりの精鋭である、と言うのは今のわずかな掛け合いで分かった。鋭く動いてもくる。

 そして、ずっと駆け通しだったこちらの騎馬隊と比べて、まだ十分に馬に余力を残している。

 それがはっきりと、小夜の首を取る事を目的に動いていた。

 勇人は一度息を吐き、主力のぶつかり合いの方を見やった。

 崩れかけた敵の前衛は、それでもまだ踏み止まっていた。後衛からの支援があれば、楠木勢を容易く押し潰し、また態勢を立て直せると言う事が分かっているのだ。

 いや、このまま踏み止まらせ続ければ、いずれ前衛だけでも自力で立ち直って楠木勢を排除しに掛かるだろう。正家はあらゆる物を出して敵を攪乱し足止めしているようだが、いずれ限界は出る。

 後衛には南部勢が当たっているはずだが、そちらの戦況がどう動いているのかはここからでははっきり分からない。

 今騎馬隊がやるべき事は正家の五千と合流してそこから敵を崩し続け、前衛に立ち直る余裕を与えない事だった。

 土岐と桃井の二千騎は、それをやりながら相手をするしかない。

 後衛の十万の方は、ひとまずは師行がどうにかするだろう、と言う予測は、ほとんど信頼として勇人の中にあった。

 自分と同じように考えたのか、小夜の騎馬隊は目の前の二千騎を無視するようにして、また正家がいる方向へと駆け始めた。

 勇人もそれに続く。敵の二千騎も当然のように追って来た。

 駆けながら小夜は少し速度を落とし、敵との距離を詰めさせた。

 あからさまな誘いだったが、敵はそれに乗って速度を上げて来た。こちらの騎馬隊の余力が尽き掛けていると踏んだのかもしれない。

 実際にはまだもう少しは、このまま駆け続けられるだろう。

 勇人は速度を落とす事なく、大回りするような動きで小夜と離れ、敵の側面に回った。

 小夜の騎馬隊も精鋭だが、数が少ない分、師行の旗本の馬はさらに選び抜いてある。余力は、さらにあった。

 桃井直常がそのまままっすぐ小夜の方へと向かい、こちらには土岐頼遠が応じて来た。

 あちらも迂回するように進路を変えて来る。

迂回の途中で勇人の二百五十騎を正面から蹴散らし、その動きのまま桃井直常とぶつかっている最中の小夜の騎馬隊の側面を衝く。

 敵はそう考えているだろう。

 敢えて騎馬隊をこちらから散らす事で敵の攻撃をかわし、そこから反撃に転じて止められるか。こちらが後ろを取っても敵が迷い無く小夜の方へと突き進めば、間に合わない。

 考えたのは一瞬だった。土岐頼遠の判断の良さは、先程の転身の速さで分かっている。

 騎馬隊の内五十騎をだけを小さくまとめ、楔のような形にして前に配置した、勇人はその先頭に立つ。

 鬼丸国綱を真横に構えて、正面から敵の騎馬隊に突っ込んだ。

 敵はこちらがまともに受けるとは思っていなかったらしく、多少は意表を衝けた。何人かを斬り倒しながら、敵の騎馬隊の中を進んで行く。しかし、少し進めば敵の圧力はすぐに増した。

 続いて残りの二百騎が突っ込んでくる。その勢いを生かし、進む方向を斜めへと変えた。敵の騎馬隊を断ち割る動きから、外側を削るような動きになる。

 そのまま側面から再びぶつかろうとする。

 執拗な攻撃をあまりに目障りに感じたのか、敵は駆ける方向を再び変えてこちらに正面を向けた。

 小夜の方を見れば、桃井直常の一千を上手くあしらいながら、そのまま正家の援護へと回っている。

 敵の二つの騎馬隊をひとまず引き離す事には成功した。その代わり、勇人はこの一千の相手を二百五十でする事になる。

 一千は二つに分かれた。五百ずつで左右に分かれて向かって来る。ここで確実に勇人の二百五十騎を潰すと言う構えだった。

 逃げればそのまま土岐頼遠は小夜を追うだろう。付かず離れずまとわりついて足止めすると言うのも、相手が二つに分かれていると難しい。

 二人の騎馬隊以外にも、質は高くないが敵の騎馬隊がまだいくつか駆け回っているのも面倒だった。この周囲だけで他に二千騎ほどはいる。

 どう向き合うか。

 そう考えた時、後衛の敵に衝撃が走った。勇人がいる場所からでもはっきりそう分かる程の衝撃だ。

 二つに分かれた土岐頼遠の騎馬隊がまた一つに戻った。そして動きを止める。

 後衛の方向から、騎馬隊が駆けて来た。数は二百五十。

 師行だった。勇人の騎馬隊の横に一瞬並ぶが、足は止めない。

 何故こちらに。そう言おうとしたが、師行は何を言わずに手で土岐頼遠の騎馬隊を一度指しただけだった。

 そしてそのまま、敵へと駆けて行く。

 勇人は一度首を振り、それに続いた。

 この瞬間、この戦場で最も優先して相手にすべきは土岐頼遠。師行がそう判断したと言うだけの事だった。

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