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野望

「セイラ、テメェの肉ちょっと俺よりデカいじゃねぇかよこせ」。


「ふざけろ、ガキか」。


「だったらよこせよ」。


「絶対にやらん、これは俺のだ」。



「ちょっと二人とも、ヨウタは怪我してるんだから暴れないでよ」。



ゴブリンが出没した岩場を少し離れた大木の木陰に腰を降ろした。少しナイフを掠った陽太を『聖職者』のレイトが手当てしてそのまま飯にした。少し湿った地面はヒンヤリとして少し肌寒い。木の幹の腐った匂いが鼻をつくし、虫がブンブンと耳元を飛んでいる。でも、そんな事、温かいスープを前にしたら少しも気にならないのだ。


じゃがいもと玉ねぎと少しの肉、たったそれだけのシンプルなスープが今の彼等にとっては御馳走にも感じた。


疲弊しきった身体、ゴブリンという人にも似た生物の殺生によってすり減った心、それらを温かいスープは癒した。


「ごちそーさん、やっぱこれだけが至福だぜ」。


死ぬ気で(物理的にも)頑張って報酬は寝床と具の少ないスープ。それでも飯だけを楽しみに生きて、今日を生きて、見えない明日なんか気にせずに今生きる事だけを第一に考える生活。


「なんか俺達………社畜みたいだな」。


セイラはぼやいた。


「はは、それ言えてる、僕達社畜みたいだ」。


仲のいい中学生同士みたいに互いに笑い合う。


「おいおい笑ってる場合じゃねぇぞ、俺はこんな所で止まってる気はねぇんだ」。


「んな事言ったってよ、具体的にはどうするんだよ、今でも日銭稼ぐので精一杯だぜ?」。


「んなの簡単さ、俺様がパパっと聖騎士(パラディン)になるだろ、それからドラゴンぶっ飛ばして、豪邸建てて、両手に女でハーレムさ。それからそれから…」。


「全人類がお前くらいバカ(気楽)なら世界は平和だろうな」。


「褒めてもなんもやらねぇぞ」。


(けなしてんだよ)


「愚痴ばっかたれやがってお前等にゃ野望とかねぇのかよ」。



「野望、野望ねぇ、うーん……生きるのに必死でそういうのは考えた事も無ぇな」。


「ンだよつまんねぇな、お前はどうなんだボクト何かでっけぇ野望はねぇのかよ」。


「僕は……」。


少し言葉に詰まって、唾を飲み込む。


「僕は美味しい肉が食べたい」。


普段無口なボクトが顔を俯向けながら少し恥ずかしそうに思いもしない野望を口にする。


「はは、何だそれ、良いな」。


「うわ喰いてぇなー」。


「今はお金が無いもんね」。


「ぼ、僕タンが好きなんだ、分厚いタン、それをこうシチューにして…」。


「俺、砂肝」。


「爺臭ぇなセイラ」。


「は?うめぇだろ砂肝」。


「肉っつったらカルビだろ、やっぱ」。


「ガキ舌」。


「あぁん、なんか言ったか、テメェ」。


「ちょちょっと二人共喧嘩しないでよ」。


「知ってる?酒場(オッドポール)の裏メニューの話」。


「「「何それ」」」。


ヴェロニカ(マスター)が秘蔵してる昇天する程に美味いって肉の話」。


「何だそれ、色々と大丈夫なん?」。


「ヒャッハッハッハ、あの見た目だもんな【ポイズネススコルピオ】とか拾い食いしてそう」。


「ちょっとヨウタ君、聞かれてたらただじゃ済まないって!!」。


焦った様子でボクトが止に入る。


「分かってる……それはオレも分かってる」。


「それでねそれが凄く柔らかくて、噛み締める度に肉の旨みが口に広がるとかで……」。


その場にいた全員が唾を二度三度飲み込む。


「辞めだ辞めだ、腹が減ってしょうがない」。


「で、でもさ、本当にあるなら食べてみたいよね裏メニュー」。


「そーだなぁ食べれると良いなぁ美味しいお肉」。



「じゃあさこれを一先ず僕等の目標にしない?前々から何かしら統一した目標が欲しかったんだ、どうかな?」。


「異議なし」。


「良ンじゃね」。


「うん、賛成」。




『上手い肉を喰う』俺達、第五班はこんな些細な事を目標に今日も生きる。










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