褒美だって下賜先は選びたい
お読み頂き有り難う御座います。
ご褒美で下賜される立場のお姫様が騎士の申し出をお断りする話です。
時代背景と設定をしっかり考えてませんので、部屋を明るくして心を広くお読みくださいませ。
「どうか、この苦難を乗り越えた先には……末の姫様を賜りたく」
眼下には、跪く我が国きっての……美形騎士、パルトフェ。
別名、甘き花纏いの騎士。
背後に花びら散らして歩いてそうっていう渾名だそう。
そのふたつ名の通り、彼が通り過ぎると、男女問わず老いも若きもうっとりと頬を弛める。
まるで、甘い美しい花が花びらを撒き散らしたかのように。
性格も清廉潔白と名高く、人当たりも良く、この国随一の強さ。
そんな誰もが愛する騎士が、シュガール姫を求め、降嫁を願っている。
そのラッキーな姫は誰だ!?その姫はだーれ!?
私だ!!
顔面偏差値のお高い騎士に、望まれた姫君!!それが私!!
いやー!悪いね!人生超勝ち組でしょ!!ハイライトバッチバチに浴びててさ!
派手な兄王子達に比べ、地味な背景系王女と言われ続けたこの人生!!
ハーッハッハハ!者共ザマアみたか!私を地味系と侮った奴等め!精々悔しがれ!と、高笑いしたいところだけれど。
私の心は凪いでいる。
この場の誰より冷静だ。
チラ、と、横目で窺うと……国王陛下である父上や、母上は顔には出していないものの、テンションが爆上がりなのが見てとれる。
こんなイケメン好青年に娘が望まれてて、やったな!みたいな視線をチラチラと感じる。
親だから分かるし、感じ取れた。
お兄様達は戸惑ってるのが大多数、ニヤニヤしてるのが少数……。
滅多に集まらない視線が、今日ばかりは私を一斉に貫く。
ハラハラ、嫉妬、ワクワク……その他色々。
目立たない王族として有名な私でも、視線には慣れている。
でも、一番強いのは……右目が緑と左目が紫に彩られる、この国で一番憧れた視線。
イケメンは眼差しの光まで美しく凝っているんだな、とボンヤリ思った。
この瞳に見つめられたら、大概の女は靡くかもしれない。
だけど………。
「私を褒美に、ですって?不敬だわ?そんな者に嫁ぎたくありません」
誰もが期待したリアクションを取らず、私が放ったのは、拒否一択。
私はその場が凍りつくのも構わず、父上と母上にカーテシーを披露し、さっさとこの場を去った。
その日の新聞は『背景系王女殿下があの甘き花纏いの騎士を一刀両断』だったらしい。
私は心が広いので、民に殺人事件が巻き起こったかのように流布する新聞社の局長の出頭を通達しておいた。
後、情報統制を破ってまで情報を流したであろう人物全員と面談予定。
貴族しか居なかったとは言え、公衆の面前でイケメンを振ったことになる。私はそんな可哀想な奴の立場と面子を守ってやろうとする、少し地味だけど慈愛深きカリスマ王女。その温かみ溢れる心を解っていない。
勿論お話し合いで考えを改めて貰い、拒むなら別の手を考えるまで。
勿論私はイケメンが好き。
でも、あんなことを言い放ったのには理由がある。理由がなきゃふたつ返事でOKしていた。
国内や他国とのパワーバランス?知らん!そんなものは兄王子がすりゃいい。5人も雁首揃えてるんだから勝手に考えなさい。
甘やかされるポジショニングの末っ子お姫様に生まれたんだから多少いい思いをさせろっての。
不届き者のせいで叶わなかったけどね!
ああ!不愉快!
慌てふためく侍女や護衛、女官を引き連れて自室に戻った私の機嫌は最下層を更新していた。
私の甘やかなフワッと系人生設計を崩す不愉快の始まりは、それはあの謁見が始まる2時間前。
「未だ達成しても無い王命に、御褒美など……烏滸がましい。それに、俺には分不相応です、殿下」
「あの子、お前が好きだったみたいなんだ。だからどーしても思い付かなきゃ、今度の褒賞はあれを望んではくれないか。ホラ、絶対盛り上がるし」
「そんな適当な……」
私だって、この会話をベタに廊下で聞かなきゃ、テンションが爆上がりして高笑いも辞さなくてお断りもしなかったわ。
まんまと騙されて「イヤーンイケメンに求められちゃったあん!私の時代が来た!!お姫様である私を褒美に貰いたいですなんて、流行りの本みたい!イケメンに溺愛されて愛に溺れる日々!?」と後で悶え苦しむ所だったの。
現実は厳しすぎたけどね。
夢見る暇もないし、ネタバレがひでーよ!!なこの会話。
滾った血の気もすっかり覚めるし、頭は冷えた。
しかも!
