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214年 ヴィダー 10日

1話目



ツアレスティア暦 214年 ヴィダーの月 10日


 初日から日にちがズレているのは勘弁してもらいたい。書いているのは11日なんだが、まあとりあえず昨日の事を書こう。

 昨日の感想はこの一言に尽きる。やっぱ#娑婆__しゃば__#の空気はうめえ。


 部下のバカがやらかしたせいで、8ヶ月近くも城の地下牢で拘留されてしまったが、#漸__ようや__#く出てこれた。まあ、大人しく捕まる#理由__・__#もあったんだがな。それにしてもサーシャの奴が俺に恩でも売っておきたいんだろう、35の誕生日に出られるとは、粋な計らいだことで。しかし、出てきたのはもう月が高くなりかけ、狼の遠吠えも聞こえてきていた時間だった。なぜ夜に出したのだろう?





ーーーー





トリカレスト大帝国北部 トロキア男爵領 領都ムカレス





 「糞が、もっと早く出してもいいだろうが!」


 ヴィダーの月に時折り雲が#悪戯__いたずら__#をしている夜、黒髪黒瞳そして丸眼鏡をかけた男は悪態をつきながら歩いていた。この男の名は『リョウ・タチバナ』黒のスーツを着こなし、足元は黒の革靴。ちなみにシャツもネクタイも黒い。


 「まあいい、ようやく#娑婆__しゃば__#の空気を吸えるようになったんだ。それでよしとしとこうか。まずは…グロリスとの合流場所に行くとするか。」


 そう言うと#咥__くわ__#えていた#煙草__たばこ__#を投げ捨て大きく深呼吸をし、空気の味や匂いを噛み締めて目的の場所へと向かうのだった。

 男が歩いて向かった先は領都ムカレスの中心部から少しばかり離れたスラム街にあるバー『黒い猫と白い月』。スラム街にある為立派とは言えない。さらにここまでの道程にはやはり、柄の悪そうな人間が多かった。しかし男は気にすることなく進み、入り口の扉を開く。


     カランカラン


 鐘の音が店内に鳴り響く。


 「いらっしゃい。」


 白いシャツに腰から黒いエプロンをした若い男性が無表情で出迎える。店の雰囲気も彼の表情と同じく代わり映えもない、ただ照明が薄暗く雰囲気だけはあった。そして、他の客はいないようだ。


 「お一人で?」


 「ああ。だが後から連れが来る。連れが来るまではカウンターで構わない。」


 「#畏__かしこ__#まりました。では#此方__こちら__#へ」


 白シャツの男性に案内されカウンター席へと向かう。相変わらず無表情だが、頭に耳があり尻尾が生えているところを見ると何かしらの獣人なのだろう。この国では、いや…この世界では亜人と呼ばれ#蔑__さげす__#まれている人種がいる。#所謂__いわゆる__#獣人やエルフ、ドワーフ等である。彼らが何かしたというわけではない。『聖人教』という宗教に人が至高であり、絶対であるという教えが存在するからである。この世界唯一の宗教であり、時には国をも動かす財力と権力を持っている。この店に客がいない理由の一つかもしれない。


 「#此方__こちら__#で構いませんか?」


 案内されたのはカウンター席の真ん中より少しズレた位置だった。


 「問題ない。強めの酒をくれ。酒の種類は何でもいい、任せる。」


 「#畏__かしこ__#まりました。」


 白シャツの獣人は表情を崩すことなく頭を下げカウンター内へと入っていった。


 「お待たせ致しました。」


 少ししてから言葉と同時に細長いグラスに注がれた酒がテーブルへと置かれた。

 そういえばグロリスとの約束の時間は何時だったか?リョウはそんな事を考えながら置かれたグラスに手をのばす。そして、#過去の約束__・・・・・__#を果たすべく未来へと思考を巡らすのだった。

 

 「お客さん」


 「お客さん!」


 白シャツの獣人がリョウに声をかける。考え事をすると周りの音が消えてしまう。どうしようもない癖だなと思いながら


 「また、同じのをもらえるか?」


 リョウが何杯目かの酒の追加を頼む。


 「申し訳ありませんが」


 少し不機嫌そうに断ってくるスタッフ。


 「そろそろ店じまいなので」


 「もう閉店の時間か?」

 

