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八日目の白星

宛のない焦燥、緊張、大粒の汗が一滴、風にのって流れ落ちる。


慣れない腐葉土と森林独特の青い匂いが一行の不安を余計に煽った


「セイラ、右斜め後ろ、北の方角、弓ゴブ一匹回避して!!」。


深い森、ジメジメとしていて足を取られやすい湿地、小さな丘を挟んで一匹のゴブリンと対峙した。


セイラが振り向くとほぼ同時に放たれたゴブリンの矢が風に煽られてすぐ横の足元にグサリと刺さる。


「あっぶね!!」


「へっへぇ!!やーい、外してやんの!!」。


足が後数センチ横にずれていたら、今俺はここに立っていないだろう。

ゾッとしてツバを飲んだ。しかし、今怯えている場合では無い、3秒前の攻撃は生き伸びた、2秒後には死んでいるかもしれない、この世界はそういう世界だ。


呼吸を整え習った通りに手汗で滑る右手で弓を構える。


「おい、ヨウタ!!無駄口叩いている暇があるなら攻撃するんだ、前衛職はこのパーティに君しかいないんだぞ!!」。


「かっかっすんなってマジメ君、この聖騎士(パラディン)ヨウタ様が醜い鬼を薙ぎ倒すッ!!」


「お前まだ剣士(フェンサー)だろ」。


「細ぇ事は気にしねぇのが俺のポリシーッだ──あれッ」。


滑りやすい石場に足をとられたヨウタの振り下ろした剣はゴブリンとは明後日の方向に通り過ぎる。

セイラの放った矢も機敏に動くコブリンに軽々と避けられてしまった。


「ダメだ手が滑って思う様に飛ばねぇ」。


「GAAAARRRRRYY ‼」



キモチの悪い雄叫びを上げて、体制を崩したヨウタにボロボロのナイフを振り下ろす。


「う、うわァァァァ!!」。


「───守護障壁(ボーテルクス)!!」。


ボーテルクス──重装歩兵の初級魔法だ。


ボクトの大盾がゴブリンの刃から陽太を守る。


「は……はっはっは、中々やるじゃねぇかボクト」。


「ボクト!!大丈夫か!!」。


「僕、昔アメフト……やってたから」。


「ヨウタ、攻撃!!」。


「分かってんよォ!!」。


大きな盾に怯むゴブリンを拾った剣で盾の影から一直線に突き刺した。


藻掻き苦しむゴブリン。黒く淀んだ血液がドバドバと溢れ出し獣の様な断末魔を挙げる。


小心者のボクトは目を反らし強情なヨウタも流石に引いている。


バタリと動かなくなったゴブリン、森には気色の悪い声は無く風が木々を掠める音だけが聞こえた。


「いっよっしゃぁぁ俺の勝ちだ──」。


「────ヨウタ危ない!!!」。


桐原レイトが叫ぶ。


後ろのゴブリンが残った余力でヨウタに向けて弓を引いている。絶命したかと思われたゴブリンは生きていた、殺された人間達に一矢でも報いる為に。


ただ臆病なセイラは熟知していた。ゴブリンに擬死の集成がある事、首をはねない限り絶命するまで襲ってくる事も。


手が滑って飛ばないんだったら、足を使えば万事解決だろ


「───ヨウタしゃがめ!!」。


咄嗟の声にしゃがむヨウタ、しゃがんだと言うよりはコケた。


足に弓を括り付けた。岩に足を固定して目一杯、弦を引く。


次の瞬間、ゴブリンの矢とセイラの放った矢とがお互いを掠める

。固定砲から放たれたセイラの矢はコブリンの矢を粉砕しヨウタのすぐ頭上を通過してゴブリンの頭に吸い込まれる様に射抜く。


脳天を貫かれたゴブリンは脳漿と血液を勢い良く吹き出しながら絶命してその場に倒れて。


「はぁはぁはぁ……当たった」。



こうして、俺達は探索者訓練施設(シーカーキャンプ)を出ておよそ八日、初めての白星を上げた。

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