アイツ、私のこと……全く何ともこれっぽっちも思ってないトーンで話してたわ。
一応お兄様と友達だったから小さい頃からの付き合いで分かる。全然興味ナシな時のトーンだった!!
あれは、間違い無く!
上司で友達のお兄様に頼まれたから、渋々仕事の延長線上で言いやがった!特に欲しいものも無いし安請け合いの声だった!!
溺愛は、愛がないと生まれない。
イケメンの為にマゾを始めてお情けの茶番にお付き合いする気は無いのよ!!ふざけんな!
アマタお兄様は余計な御世話を繰り出した罰として、女官に今も健在な変な寝言集を流してやる!!
「姫様、あの、騎士パルトフェが、その」
次の日。
女官のマトリナが顔を真っ赤にして取り次ぎをしてきた。
職務上の会話したくらいで顔を赤らめるとか、ネタなの?勘違い系女子なの?
前までは一緒にキャーキャー言っていたが、心境は変わるもの。時代は移り変わる、きちんと時勢を読まないとね。
後、お前現場に居たわよね。憤慨してたわよね。
顔見たら絆されてるの。所詮お追従だったのね。
「王女の私を断りもなく物扱いした詫びなら受け取らないわ」
「そ、そんな!真摯に反省してらっしゃいましたよ!」
「何で大して交流も無いのに真摯とか分かるの。お前、事件当時現場に居たわよね」
「そっ、れっは!ですね!きっと、悪気は無くておいでで……」
イケメン無罪派か、マトリナ。嘗て私もそうだったけど宗旨変えしたのよ。最早過去の光、あの純真は戻らない。少し寂しいけど弱点が減ったということね。成長よ成長。
「悪気は無くて反省したからなんなの?上司のアマタお兄様へのお義理よね?褒美思い付かないし、頼まれたし、あの姫様下賜されてやるかー、よね?
ボランティア精神を発生させた奴に悪気は無くて当然でしょう」
「………お義理、です、か……?」
立て板に水でツラツラとあげつらってやったら、マトリナは脂汗を流している。
「大体思い付かないなら、褒賞金を貰って寄付でもすればいいのに、慮外者」
「…………申し訳、御座いませんっ………!?」
…………涼やかな低音が私の機嫌を降下させてきた。
何故此処に来たの?
バカ野郎なの!?
睨み付けてやろうとしたら、どんっ、と大きな物音がして……。体勢を崩した人影が見えた。
「!?」
「誰なの、この私の居室近く迄侵入者を入れたのは」
ナイス、護衛。
よくマイルームへの侵入を阻んだ。
どうも、許可無く入り込んだ愚か者を突き飛ばしたみたい。
視線を走らせると狼狽える侍女の他に……もう一人の護衛がビクッと肩を揺らしてる。
おーまーえかー!!イケメンにタラシ込まれたチョロ護衛はー!!
男同士でもタラシ込めるのね!?その顔にその魅力、怖いな!
「彼を叱責なさらないでください、姫様」
「職務違反を叱責するのは当然でしょう。お前は部下の権限以上のことを融通するのは罪だと咎めないの?関係者以外立ち入り禁止の場所に許可無く部外者を呼び込むのは職務違反でしょう。目撃した場合、まさか上に職務違反を報告しないの?微罪だと軽視しているの?」
「………とが、めます」
だったらするな。こういう融通を幾つも利かせて来たんでしょうね!!イケメン怖いな!その苦痛そうな顔もいいな!つい長々と喋っちゃった甲斐が有った!!
「マトリナ、お前もこの侵入者を引き込むのに手を貸したのね。残念だわ。職務規定違反でお前も牢に入っていなさい」
「えっ!?あ、あたしもですか!?そんな!姫様、此れぐらいの事で!?だって何時もは」
「お待ちくださいシュガール様!!」
肩を揺らさなかった方の護衛をチラリと見た。
灰色の髪の、眼光鋭い男。……名前何だったかな、思い出せなかった。
こっちは肩が動かなかった方か。
入る前に留めたから一応私の心証への合格としてやろう。
「私の浅慮が心優しい貴女を、此処まで怒らせてしまったんですね」
「目立たない私への慈善行為の事かしら」
「そんなことを思ったことは御座いません!」
優しげに顰められる瞳がまたイケメン!!