 時計を見てみるがまだそんな時間ではない。


 「申し訳ありませんがお客様しかおりませんので早めに閉めさせていただきたいのですが。」


 「それじゃあ困るんだよ。連れと待ち合わせだと伝えただろ?」


 リョウがなかなか引き下がらないのを見かねて、さらに奥から体の大きな獣人と細身の獣人の二人組が現れ


 「おっさん!店を閉めるって言ってんだよ!わかんねえのか?あ!?」


 体の大きな獣人が、そう言ってカウンターのテーブルを手のひらで叩きつけ大きな音をたてる。リョウがその言葉を無視して酒の追加を頼むような仕草でグラスを掴むともう一人いた細身の獣人の男が


 「表に出ろやおっさん!」


 リョウはやれやれといった表情でグラスを置き男の後を追うように店を出る。


バキッ!ドゴッ!「ぐはっ…」ゴン!ガン!ボゴッ!


     カランカラン


 リョウが一人で店に入ってくる。そのまま元の席へと戻り、拳に付いた血をおしぼりで拭き取る。


 「酒を…」


 少しの怒気を孕んだ言葉に白シャツの獣人は脂汗を額に#滲__にじ__#ませる。

 バン!店の扉が勢いよく開き、先ほどの細身の獣人が血だらけになりながらも剣を構えて叫ぶ


 「てめえぶっ殺す!」


 「おいやめろ!」


 白シャツの獣人が叫ぶ。それと同時に体の大きな獣人が細身の獣人を羽交い締めにして止める。


 「あんた一体…もしかしてそっちの方ですか?」


 白シャツの獣人が恐る恐る問いかける。


 「どっちでも構わないだろ?今は客だ。」


 リョウはまたグラスを持ち酒を催促するがふと顔を上げ白シャツの獣人に告げる。


 「あとお兄さんだ。」


 「は?」

 

 「俺はまだ、おっさんのつもりはない。後ろの奴にも伝えといてくれ。」


 さも、重要な事だと言わんばかりに告げられた言葉を、白シャツの獣人はまだ理解できていないのか返事が返せない。


     カランカラン


 再び店内に鐘の音が響く。


 #藍錆__あいさび__#色の髪に眼帯をした男性が入ってくる。その後ろから、申し訳なさそうに#銀朱__ぎんしゅ__#色の髪の若い男性がついてくる。眼帯の男性が横で押さえられている獣人の男に目をやる。


 「#頭__かしら__#、出てきて早々にこれか?」


 呆れた表情を浮かべて顎に手をやる。


 「すまんな。連れが来たみたいだ。席を外してくれないか?」


 リョウは入ってきた二人組の男性に振り向くことなく白シャツの獣人に声をかける。


 「グロリス、悪いが金を…見ての通りだ。」


 グロリスと呼ばれた眼帯の男がリョウの隣まで来て、懐から小袋を出しテーブルの上に置く。小袋いっぱいに入った硬貨を見た白シャツの獣人は


 「二人共!すげえ金だ!見ろよ!」


 興奮して#未__いま__#だに揉み合ってる二人に対して声をかける。金という言葉に反応したのだろうか、二人とも揉み合いをやめ白シャツの獣人の所へ向かい確認する。


 「「うおー!」」


 目を輝かせる三人にグロリスは少し笑いながら


 「で?金を受け取るのならしばらく貸し切らせてもらえるんだろ?」


 三人はこくこくと頷いて店から出ていった。


 「#頭__かしら__#!すみませんした!」


 突然、#銀朱__ぎんしゅ__#色の髪をした男性が床に額を擦り付け謝りだした。

 リョウがこのムカレスで地下牢に8ヶ月近くも捕まっていた原因である。しかし、リョウが大人しく捕まっていた理由は他にあった。その為、特にその事に関しては気にしていなかったのだが。


 「グロリス、キッシュには説明していなかったのか?」


 いつの間にか隣に座って勝手に酒を飲み始めたグロリスの方を向いて尋ねる。


 「しないわけが無いだろ?キッシュには何度も説明したんだがな。それでも気がすまないらしい。」

 

