第1話 職業
「これから儀式を始めます」
教会の飾りっ気のない部屋で俺は《職業》を授かるための儀式を受けていた。
この世界では、15歳の誕生日を迎えると《職業》というものが与えられる。人々はそれに適した仕事をして生活している。
俺は15歳になり、生まれ育った村から片道5日かけてアベルス王国の教会まで来ていた。
目の前にいる《僧侶》が手のひらをこちらに向け呪文を唱え始める。すると俺を中心に魔法陣が広がる。体が淡い光に包まれる。
頭の中に文字が浮かび上がる。
《調教師》
俺の職業が決まった瞬間だった。
魔法陣が消えると、体を覆っていた光も消える。
「これで儀式は終了です。いかがですか?」
軽く拳を握ってみる。職業を与えられたからといって急に何か変わった感じはしない。
「あまり実感はありませんが、《調教師》になったようです」
僧侶が優しそうな笑みを浮かべる。
「おぉ、素晴らしい職業に恵まれましたね」
《調教師》とは牛や豚、鳥、馬、魔物などといった生き物をテイムすることができる
《調教師》の実力でテイムした生き物たちの成長に大きな差が生じる。
例えば、家畜の出すミルクや肉が上質なものになったり、馬などは足が速くなったりと様々な影響を与えることができる。だから《調教師》になったものは牧場を経営したり、馬車を引く馬の世話を行ったりする。
あらゆる面で生活の役に立っているため《調教師》は割と必要とされるのだ。
「ありがとうございます」
俺が《調教師》になったのは予想通りだった。
《職業》は、個人の才能や能力、また親の《職業》などに影響されると言われている。俺の父親は《調教師》で、村で牧場を経営しているし、俺は子供の頃から動物に懐かれやすかった。
「これからの貴方の人生に幸あらんことを」
俺はもう一度僧侶にお礼を言い部屋を出た。
部屋を出ると少し騒がしかった。教会に来ていた者たちが話している。
「おい、聞いたか?」
「なんの話だ?」
「なんでも世界で4人目の《賢者》が生まれたらしいぞ」
「なに!?」
《賢者》は魔導を歩む者たちが羨む圧倒的な才能を持ち、やり方次第では魔法の深淵を覗くことができると言われている《職業》だ。
また、滅多に現れないことやその力や有用性から、国の発展のために国が大金を払い雇うこともある。
確かアベルス王国にも一人《賢者》がいるはずだ。
今日、この教会で儀式を受けていた人物がもう一人いる。幼馴染のティアナだ。
ティアナは家が隣で親同士が仲がいいこともあり、それこそ物心つく前から一緒にいる。
年々成長するにつれて、その美しさに磨きがかかり、また体つきも女性らしく変わっていった。
今では、村一番の美少女へと成長した。
まぁ、小さい頃から整った顔立ちをしてたし、村の男の子からよく告白されていた。今でもかなりモテているのだが……。
そのせいで、よく一緒にいた俺は村の男子たちから嫉妬の対象にされ、肩身の狭い思いをしていた。幼馴染というだけで理不尽だと思う。
ティアナは容姿だけではなく、魔法の才能を飛び抜けていた。10歳の頃には初級魔法を使えていたし、最近はいくつか中級魔法も使えるようになっている。《職業》を得る前にこれほど魔法が使えるのは異常なことだった。
本来は《職業》が与えられた後に、師のもとで魔法を学ぶことで、魔法を習得していくのだ。
ティアナは、まごうことなに天才だ。
ティアナが《賢者》になったことは驚きはしなかった。俺はずっと近くでその才能を見てきたのだから
しばらくすると別室で儀式を受けていたティアナが出てきた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「気にすんなって、それよりもういいのか?」
ティアナの後ろには僧侶と黒い服に身を包んだ女がいた。
「うん」
「そうか。じゃあ帰るか」
俺たちは教会を出ようと歩き出すと、黒い服を着た不思議な威圧感のある女から声をかけられた。
「ティアナちゃん、さっきの話考えておいてくれると嬉しいわ」
「……」
ティアナは無言で頭を下げると再び歩き出した。
◆◆◆
俺たちは村に帰るために馬車が止まっているところに向かっていた。
街を歩いているとちらちら視線を感じた。
正確には俺ではなく隣にいるティアナが視線を集めているのだ。
整った容姿や光を集めたような美しい金の髪は、自然と視線を集めてしまうのだろう。当の本人は気にしていない様だが……
歩いている間ティアナの様子は少し変だった。心ここにあらずって感じだ。
馬車乗り場につき、馬車に乗ってからもティアナの口数は少なく、何か考えているようだった。
しばらくしていつも通りのティアナにもどり、俺たちは、たわいもない話をして時間をつぶしていた。
「リアムはやっぱり冒険者になるの?」
「子供の頃からの夢だからな」
昔村に来た冒険者の姿に憧れた。
危険を顧みず自らの足で進む姿、魔物を相手に一歩もひかない勇敢な姿に魅了されたのだ。
それ以降、村を訪れる行商人や冒険者から様々な話を聞くようになった。俺の冒険者への憧れは強まり、そしてこの広い世界を自分の目で見てみたいと思うようになった。冒険者話になればその夢も叶う。
「《調教師》になってもその気持ちは変わらないんだね」
「確かに《調教師》は非戦闘職だけど諦めるつもりはない」
一般的に冒険者になるのは《戦士》、《魔術師》、《狙撃手》、《騎士》などの戦闘職の者がなる。例外として《治癒師》は非戦闘職だか冒険者をしている者もいる。危険を伴う冒険者には回復役は重要だ。
「それに、《調教師》だったとしても冒険者になれるように準備してきたから平気さ」
「そっか、リアムはやっぱりすごいね……気持ちの整理がついたよ。ありがとう」
そしてティアナは笑った。向けられた笑顔に思わず見惚れそうになり、慌てて視線を逸らす。
「なんだよ急に」
「ううん、なんでもない」
ティアナは、なんだか吹っ切れたような顔をしていた。
「婚約者と親友に裏切られ、S級パーティーを追放された勇者。地位も名誉も何もかも失い、人生のどん底に叩き落とされる」そんな物語の主人公に転生した俺は、どうすればいいですか?
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