甘ちゃんを言いくるめるのも得意そう!
言わないけどね!!未だ他の侍女も護衛の目も有るところで迂闊な事を口には出さないけどね!!
おおコイツ見てたらイライラする。お外でも見よう。
向こうの庭園に、白と紫と薄いオレンジの塊が見える。
アレは……ヒヤシンスの花かな。
「今はヒヤシンスが盛りね」
「姫様はヒヤシンスがお好きで?」
おおっと、つい鼻で笑ってしまった。褒美に貰おうって位好きってパフォーマンスしたいなら、その女の好きな花位リサーチしとけっての!
私はヒヤシンスと言えば思い出しただけだ。
「貴方やお兄様達が彼処で佇んでいれば、さぞかし道行く人々は盛り上がり、うっとりするでしょう。
でも私が居たところで、置き忘れのバケツくらいの眼差ししか向けられないわ」
現実にね、有ったのよ。子供の頃にね。
コイツ、ヒヤシンスの庭園で王子と姫を連れてこいって呼びに来た奴等の中に居たんだけど、全員私だけスルーだったし。
お兄様達だけ連れていかれたのを、後で乳母が悲壮な顔で抱き上げて連れていってくれたんだった。あの時のその場に居た全員の微妙な顔は忘れまい。コイツは忘れてるみたいだけど。
あっ、思い返すと結構な扱いしかされてない!
キャーキャー言ってた日々が恥ずかしい!
「………置き忘れ……」
「お前の私に向ける視線は、過去からずっとそうだったと言っているのよ」
流石に歳を重ねるごとに護衛も連れ歩く侍女も増えたから、スルーされることは無くなったけど!
そういやスルーの後、お菓子とドレスと花攻めに合ったのは記憶に古い。
……送り主は……もーちろん、お兄様達と両親だったな。コイツを含むスルーした奴等からは紙切れ一枚届かなかったし。
やだもう、思い出したら可愛さ余って憎さ無限大!百倍程度じゃ無いんだわ!
「国境の暴れウニ退治だったかしら。数多の騎士達が弱らせた上前をハネるお仕事ご苦労様。無事帰ってきたら、私への不敬の罪の為に牢屋に入れてやるわ、さっさと下がりなさい」
…………返事がない。
何で?
そんなにショックなの?いやー、イケメン様は地味王女の言葉ぐらいで凹むメンタルお持ちじゃないでしょう
未だ無い。
そろそろっと後ろを振り向いて見ると……。
………ほーらね!やっぱり居ないよ!
至らない私にキツく言ってくださる姫様を……好きになりました!とか言う展開になる訳無いよねーーー!
はあガッカリ。勝手にショック。
イケメンはメンタルも強いのか!!密かに凹んで涙目とか見たかったのに!!怒りは未だ晴れないけど、そうそう割りきれない複雑な乙女心!
「………シュガール姫様」
「直ぐ様警備を厳重にして頂戴。己の主を危険に売り払う輩は」
「それは上奏致しましたが、そっちではなく」
「何よ」
もう一人の護衛……背が高いわね。首が攣りそうよ。
「あの甘ちゃん騎士が物凄い笑顔で跪いた上に軽快な足取りで帰っていきました」
「………そう、あの程度で許してもらったと思っているのかしら。勘違いさんには極刑を用意しておきましょう」
おっと!怒りが溢れてしまうじゃない!残りの侍女がちょっと震え始めたけど、仕方ないわよね!
「シュガール姫様……」
「未だ何かあるの」
「あの者が上前をハネる為に退治しに行くのは、ウニでなくワニです」
「………そう」
コイツ、この空気で訂正するたあ結構ないい性格してるわね。面構えは一見強面だけど、よく見れば……地味なりに整っているかも。
暗い灰色の目も、燻されたみたいな銀髪も悪くはないわ。
「お前の名前は何だったかしら」
「ジャンと申します」
あーそうだったそうだった。
王族の護衛に抜擢されたんだからいいところの出なんでしょうね。
「………置き忘れたバケツは、明日の作業の時に取りに行かずに済んで楽だと思います」
「……?」
「私はそう思います」
「………お前、実はモノグサな性根なのね?」
そして私もモノグサなので、超同意したくなるな!
