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   ヴィダー 13日


アルドニア連邦 宗主国王都 カロ城 城内




 少女は次のページへと指を進める。自身の知らない歴史…『英雄』と呼ばれた者達の埋もれた歴史を、語られていない歴史を、そして自身の好奇心を満たすために。





ーーーー


ツアレスティア暦 214年 ヴィダーの月 13日




 昨日はグロリスとポニーちゃんからもらった双刀を試す為に、近くの草原でブラックボアやグリーンスライム等を狩ってみた。どれも一撃でいまいちわからないが手には良く馴染(なじ)む。ナイフのように逆手でも持ちやすく出来ていたが、今までがナイフだったせいで距離感が掴めなかった。細かい調整はもう少し実践をこなしてでないと無理そうだ。そして今日は、ムカレスを離れ帝都フロンティアへと帰る予定だったんだがキッシュの奴のせいで寄り道だ。



ーーーー



 「兄貴!(かしら)の分の馬を見つけてきたっすよ。」


 泊まっている宿の部屋の扉を開けキッシュが入ってくる。リョウ達はキッシュが見つけてきた馬を見る為、宿の隣に併設されている厩舎へと向かう。


 「ほう、なかなか良い馬だな。体力がありそうだ。」


 青鹿毛にがっしりとした体躯。なかなかの雰囲気を漂わせている。リョウが触ってみる限り肉の付き方にも無駄が無さそうだ。


 「えへへ、ですよね?商人の兄ちゃんは売り物じゃないって言ってたんすけど、絶対(かしら)が気に入ると思って貰ってきたっす。」


 キッシュは照れ笑いを浮かべているがグロリスが少し苦い顔をしている。


 「確かにいい馬だな。売りたくない理由もわかる気がするが、貰ってきたって事は何か頼まれでもしてきたか?」


 リョウが馬の(たてがみ)を撫でながら尋ねる。


 「相手は商人なんだろ?無料(ただ)ってわけではなかろう?」


 グロリスも腕を着物の袖に入れた袖手(しょうしゅ)の状態でキッシュに訊いてくる。


 「うっ…」


 キッシュは一瞬目を泳がせるが


 「商人の兄ちゃんが言うには最近になって南の街道。ああっと帝都に向かう途中にある商業都市エントールとこの街を結ぶ道なんすけど、山賊が頻繁に出てて被害が結構あるみたいっすね。」


 「んでその山賊を潰してこいってか?」


 「帝都に帰る途中にちょっと田舎の山賊潰したらこの馬が手に入るんすから楽勝っすよ兄貴!」

 

 グロリスは右手の手のひらで顔を包んで頭が痛そうに天を仰ぎ、リョウの方をチラッとみる。

 リョウの口角が(わず)かに上がったのを確認すると


 「はあ…」


 大きくため息を吐くのだった。


 「(かしら)どうするんだ?って訊く方があれか。この辺の山賊だと西の山を根城にしてるらしい、帝都に向かう時間が狂うが?」


 「構わない。すぐに向かう。」


 「あーあ、こりゃアジトの奴等は御愁傷様だな。アイツ等の運次第だが、先に着くのは恐らく…サーシャだろうな。」

 

 リョウから即答で返答されそう呟くグロリスだが、結局は自分に回ってくるだけだったと、再びため息を吐くのだった。



ーーーー


 同日 昼 領都ムカレス 西方の山




 リョウ達はすぐに宿を出払って、ムカレスの街より山賊の根城を目指す。ムカレスを出る前に冒険者ギルドから山賊の根城を詳しく聞いてきた。


 「根城がバレバレな時点で大した山賊団ではないのが丸わかりだな。キッシュ、お前一人で勝手に潰してきて良かったんだぞ?。だいたい、馬を一頭買うのにどれだけ時間かけるんだ?効率が悪すぎだろうが。」


 首に巻いているスカーフから口を出してため息を吐き出しながら、先導しているキッシュに文句を言いつつグロリスはリョウの方を見る。先ほどから煙草(たばこ)(くわ)えながら双刀の感触を再確認している。


 「そうか、おあずけくらってもう8ヶ月近く経ってたんだったな。こりゃあ血の雨が降るな。」


 やれやれと言わんばかりの表情を浮かべつつ、先導しているキッシュの隣にグロリスが並ぶ。


 「どうしたんすか兄貴?もう少しで根城には着く予定っすけど?」

 

