第4話 天才的発想と最強の狼
師匠に訓練をつけはじめてもらった頃、魔法も剣も才能が壊滅的だとわかった俺は、一番なる可能性が高い《調教師》について調べはじめた。
母さんが《調合師》だが、調合には魔力を使うから俺には無理だろう
調べた結果としては、冒険者としてやっていくにはかなり厳しいということが分かった。
例えば、飛行系の魔物を使って周囲に危険がないか調べて、パーティーメンバーをサポートすることは可能だ。ただ、実力が上がるにつれ魔導士が索敵系の魔法が使えるようになる。そのため、調教師は用済みとなってしまうことがほとんどだ。索敵系の魔法の方が使い勝手が良いのだ。
それに、その方法では冒険者になることが出来ても、一流の冒険者になることはできない
「……強い魔物がテイムできれば良いんだけどな」
魔物が強くなればなるほどテイムすることは難しくなる。そのため、ほんんどの《調教師》は家畜などを育てて生計を立てているのだ。
ふと外を見ると、犬のテリーが牛を誘導していた。
「あいつ、《調教師》じゃないくせにすごいな……」
何気なく出た言葉に思わずハッとする。
そうだ、テリーは《調教師》じゃないのになんで家畜たちを誘導できるんだ?
それだけじゃない、群れを作って行動する魔物たちは、一匹のボスの元で群が作られている。もちろんその群のボスだって《調教師》ではない。
ではなぜ《調教師》にできないのか?
違いは一体なんだ?あいつらにあって俺にないもの……
答えは単純だった。
強さだ。
自然の世界では強いものが生き残り、弱いものは死ぬ弱肉強食だ。なんて単純で残酷なのだろうか……
強者は弱者に従わない。彼らはそういう世界で生きているのだ。
そこで俺は1つの仮説を立ててみた。
《調教師》が強い魔物をテイムできないのは、その魔物が従うに値する力を示せないからに違いない。
なら、従うに値するほどの力を示してやれば良いだけだっ!
そして、従わせたいなら自分がボスになってしまえばいいということに気づいた。
まさに天才的なひらめきだ。
答えのヒントは、すぐ近くに転がっていたのだ!
この日から新たな訓練を始めた。
力を示さなくては……
◆◆◆
目の前の狼に目を向ける。まさかこんな形で試す機会がおとずれるとは思わなかった。これまでの訓練の成果を見せてやる!
俺がお前のボスになる! そして従えっ!
「来い!」
「ガウッ!」
大きく吠えると物凄いスピードでこちらに向かってくる。
鋭い爪や牙が襲いかかってくる。
たしかに速いが師匠のボールの方が速かった。伊達にボールにボコボコにされてない!
獣から繰り出される凄まじい攻撃を躱し続ける。
躱せるがこのままでは埒が明かない。
体力に自信があるがそれは人間としてだ。獣相手に通じるとは思っていない。
このままではこっちが不利だ。
相手の勢いが弱まったタイミングを見計らい、一気に距離を詰め大きく振りかぶり、力の限り拳を振るう。
だが、渾身の一撃も掠りもせず空を切る。
拳は勢いそのまま、大きな岩へと突き刺さった。鈍い衝撃が腕を伝う。
拳を中心に蜘蛛の巣のように大きなヒビが入る。
クソッ当たらない! やっぱり動く相手に当てるのは難しい!
これまでは、止まっている的相手に訓練していたのだ。いきなり動いている相手に攻撃が当たるわけがない。
俺は力任せに腕を引き抜き、向き直る。
速すぎて当たらない。動きを止めなくては……
相手はこちらの様子を窺っているようだ。
その瞳はわずかに揺れ、微かに恐怖が浮かんだように見えた。
それも一瞬、次の瞬間こちらに襲いかかってくる。鋭い牙を俺の喉元に突き立てるつもりだ。
俺は左腕を突き出した。
鋭い牙が腕に深々と突き刺さり血が流れ出る。
「――ッグ」
激痛が腕を走る。
だがこれで一瞬動きが止まった。反対の手で鷲掴みにする。
「捕まえたぞっ!」
腕から引き剥がし、力の限り大岩にに向けて投げつけた。加減はいらない
「オラアァァァァッ! くたばれぇぇぇ!」
体勢を立て直すこともできず、そのまま大きな音を立ててぶつかった。その衝撃でひび割れた大岩は完全に崩れた
「はぁ、はぁ」
腕からは大量の血が流れ、痺れている。
思うように力が入らないため、もう使い物にならない。一発攻撃を当てるのに片腕を犠牲にしていては割りに合わない。
油断はできない。反撃に注意し、崩れた大岩の方を睨みつける。
崩れたことで巻き上がった砂埃が晴れていく。
そこには仰向けに倒れ、こちらに腹向けたエンシェントウルフの姿があった。
動く気配がない。ヒビの入った大岩がクッションの役割を果たしたはずだから死んではいないはずだ。
警戒を怠らずゆっくりと近づくと小さな声で「くーん、くーん」と鳴いている声が聞こえた。
近くに膝を下ろしそっと腹部を撫でる。
触った瞬間ビクッと震えたがすぐに鳴きはじめる。
指が柔らかな毛に包まれる。触り心地は最高だ。
いつまでも触っていたいと思うほどだ。
これはいわゆる服従のポーズだ。俺はこいつに力を示し、認めさせたのだ。喜びと安心で一気に力が抜け座り込んでしまった。
エンシェントウルフは起き上がると、行儀良くお座りした。顔の近くを撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。
さっきまで向けられていた殺気や闘争心むき出しの目が嘘のようだ。
「これから俺がお前のボスだ!」
「わふ!」
肯定するかのように吠える。
すると何かが繋がるような不思議な感じがした。
おそらくこれがテイムした状態なのだろう。
初めてのテイムに成功した。その上、俺の仮説が正しかったことも証明された。これで夢に近づいた。
俺はこの瞬間、《調教師》として、そして夢へと大きな一歩を踏み出すことが出来たのただ。
村に戻ろうと立ち上がろうとして、思わず左手をついてしまい激痛が走る。
「痛っ」
血が流れ出る腕を心配するようにエンシェントウルフがそっと腕を舐める。
「心配してくれてるのか?ありがとな」
「わふ」
腕の怪我を庇いながら俺たちは村へと戻って行った。
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作者と読者の繋がりはなんか憧れちゃいます
(*´∇`*)