放置、孤立
遡れば一ヶ月も前、セイラを含めた三十数人の男女がこの世界の地に足を付いたあの日の出来事。
オカマ───基ヴェロニカにこの世界の有り様を告げられた後、少年少女に待ち受けていたもの、それは言わば『放置』であった。
使命、理由、その他諸々の情報を雑駁に説明された次に彼等に与えられた物は小袋に入った少しの金と長剣か二本の短剣、この街の簡易的な地図、そしてこの酒場から探索者訓練施設宛の招待状だった。
それ等を持たせたヴェロニカは無慈悲にも彼等を店の外へと追いやった。
この世界に対して無知蒙昧である彼等に何の補償も無く、又行く先を示す事もなく前の見えない世界へと解き放ったのだ。
逃げ道は無く金も無い、崖っぷちに立たされた少年少女等はまず真っ先に徒党を組んだ。
有用そうな者の下に付き導いてくれそうな者の背を追い掛けた。
戸張セイラも大多数と同じ行動を取る。
顔の整った如何にも体育会系ですと言わんばかりの男にパーティーに入れてくれるように頼み込んだ。
男が快くセイラのパーティー入りを認めたかと言われれば
「───あ、君?鈍臭そうだからいらないや」。
結果はノーだ。
「ねぇ、鹿島くぅん早く行こぉ」。
「あぁ、ごめんごめん、それじゃ」。
パーティー参加、不参加の権利は統率者にある。当然そうなれば余る者もいて、必然的に孤立していった。
ざけやがってこのキザ野郎、人でなし、ヤリチン大魔王。
死にたく無い、すごく。じゃあどうする、単独でやるか?、無理だ俺は黒くも無ければ剣士でも無い、死ぬ、三日で死ぬ。泣けてきた。
「───鈍臭そうなんて酷い事言うよねまったく」。
「ほんとだよ、どういう育て方したらあぁなるんだよ」。
「でも彼は余り利口じゃない、大人数で組むのは俊敏性に掛けるし女の子と一緒だとお金が余計に掛かる」。
「頭の悪さが顔から滲み出てるぜ……ん?」。
「ん?」
「どうしようか、戸張君、僕達二人だ」。
「……桐原……さん」。
「どうしたのそんな泣きそうな顔して」。
小首を傾け不思議そうにする桐原レイトを前に既まで出掛けた鼻水を啜った。