 「キッシュ、根城に着いたら手を出すな。出したら山賊共と一緒に死ぬぞ。」


 「へ?」


 理解出来ていないキッシュにリョウの方を顎でしゃくってみせた。そこには先ほどと変わらず入念に双刀を扱って笑っているリョウがいた。


 「あれは(かしら)のスイッチが入ってるっすね…。」


 「わかったら絶対近づくなよ?ああなってるリョウは邪魔されるとガキみてえにキレるからな。」


 「わかってるっすよ兄貴。」


 二人が山賊の冥福を早くも祈り始めた頃、人の気配がした為三人は息を殺す。少し先に小汚ない格好をした男が一人。


 「おい、グロリス。あいつ()っていいか?なあ?」


 リョウは子供が#玩具__おもちゃ__#で遊んでいいか親に訊くような顔をしている。


 「やめてくれ(かしら)、とりあえず情報が欲しい。人質がいたらやりにくくなるだろう?」


 リョウを(なだ)めるグロリスを横目にキッシュが音もなく一瞬で気絶させ戻ってくる。


 「兄貴、こいつから人数と人質の情報訊くんだろ?」


 「ああ。助かった。さてと…」


こういう事はきっちりできるのになあ、とキッシュに目線をやるがすぐに落として、気絶している男を起こす。


 「な、なんだ貴様ら!」


 ゴッ!


 「がっ!!はあっ…!」


 グロリスが目を覚まし大声を出す男の腹を殴る。そして首に手をかけ


 「お前の命は俺が預かっている。わかるな?わかれば喋らず二回頷け。」

 

 グロリスから脅された男がこくこくと二回頷く。


 「まずは、貴様らの根城はあとどれくらいだ?大声出せばその時点で殺す。」


 「お、俺たちの根城はそこの獣道を登って行けばすぐだ。10分もかからない。本当だ!」


 殺されたくない一心なのか男は素直に話していく。


 「次は、人数だ。」


 「に、人数は30人前後、最近になって西のケルソニア辺境伯の領地から移ってきたんだ。」


 聞いていない情報まで喋りだした。


 「たしか、ケルソニア辺境伯っていえばここ数年領内の治安改善に乗り出してるって噂だったな?」


 「そ、そうだ!そのせいで食っていけなくなってきた俺たちはここに来たんだ。」


 「ほう…まっそんな事は今の俺とお前には関係ない事だ。だろ?」

 

 グロリスはそう冷たく言い放つ。


 「最後の質問だ。奴隷にしようと捕まえている市民やらはいるか?」


 「うっ…今はいねえ。」


 「そうか、もういいぞ。」


 小汚ない山賊の男がこれで解放されると思えたのかはわからないタイミングで、グロリスが言葉を発した瞬間リョウが男を細切れにしていた。


 「グロリス、行ってくる。」


 言葉だけを残しすでにリョウは根城の入り口へと向かっていった。


 「相変わらず何も見えないっす…あれでもまだ#頭__かしら__#は納得できないんすか?」


 「ナイフに比べたら長いうえ当然重くなってるからな。それに両刃から片刃になってる。まあそのうち元の剣速に戻るだろ。」


 「うへえ…」


 グロリスとキッシュがリョウの話をしている頃


 「ここか…」


 根城の入り口と思われる洞穴(ほらあな)を発見したリョウは身を潜めて様子を見ていた。しばらく様子を見ても見張り役以外は現れない。しかし、複数の気配が洞穴(ほらあな)から感じられる。


