群青色の世界
ボヤけた視界が鮮明になり始めた。
途切れた意識が覚醒すると瞬間の情景が頭に流れ込んでくる。
酷く湿気ている、それに真っ暗だ。
ひんやりとした風が首元を撫でる。身震いがして後退りすると足元に生温かい何かに躓く。
「グヘッ!!おい、誰だ今踏んだやつ!!」
───俺だ。
そっと立ち上がり何も見えない空間を闇雲に弄る。
「キャッ、誰よ!!今触ったの」。
───俺だ。
手の甲に触れた柔らかい感触、見えない掌を感慨深く、そっと握った。
無数の人間の吐息が聞こえる。一体何人いるんだ?
「みんな落ち着いてくれ!!」。
右斜め後ろ、聞き覚えのある声が皆をなだめる。
(………桐原?
「一体全体どうなってるんだよこりゃあ」。
「クッソ狭えな」。
「誰か明かり持っとる奴おらんの?」。
「あれ、私の携帯が無い!!」。
ざわざわと漣の様に流れる空間に一人元気の良さそうな声で
「こっちに扉があります!!」と叫ぶ。
戸を押す、漏れ出す木漏れ日。日を閉ざすその大きな扉の向こうには美しき群青色の世界が広がっていた。
─ 1 ─
すごいな、百数人はいる。
辺りには自らと同じであろう境遇の人間が相当数いた。
それなのに何処を見回しても見知った顔が居ない。
あっけらかんと立ち尽くしていたセイラの肩を誰かが叩く。
───そう、一人を除いて。
「戸張君だよね?クラスのみんなは何処だろう」。
桐原レイト、我がFクラスの委員長だ。
「あー、近くには居なかったな、俺が知っている限りの他のクラスの奴も」。
「そっか……」。
桐原レイトに慌てふためく様子は無い。店の雰囲気に流される事も無く、至って冷静であった。
一同はある男に先導されて一軒の店に案内される。
「ようこそ我らが人界セディナへ」。
男はそう言った。皆が男を見る。亭亭たる格好やがたいがいいのも理由に含まれるかもしれない、その男から皆を黙らせる程の謎の凄みがあった。
四方にトーチが焚かれ店を照らす。西部劇さながらの無法者達の溜まり場のような酒場だ、それこそ気を抜けばガンマンに蜂の巣にされそうな程に。
そのせいで誰一人として騒ごうとはしない、完全に萎縮しきっていた。
「コラコラあんた達、威嚇するんじゃないわよ」。
皆を集めたオネエ口調の男が目をギラつかせる酒場の客をなだめる。
怯える少年少女に微笑むと
「おめでとう、そしてお気の毒に」。
そんな事を告げた。