「………否定は致しません」
「分かるわ。行く方々に道具がある方が便利よね。ひとところに固めて保管するのは便利なようで不便」
「分かりやすく保管するのは大事ですが、使い勝手が良くてこそだと思います」
………この護衛のジャンとの色気の無い会話を、心配したお兄様達がご機嫌伺いに来るまで20分も話し込んでしまった。
「なあ、シュガール。何がそんなに気に入らなかったんだよ」
「アマタお兄様に媚びる為の、接待御褒美役なんかお断りですわ」
「おまっ……!!僕は良かれと思って!!」
「妹が喜ぶとぬか喜びなさったお兄様の偽善者、要らんこと吹き込み王子」
何よその傷付いた顔は!!腹立つな!
勝手に傷付きやすい乙女の妹を無理矢理部下に押し付けようと、褒美に推しといて!このパワハラお兄様!
「お前、イケメンが好きなんだったら、いーじゃないか」
「そしてお人好しの彼は、お兄様に頼られたらその親切心で実入りのない領地を増やしたり愛人を増やしたりするんですね」
義理で受けとるご褒美になったことも無いのに、御勝手なことを抜かすヴィータお兄様。
所詮身内と言えど、男女の溝は深いのよね。殿方の味方は殿方よ。分かり合えないわ。
「………妹が怖すぎる!そんなことさせないよ!」
「女の子はいつの間にか口が達者だね……。この短期間で苛烈が過ぎやしないかい?」
「何でそこまでヒネくれる!?何時ものキャピキャピ可愛いお前は何処へ!?」
「パルトフェは良い奴だよ!ちょっと変わってるけど」
「あっ、照れてる!?パルトフェが好きなんだろ?素直になりなさい」
喧しいわ!
大体、全員で押し掛ける必要有る?
幾ら王女の部屋が広くても、5人も殿方が居ると暑苦しいわ。
むさ苦しいお顔立ちでなくても、身内からするとむさ苦しいわ。
朝まではそう思わなかったけれど、グングン不快指数が高くなってきたわ!
「お兄様方、前までそう思わなかったけれど、むさ苦しく思えてきたわ。もう私の部屋に押し掛けないで。部屋が臭いそう」
殿方の味方な殿方なんて嫌いよ。イケメンに媚びてミーハーな女も嫌いよ!過去の行いは悔いて忘れるわ!!
叩き出させたお兄様達が半泣きになってたとお母様からお叱りが有ったけれど、知らないわ。
大体、何時も放置気味な癖して、たまりかねてキレたらご機嫌取りに無駄に集まるって、ワンパターンなのよ!
家族晩餐もボイコットよ!
そして、騎士パルトフェはワニ退治を成功して帰ってきた。散々冒険者が叩いた後だから楽勝らしいわよね。
ワニと、ワニを倒す為前座にされた冒険者が可哀想。
最早アンチ騎士パルトフェの、親ワニ・冒険者派になろうと思うわ。ワニでも飼おうかしら。
そして性懲りもなく行われる奴を讃える為の式典。
勿論私は式典をサボった。
こっそり抜け出すのは得意なのよ。背景に溶け込むテクニック、とくとご覧に……入れてるのは護衛くらいだけどね!
「また性懲りもなく、シュガール姫様を褒美に望んだそうですよ」
「しつこいのね」
逃げられた経験がないから追いかけたくなったのかしら。
ジャンの差し出してきたお菓子を齧る。
うむ、砂糖のジャリジャリが美味しい。何処で売ってるのかしら。偶にコイツは物珍しいお菓子を私に寄越してくる。こういうふたりきりの時にだけ。
「叱責されて己の罪に気付き、贖罪と愛に生きたいそうです」
「神官にでも転職して、お布施をがっぽり儲ける生き方すりゃいーんじゃないの」
あの美貌なんだから神官になりゃ、ストイックさが素敵ー!とかで更にモテモテだろうな!ははん!
若い私は、最早私をぞんざいに扱ったイケメンよりも、お菓子に夢中なのよ!
男より甘味だ!幾ら顔が良かろうと、無神経な男なんて永遠に分かり合えない!
甘味は全ての乙女を裏切らない!甘味こそ永遠の癒し系恋人!!甘味こそ全ての傷付きやすい乙女を優しく包み込むスパダリなり!
もう私、スイーツかデザートと結婚する!