 「では、#殺__や__#る前に再び尋問といくか。」


 見張りの男を一瞬で拘束し身を潜めていた場所へと戻る。


 「大人しく話せば楽に殺してやる。抵抗すれば苦しんで死ぬ。選んでいいぞ?」


 リョウは笑いながら眼鏡に左手の指をかけ、右手の刀を見張りの男に向ける。


 「なんだてめえは!ぐああああ!あが…お、俺の、俺の腕がああああ!」


 「抵抗すると判断した。まずは右手だ。」


 口は笑っているが目が笑っていない。

 リョウは男の腕の無くなった右肩に手をかざす。

 淡い光が男の肩を包み始めた、すると腕からの出血が止まり、傷口もふさがった。


 「はあ…はあ…はあ…何なんだてめえは!?あがっ!があああああ!」


 「口の利き方がなってない。」


 今度は見張り役の男の足を両方切り落とす。そしてまた光が包み込み傷を癒す。


 「や…やめて、やめてください。何でもしますから。」


 見張り役の男は消え入りそうな声で懇願する。


 「そうか、ならお前らの人数は30人前後だと聞いているが、そこの洞穴(ほらあな)の中には全員いるのか?」 


 「全員います!今日はこの前襲った商人から奪った戦利品の分配があるんだ!」


 どうやら狙っていた山賊で間違いないようだ。


 「そうか、じゃあな。ありがとよ。」


 見張り役の男がほっとした瞬間、首が胴体から離れ倒れていく。そんな男の事を見ることもなくリョウは洞穴の中へと入っていく。笑顔を浮かべて。

 洞穴(ほらあな)の中は意外に明るかった。所々、魔道具を使い照明にしている。いくつか分岐がある事から、どうやら#洞穴__ほらあな__#ではなく相当な広さを持つ洞窟だったようだ。

 しかし、リョウは気配感知のスキルによってある程度向かう方向がわかっているため、ほとんど迷うことはなかった。途中出くわした山賊は切り殺しながら進み、最深部であろう大広間へと到着した。

 大広間では盗んで手に入れた酒を呑みながら山賊達が騒いでいた。そして一番奥に山のように置かれた荷物が目に入る。おそらくこれから戦利品の分配なのだろう。


 「よう。邪魔するぞ?」


 騒いでいる事などお構い無しにリョウはズカズカと大広間の中央へと進む。


 「なんだてめえは?」


 一人の男がリョウの肩に手を置きそれ以上は進ませまいとする。


 「ムカレスの商人の依頼でな。お前らを殺しに来た。」


 「ガハハハ。馬鹿かお前は?たった一人で何ができる?」


 一番奥で偉そうに座っている男が笑う。


 「おい、お前ら。世の中の厳しさってもんをこの馬鹿に教えてやれ。」


 「「へい!」」


 何人かの男が武器を手に持ちニヤニヤと笑いながらリョウの近くに寄ってくる。リョウの肩に手をかけていた男はそのままリョウの首に剣を突きつけた。


 「お前らは邪魔だな…」


 そう呟くとリョウの姿が一瞬だけ消える、その姿を再認識した次の瞬間、その場にいた山賊達の首は地面へと転がり落ち、胴体は膝から崩れ落ちていく。命令を下した男を除いて。


 「は…?」


 山賊の頭領であろう男は何が起きたのか理解が追いつかない。先程までは襲撃の成功を祝って部下と共に酒を呑み、騒いでいた。そしてこれから奪った戦利品を分け与えるつもりだった。この眼鏡をかけた黒ずくめの男が現れるまでは。

 よく考えてみれば洞窟の入り口付近には見張りを立たせ、さらに巡回もさせていた。そしてこの場所に来るまでに此処には居ない何人かの部下がいたはずだ。こんな目立つ男を素通りさせる筈はない。それなのにこの男は目の前に立ち、部下達を一瞬で殺した。


 「た、助けてくれ!」


 徐々に現実を理解し始めた。この男に#敵__かな__#う訳がない。無理だ。ならば今出来うる限りの命乞いをする。


 「命だけは…命だけは…何でもする!金なら今ここにある!全部くれてやる!頼む!なっ?なっ?」


 だが、リョウの中ではすでにこの男の扱いは決まっていた。命乞いなどしなくても。


 「ああ。助けてやるよ。お前の()()取らねえから安心しろ。」

 

 「本当か!?ありがてえ!ありがてえ!」


 涙を流しながら頭を下げる男には頭領の威厳などは微塵も感じられなかった。


 「てめえは奴隷落ちだ。」


 そう宣告すると男は黙ってしまった。

 この世界で奴隷となる理由は様々あるが、今回のように犯罪を行い捕まった者の中でも死刑に相当する者が労働力として鉱山等で働かされる。もちろん死ぬまで。帝国には死刑制度が無い、無いのだが死刑と同じであろう。