 諦めた表情で答えるグロリス。


 「理由は聞いてるっす!それでも…!どういう理由であっても!#頭__かしら__#が俺のせいで不味い飯食ったのには変わらねえっす。#頭__かしら__#やグロリスの兄貴が必要ねえと言っても俺の気が済まねえ。せめて#頭__あたま__#を下げさせてくれ!」


 これにはリョウも諦めた表情をするしかなかった。


 「お前の気が済むのならわかった。だが俺も気にしていないんだ。それでお前も忘れろ。いいな?」


 「ありがてえっす!」


 「キッシュ、もう席に座れ。それと#頭__かしら__#集まったのか情報は?」


 もう一度床に額を擦り付けるキッシュに立ち上がるように促し、リョウにこの8ヶ月の成果を尋ねる。


 「ああ。わざわざ出向いたかいがあった。もう少し早く出ても問題なかったがな。」


 リョウが満足そうに答える。


 「そうか。なら…」


 グロリスが懐から刀というには少し小さな武器を二本取り出しリョウに渡す。


 「これは?」


 「俺とポニーちゃんからだ。」


 「お前とポニーちゃんから?」


 グロリスは笑顔でリョウのコップに酒を注ぎながら答える。


 「ここからは友人としてだ。お前の誕生日に何かないかとポニーちゃんに相談したらなお前の新しい武器を開発すると言い出してな。」


 「それでこれを?」


 リョウは二本の武器を手に持ち様々な角度で眺めてみる。一本だけ鞘から武器を抜くと刀身まで黒い、もう一本抜くと#此方__こちら__#は#柄__つか__#は黒なのだが刀身が青い。


 「ああ。いつもナイフじゃあ短いだの、切れ味が悪いだの言ってただろ?ナイフ二本使うお前に切れ味が良い小太刀をベースに考えたらしい。開発資金は俺持ちだがな。」


 そう笑って自分のグラスにも酒を注ぎリョウの前にグラス掲げる。


 「おめでとう。35だったか。相変わらず嫁もガキもできない奴には俺からの言葉も有り難いだろ?」


 「はっ!うるせえよ。だが、確かに有難い。」


 照れくさそうに答えたリョウは自分のグラスを掲げ、グロリスのグラスに軽く当てる。


 「#頭__かしら__#!兄貴!俺も混ぜてくれっす!」


 それから三人で飲み明かした。






ーーーー





アルドニア連邦 宗主国王都 カロ城 城内


 「は?え?初代様…って何者?。殴るんですか?#頭__あたま__#にきたから?いやいやいや…あり得ませんわ!まずは言葉による対話ではありませんの?それに捕まっていた?何をしたら…いえ…なんとなくですが、本当になんとなくですがわかるような気もしますわ。」

 

 少し頭を抱える少女。歴史上の人物が牢屋に入れられている事などままある事と少女は割りきる。


 「それにグロリスと書いてある人物は…あの『グロリス・レイフォード』様?確かこの時期はまだ表舞台に出てきていない時期ですわね。」


 学院で習った歴史の授業を思い出す少女。歴史書ではグロリス・レイフォードを『聖王の師』や『興国の軍師』#等__など__#と呼ぶ。大戦中は知勇共に優れた能力を発揮し、建国後は初代宰相を勤め『聖王』を補佐し、あらゆる政治改革の陣頭指揮をしたと言われている。#今日__こんにち__#の平和があるのも彼のおかげとまで書いている書物もあるほどだ。


 「この日記って実はかなり凄いものですわね。『英雄』と呼ばれる方々の今では伝わっていない事まで知れますわ。次も楽しみになってきましたわ!」


 少女は興奮気味に日記を掲げ、抱き締める。初代から数え、現在18代目498年続いている。国の歴史は書物に刻まれ、王立図書館にて保管されている。しかし、初代と2代目の活躍した時代の歴史は失われてしまっていた。初代国王が気まぐれで始めた日記は、好奇心旺盛な少女が正に探し求めていた書物だったのだ。


 そして少女の指は次のページを捲る為に動き始める










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