「妹がバカ食いで太りそうだ」
「アマタ兄上が余計な事を吹き込むから!!」
「どうしたら良いんだ。俺は良かれと思って!!」
「シュガール!!出ておいで!!アマタとパルトフェを殴って良いから公務を頑張ろう!」
「縁談も有るよ!命令でもお義理でもないよ!」
5人もお兄様が居ると煩くてしょうがないわね!
「暇な時に構いに来る程度の末っ子なんて放っといてよ!」
新聞には『傍若無人姫シュガール様のワガママスイーツな日々』との見出しが躍っていた。
良かろう、喧嘩を売りたいのね。
受けて立ってやるわ!!
新聞社との攻防戦も激しくなってきたとある日。
私はとうとうスルーを決め込んでいた両親に呼ばれた。
「シュガール、いい加減になさい。王家の姫ともあろうものがこの醜態。どうするつもりなの!!騎士パルトフェの事も考えなさい!」
「じゃあ、嘗て隣の国の従姉姫と殴りあって負けて婚約者を奪われたお母様は、ナメられたままにしろと言うのね。王家が臣下に膝を折れと」
…………空気が凍ったけど知るもんですか!私よりパルトフェの立場を庇うからよ!
何故かお父様は微動だにしないけど、もしかして初耳だったのかしら。
「…………言葉遣いを直しなさい」
「お母様が昔から仰っていたのよ。殿方はプライドをへし折って付け上がらせるなって」
「それは、不実な者への対応よ!!完膚なきまでにへし折ってやったわ!」
あらやだ。お母様の気迫にお父様が怯えているわね。
「兎に角、あれから彼は悔いてシュガールを心からお慕いしている、貰い受けたいと上奏し続けているのよ」
「興味無しからそんな短期間でお慕いされていると掌返されても困るわ。お母様だってフラれて直ぐのお父様の婚約申し込みを未だに信じられないって仰っていたのよ」
「妃!?」
「あれは心が弱っていたのよ」
「兎に角、私に無関心な美形より、愛する甘味に人生を捧げることにするの。病を得て儚くなったら城の見える丘に甘味の墓標を立てて葬って頂戴」
甘味を愛する儚き王女、此処に眠る……。完璧だわ。
このセンス、詩人も真っ青ね。
でも、騎士パルトフェはそれからと言うものの。
「シュガール姫様を褒美に賜りたく!!」
何かあればそう申し出るようになってしまった。
私に嫌がらせをしたいの!?
「後生なのでシュガール姫様にお目通りをお許しください!!」
「いや、もういいよ。私達が余計な事をしたせいで、シュガールは最早家族を無視するようになってしまったんだ」
「何を連帯責任に持っていってる、アマタ。主にお前のせいだ」
「痛いですよ兄上!」
何故私は殿方達の駄弁る現場に居合わせてしまうのかしら。て言うか室内で喋りなさいよ!!
でも聞き耳を立ててしまう私……。騎士パルトフェは声まで良いんだもの。
…………憎さも怒り続けるのもパワーが要るのよ。
元々はキャーキャー声援を送る程ミーハーしてたんだもの。こっそり聞いちゃえ!
「確かにあのお申し出を受けたのはお義理でしたが、久々にお目にかかる姫様があまりにも美しく苛烈に成長されていて、いやー、幸運だと思ったんですよ」
…………あれ?何だかノリが違うんじゃない?
もっと勿体ぶった喋り方をしてたわよね。後、私のこと美しいって言った!?
「でもお前、私の提案に全然熱が無かったじゃないか。出世に繋がりゃいーかなーみたいなノリで」
「そして苛烈にって何だ。お前、あの怖すぎる本性の妹が趣味なのか」
怒らせるからでしょうよ!!
サートお兄様、後で怒りのお手紙を送ってやるわ!!
「勿論、私は出世したいですよ。だって幾ら持て囃されようが、私なんてたかが侯爵家の三男ですよ?兄より優れていようが美貌だろうが、継ぐのはあの兄です」
えっ、何なの!?このナルシスト発言は。
騎士パルトフェってこんなひとだっけ!?
「どうせ出世するなら、苛烈なあの姫様が待っておられる家に帰る為、世間の荒波を越えて行きたいと」
「流石完璧の皮を被った出世命変人の発想は違うな」
「苛烈な美女、大変宜しいですよ!正直子供の頃は置き去りにされても何にも言わないボーッとした子だなあと思ってました。ですが、ちゃんと覚えておられ、牙を剥かれたんです!実に震えました!」
…………………。
ヤバイ、かなりの危ない奴だったわ。
よく考えればあのお兄様達と長年ツルんでるんだから、完璧な善人な訳無かったのよ。
子供の時の話、覚えてて……しかも!!ワザと置いてったのか!!