 「さて…と。とりあえずここにあるお前らが奪った物は全部持ち帰るか。」


 そういうとリョウは目の前に手をかざす。すると亀裂が出来、その亀裂が開いた。そして目の前にあった荷物や食料等を吸い込んでいく。最後に頭領の男を縛りあげて洞窟を後ろ(あと)にした。


 「よう。待たせたな。」


 リョウは洞窟の入り口近くの木陰で休んでいたグロリスとキッシュに声をかける。


 「おう。(かしら)どうだった?ん?そいつは?」


 「ああ。こいつか?一応ここの山賊のボスのようだ。証拠の為に捕まえておいた。あと奪われてた荷物だが、ある程度は俺の空間収納の中に入れてある。すでにどんちゃん騒ぎしてたからな、少なくなってたとしても戻ってくるだけマシだと思ってもらおう。」


 「まあ、荷物はしょうがないだろう。日が経ってるんだ。んで、こいつ以外はどうしたんだ?」


 「この洞窟内に居た奴等は全員殺しておいた。捕まえて連れて帰るのも面倒だったからな。」


 「それもそうだな…ならムカレスの街に戻るか。おいキッシュ、先に戻って依頼主に報告してこい。俺たちはムカレスの街の商人ギルドこいつを連れていくから。」

 

 「わかったっす!」

 

 キッシュはグロリスの指示に従い先行してムカレスの街へと向かった。





ーーーー


同日 夕刻 領都ムカレス 商業ギルド




 「お待たせ致しました。確認が取れましたので当ギルドにて山賊『馬と鹿と鳥(フィシャゲル)』の頭領カストをお預かりし、役所へと引き渡します。なお、報償金につきましては帝国内の商業ギルドにて、タチバナ様がお持ちの冒険者ギルド発行のライセンスをご提示頂きますと確認後お渡し致します。この内容で問題なければこちらにフルネームでサインをお願い致します。すでに身分証をご提示頂きご本人様と確認が取れておりますので代筆でも構いません。」


 「ああ、わかった。ちなみに報償金の受け取り期限はあるのか?」


 「今回金貨とはいえ少額の為、期限や受け取り場所の指定はございません。ただし、タチバナ様がお亡くなりになる等の直接受け取りにこれない場合はお渡しできませんのでご注意ください。お渡しできるのはご本人様のみとなります。」


 現在リョウとグロリスの二人はキッシュと商人を待っている間に山賊の引き渡しの手続きをしていた。山賊や盗賊の引き渡しについては商業ギルドと冒険者ギルド、さらに傭兵ギルドの3ヶ所で可能だ。山賊の場合、行商人が被害を受けている場合が多く、商業ギルドから冒険者ギルドに依頼を出している場合が多い。今回の様な冒険者ギルドを介していない場合、商業ギルドに山賊を直接引き渡すと依頼手数料や仲介手数料分損しないので喜ばれる。今回はムカレスの商人から直接の依頼だったので商業ギルドで手続きを行っている。


 「問題ないな。それと…」


 「なんでしょうか?」


 「このギルドで一番広い部屋を貸してくれないか?ちょっと商談で使いたい。」


 「かしこまりました。ではこちらへ。」


 「ありがとう。グロリス。」


 「ああ。」


 受付嬢の後ろを二人でついていく。やがて大きな扉を前に歩みを止める。


 「こちらをご利用ください。」


 そう言って扉を開き中へ入るよう促す。


 「俺を訪ねてくる奴がいるから此処に通してくれ。」


 そう伝えると二人は中に入り近くのソファーに腰をおろす。

 それほど待たずにキッシュと若い青年が先程の受付嬢と共に現れる。


 「(かしら)お待たせしたっす。」 


 「いや。俺たちもさっき案内されたばかりだ。それよりもそちらが今回迷惑をかけてしまった方なのか?」


 「あ、ああ。こちらがの馬を譲ってくれたハンスさんっす。」


 キッシュに紹介された痩身の青年が笑顔を見せ挨拶をする。


 「はじめまして。ハンス・ドミノフと申します。(わたくし)フッガー商会にてこのトロキア男爵領を含めた北東方面を担当させて頂いております。この度は山賊の討伐依頼を完遂して頂き誠にありがとうございます。」


