第6話 盗賊の身包みを剥ぐのは当然だよな?
泣いていた少女もだんだんと落ち着きを取り戻したので、みんなのもとに戻ることにした。足をくじいてしまってうまく歩けないようなので、俺がおぶって山を降りることになった。
少女の名はラルメリアというらしい
ちなみに、「ラルとお呼びください! 敬語もいりません。命の恩人なのですから!」
と言われてしまったので言う通りにしている。
なんでもハーベルス国に帰る途中らしい。
ハーベルス国といえば、巨大な闘技場があることで有名だ。そこでは年に何回か大会が開かれ腕に自信があるものたちが武勇を競うのだ。確か初代の王様は力によってその国を治めたと言われいる。だからなのか、強い者は敬意を持たれる。代々王族も武を極めている。今の王は槍の達人だった気がする。
馬車のもとに戻ってくると執事の男が駆け寄ってくる。
「お嬢様ー、お嬢様ー! よくぞご無事で!」
「爺も無事でよかったわ」
馬車を襲っていた盗賊たちは冒険者たちによって縄で縛られていた。
冒険者の一人が近づいてくる。
「本当に助かった、ありがとう。俺はリーダーのライザだ」
そう言って手を差し出してきた。その手を握り返して言う。
「リアムです。たまたま悲鳴が聞こえたので間に合ってよかったです」
他のメンバーとも軽く挨拶を交わした。
森に置いてきた盗賊を回収しにいく。全員気絶したままだった。吹き飛ばした盗賊も離れたところで白目をむいて倒れている。一応全員生きてはいたのでよかった。
同じように縄で縛って転がしておく。
「この度は危ないところを助けていただきありがとうございました」
そう言って、ラルと執事は深々と頭を下げた。
「無事で何よりだ」
「何かお礼をしたいのですが、今はなにも……」
「気持ちだけで十分だ」
「そうは参りません。命の恩人になにもしないなんて、そんな恥知らずな真似できません」
「じゃあ、アベルス王国までの道を教えてくれないか?」
「もちろんお教えしますが、それでは全く足りません!」
いや、ほんとに気にしなくていいのに
ふと、何か思いついたように顔を上げる。
「ではこうしましょう、リアム様がハーベルス国を訪れた際、是非我が家に来てください。そこで精一杯おもてなしさせていただきます」
ハーベルス国には興味があったし、闘技場での大会はとても有名なので、一度見てみたいと思っていた。いずれは行くつもりだったのでちょうどいいかもしれない。そのときにお邪魔することにしよう。
「わかった。楽しみにしてるよ」
「ではこちらを」
そう言って執事の男が紙と大きめのメダルを取り出す。
「これは我が家への招待状のようなものです。来た際にこちらのメダルを見せれば家のものがすぐに対応いたします」
俺はそれらを受け取ると鞄へとしまう。
冒険者たちが近づいてくる。
「俺たちからも礼を言わせてくれ。本当に助かった、俺たちだけじゃ依頼人を守りきれなかった」
「ハクのおかげですよ」
そいって俺はハクを撫でる。
「確かに凄まじかったな……もしかしてエンシェントウルフか?」
「はい、まだ子供ですけど」
「まさか生きたエンシェントウルフをこの目で見られるとはな……」
他のメンバーも物珍しそうな視線をハクへと向けている。
ライザがこちらを見て言う。
「ハーベルス国に来るんだったら、俺たちにも礼をさせてくれ。しばらくの間ハーベルスを拠点にするつもりだ」
「わかりました。その時は是非」
ラルメリアたちは次の街に向かいそこで、追加で冒険者を雇うらしい。また今回みたいなことが起きたら大変だ。
その資金の足しにしてもらおうと、盗賊たちの身包みを全部剥いだ。あまり金にはならなさそうだがないよりマシだろう。
盗賊の身包みは剥ごうと提案したら、何故だかラルたちだけではなくライザさんたちにも信じられないものを見るような目をされた。
盗賊たちは殺してでも奪おうと襲ってくるのだ。逆に撃退したら奪うのは当然だろう。相手だってそのくらいの覚悟はあるはずだ。
むしろ殺さないのだから優しい方だろう。
……ハク腹空いてないかな?
盗賊たちは全裸で木に括り付けられている。
縛り付けるときに暴れたり騒いだらして大変だったが、リーダーっぽいやつをぶん殴って気絶させた。
白目をむいていて気持ちが悪い。すると他の奴らが静かになったから、こいつがリーダーで正解だったらしい。
「うるさくしたらぶん殴るからな」
そう言うと盗賊たちは首を大きく縦に振った。
本当はどこかの国に突き出した方がいいのだろうが、近くに国は無いためどうすることもできない。
取り敢えず見ぐるみを全部剥ぎ取っておけば武器もなくなり、無闇に襲うことはできなくなるだろう。
盗賊から手に入れた物を馬車に詰め込み出発の準備が整った。
ラルがこちらにかけ寄ってくる。
「あ、あの……ハーベルス国に来た際には私に街を案内させていただけませんか?」
とてもありがたい申し出だ。是非お願いしよう。
「その時はよろしく頼むよ」
「そ、それと……」
もじもじと言いにくそうにしている。
「そ、その時はお父様に会っていただけませんか? リアム様のことを紹介したいのです!」
……それは別に構わないが、見た感じラルは貴族の娘だろう。俺のような平民が会ってもいいものなのだろうか? まぁ、ラルが言うから平気なのだろう。
「わかった」
そう答えると嬉しそうに顔を綻ばせる。笑った顔はとても可愛らしかった。
「ありがとうございます! では、再会を心待ちにしておりますね!」
そう言って馬車の方へと戻っていた。
俺たちは別れを告げるとそれぞれの目的地に向かって出発した。
世界をまわる楽しみが増えたので、俺は一刻も早く冒険者になろうとアベルス王国へ急いだ。
ちなみに道は間違えていたので戻らなくてはいけない。まぁ、一人の少女を助けられたしよしとするか
むしろこっちの道が正解だったと言っても過言ではない。
遅れを取り戻すように急いだ。
やっとの思いでアベルス王国についたが、俺は門の前で騎士たちに武器を向けられて足止めされていた。隣ではハクが威嚇し唸り声を上げている。
ねぇ……なんで?
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