そして、お兄様達もグルで!!
「今回も、ボーッと忘れてくれるかなあと思ったんだがなあ」
「あのボーッとさが可愛いんだけどなあ」
「ボーッとしてる内面が苛烈なのがたまりません」
ふざけんな!!
結局悪口じゃないの!!
「な、何て奴なの!!」
しまった。
口から思わず本音が漏れ出てしまった。立ち聞きがバレた!!
そしてパルトフェの視線がばっちりと此方に!!
「シュガール姫様!!お会いしたかった!」
私はお会いしたくなかった!!
だがその輝く笑顔はとてもいいな!腹立たしい!
「どうか、私と婚姻を!!貴女の愛と出世をください!!」
腹立たしいーーー!!
「本音を誤魔化そうとする位しなさいよおおお!!」
「聞かれちゃいましたよね?」
何その態度!!でもカッコいい!
お兄様達の方がアワアワしてんじゃないの!!ふざけんな!!
「お、お兄様達に今まで通り媚びればいいでしょ!?」
「失礼ですよシュガール姫様!我々は対等な友情を築いております!その危うい均衡の中、他人に気づかれないよう出世を約束してほしいと仄めかすのがどれだけ大変か御存じでない!?」
「出世を堂々と願い出てるの!?お兄様達に!?」
「隠し事なんて対等な友達付き合いじゃありませんよ」
「尤もらしく言う!?」
「大体、友達の年の離れた妹って普通あまり興味を持ちませんよ。遊び相手にもならないし」
「本音が出たわね!?」
「そうです、本音で語り合いましょう、シュガール姫様。私を知ってください。私の夢は出世。実は苛烈と判明した貴女が好きです」
「…………」
嬉しくない!!う、嬉しくないわ!!口説かれているのに、ときめくわ!
けど嬉しくない!!
私は下がって護衛のジャンを見た。
た、助けて!!助けてくれるんなら、惚れちゃうかも!!
………。
「あ、ジャンは既婚です。貴女が更迭された女官の夫です」
「何だと!?」
マトリナの事!?結婚してるのにあのミーハーさ加減なの!?
いや、仕えてくれてる者の婚姻関係をボケッとスルーした私が悪いの!?
酷いネタバラシじゃないの!!訴えてやる!!
「貴女の苛烈さと王位継承権が有れば、私の行く手を阻めない!」
「義理じゃなくて出世の道具扱いなのね!?そんなの嫌に決まってんでしょ!!乙女心を何だと思ってんのよ!」
「大丈夫です!出世はあくまで私を厭う家族への意趣返しです!乙女心は指示を出していただければ理解します!きつめにお願い致します!愛は相互理解にて生まれましょう!」
「私を巻き込むなあっ!!」
「………何だ、意外とシュガールも満更じゃなさそうだな」
「目線を片時も離していないしな」
お兄様方のバカ!!乙女の秘密をバラすなあ!だから顔の割に残念だって他国の姫君達に評判なのよ!!
「シュガールは顔目当てで、パルトフェはいびられつつ出世目当てか」
「何て理由だ。面白すぎる」
「おおお面白くなんかないわ!!絶対、絶対ご褒美になんか……私だって、下賜先は選ぶんだからーーー!」
「シュガール姫様ーー!」
私はダッシュした。淑女らしくは無いけど、走らずにはいられない!!
パルトフェの意外な一面にドキドキしたのと、腹立たしさと!!
居たたまれないのよ!!!
完璧超人ぶりをキャーキャー言ってたより、ちょっとダメでおかしい方が……可愛くてキュンって来て、ときめくだなんて!!
認めないわ!!
出世の為だなんて……結構外道な事を言ってるのよ!!
「シュガール姫様、顔が目茶苦茶緩んでおいでですよ!はっ、さては私にときめきましたね!」
「伴走するなあっ!!」
今回は追いかけてきたのが嬉しくなんて、有るけど!!
数ある素敵なお話の数々の中から今作を読んでくださったあなたに感謝を申し上げます。
数多のご評価に感謝を込めて、続きが出来ました。
ご褒美は頼もしくて可愛い。
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