 リョウは目の前に差し出された手をそのまま掴み握手をする。


 「これはこれは、フッガー商会地方責任者ですか。申し遅れましたが、リョウ・タチバナと申します。こちらは部下のグロリスです。キッシュが無理を言って申し訳ありませんでした。」


 ただの行商人か露天の商人相手だと思っていリョウとグロリスは少々面喰らってしまう。さらにこの青年がフッガー商会という帝国一の商会で地方を任せられる程の人物にしては若かったからという事もある。


 「グロリス・レイフォードです。」


 グロリスがリョウの一歩後ろで頭を下げる。


 「このような若輩者にそうかしこまらずに。今回の件は#私共__わたくしども__#にとっては大変助かるお話でしたから。むしろあの馬を1頭だけで本当に宜しかったのですか?」


 ハンスは少し困った様な表情を浮かべ問いかける。確かに良い馬ではあったのだが今回の討伐の依頼の報酬としてはいささか見劣りする。小規模とはいえ度々キャラバンを襲われ、少なくない損害を受けていた。山賊に対する脅威が一つ無くなったのは商人としては非常にありがたい。さらに部屋を見渡すと無造作に様々な荷物が置かれている。恐らく今回(こうむ)った損害の一部だと推測できる。その視線に気づいたのか目の前のタチバナと名乗った男は


 「山賊の根城にあった物です。恐らく貴殿方(あなたがた)の商品でしょう。このままお返し致します。」


 「これほどの荷物を…空間収納持ちですか。珍しいですね。それに、山賊を討伐する際盗まれた荷物は取り返した人の物。というのがルールですが?」


 一応奪われた盗品の扱いについては『取り返した者に権利がある』という暗黙の了解(ルール)が存在する。もちろん盗品奪還の依頼等は話が別だが。今回はあくまでもキャラバンを襲う山賊の討伐依頼なので盗品の扱いはリョウの裁量による。


 「ええ。わかっています。ですから俺の判断でお渡し致します。それに、多少恩を売っておくべき相手かとも思いまして。」


 軽く眼鏡の位置を整えると、笑顔でハンスを見つめる。


 「わかりました。そうおっしゃられるのであれば有り難く受け取りましょう。そのようにはっきりとおっしゃられると逆に安心致します。」


 ハンスはリョウに再び握手を求める。リョウもそれに応じる。


 「何かあればご相談を…得があると判断できれば全力で協力させて貰います。」


 その後はハンスが荷物の内容の確認を行い、奪われた荷物で間違いないと確認後引き渡すとハンスを残しリョウ達は宿屋へと戻った。


 「天駆ける銀色の狼(ヒルズィヴォルフ)…」


 ハンスはそう呟きながら商業ギルドから出ていく3人の後ろ姿を窓から見つめるのだった。




ーーーー



アルドニア連邦 宗主国王都 カロ城 城内




 「いつの時代も盗賊や山賊といった#類__たぐい__#はいるものですわね。30人規模の山賊ですと領主が討伐隊を組織するか、もしくは冒険者ギルドに依頼をかけて討伐隊を募るかしなくてはなりませんわね。それを一人で解決?本当なのかしら?話半分で読んだ方がよろしいかしら?」


 30人規模の山賊団や盗賊団は大きい部類には入らない。しかしながら、討伐したければ小隊以上の人数を用意する必要がある。確実性を重視するなら中隊規模が望ましい。実際は高ランクの冒険者なら一人での解決をできなくはないのだが…彼女は知識として持ち合わせてはいなかった。


 「まあいいですわ。これで次は帝都に戻るお話かしら?ムカレスから…ええっとフロンティアは今はアーバンでしたわね。アーバンまでは駅馬車で30日程でしたわね。飛竜を利用すれば5日程ですが当時は確か運送用にようやく利用し始めた頃のはずですし、ここで馬を手に入れているのでやはり陸路での移動ですわね。サーシャって人が時々出てきてましたが合流するのはもう少し先になりそうですわね。さあ次はどんなお話かしら?」


 駅馬車は幅はかなりあるものの1日100キロから200キロを走破する。あくまで()()ならという話なだけだ。ツアレスティア暦 214年にはまだ飛竜での交通手段は確立されてはいないため少女の計算は間違ってはいない。少女は次のページへと指を動かす。





 

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