7月 -2-
「それにしてもさー、お金取られるの知らなかったね」口を尖らせて不満げにつぶやく沙也加の隣で貴文も同意しながらも「まあ、でもさ一回支払うとこうして何時間でもいられるんだからよくないか」なだめている。等間隔で並んだビーチチュアは一見すると無料のように見えるが、使っているとどこからともなく切符売りが来て買わないと使えないと告げられた。無料だと思っていたので有料と聞いた時は驚いたがそれでも、二人で1000円時間制限無し、おまけにビーチパラソルも付くのだから安いほうだろうと沙也加も自分を納得させる。
「くぁーっ、でも本当にすごいよね!海岸線が全部ビーチって」沙也加の言う通りこのあたりは夏の観光に力を入れておりホテルを出るとすぐビーチにいけるというのが売りだ。少しあるけば、同じような砂浜があり同じようにビーチチュアで収益をあげているものがいる。沙也加と貴文がいるビーチの砂はそこまできめ細やかではなく、波打ち際に近づくほど丸石が足の裏を刺激する。泳ぐにはすこしばかり高い波が出ているため、大体はまだ足場があるところで波に戯れているものたちがほとんどだ。
「沙也加、ちょっと海のほう行ってみない?」そう聞きながらも貴文はもうビーチチュアから起き上がっていた。「えー、私泳げないんだけど、、、。」「大丈夫だって、海には浮力があるから。それにいざとなったら俺におぶさればいいんだし」カナヅチといつつもそこには断るにはもったいないほど透き通った青が広がっていた。
二人はビーチチュアの隙間を縫いながら海に向かって歩いていく。
「きゃー、冷たい!」気温は30度を超える暑さだが以外と冷たい海に驚く沙也加、腰が引けていて足首ほども海には浸かっていない。「なに言ってんだよ、こんなのまだ暖かいほうだろ。早くこっちまでこいよ」もう腰ほどまで浸かっている貴文は急かす。「そんなこと言ったってさー」えーだとかあーだとか言う沙也加に近づき貴文は手を引く。「ほら、こういうのは一気に入ってしまったほうがいいんだって」それでも踏ん張る沙也加。「ちがう、ちがう。こーゆーのは自分のタイミングで、自分のタイミングで行きたいから!」真上から照りつける太陽の光が水面をキラキラと波立たせている。
「わーわーわー、来た来た。せーのっ」掛け声とともに沙也加と貴文はやってくる波に合わせてジャンプするという至極単純なことをやっている。やっと腰海まで入った沙也加は足が付く場所にとどまり、海特有の浮遊感を楽しんでいた。といってもこの思った以上に荒く高く迫ってくる波があるのでテレビでみるような光景、海に優雅にぷかぷか浮くということはまだ達成できていない。貴文をみると沙也加以上に楽しんでいるのが目に入ったので、安心して沙也加も楽しむことにした。