プロローグ
人生っていろんなことが起こるよね。
いきなり人が死んだり、
新しい出会いがあったり、
まあ、つまり、何が言いたいかって
いうとさ、
この状況は何なんだ?ってことっすわ。
俺の目の前には、ついさっきまで
生きていた、俺を毎日いじめてきた
憎き、苛めっ子野郎がいた。
首は今にも、ちぎれそうで、体が少し
痙攣している。
滴る血が俺の瞳に鮮やかに写っていた。
数時間前、
「ぎゃははっ!脱~げ!脱~げ!」
「写メ取り忘れんなよ~wぎゃはっ」
猿のような笑い声がやけに頭に響く。
クラスメイトは、ほとんどこちらを
見ずに、他人のフリをする。
「おいぃ~早くしろよ!殴るぞ」
少しドスを聞かせた声で言っている。
俺は情けないことに恐怖に動けない。
ドスッ「……ぐっは!?」
そうこうしてるうちに殴られて
しまった。
「脱がねぇみてぇだから、俺らで
手伝ってやろうぜ」
俺は逆らうことも出来ずに、
ただ涙をこらえていた。
ガラッ
その時、委員長の村崎千草が
入ってきた。
俺達に気づく。
「あっ、宮本くん、何してるの?」
宮本は俺をいじめてる奴の名前だ。
「なんでもないんだ、千草さん。
遊んでただけ、な。」
宮本は村崎の前では、いい顔をする。
宮本は千草に惚れているからだ。
俺はなんとか笑顔をつくろう。
千草は俺の顔を見て、心配した表情
を浮かべる。
「大丈夫?もしかして、体調悪いの?」
俺が苛められる原因となったのも、
村崎が俺の世話を焼くようになって
からだった。
こちらとしては、ありがた迷惑なのだ。
「……そんなこと、ないから」
俺はなんとか答える。
宮本が俺の腕をものすごい握力で
掴んでいたからだ。
村崎は怪訝な顔をしていたが、席に
戻った。
「チッ、続きは昼休みにすっか」
宮本が呟く。
丁度その時チャイムがなった。
キーンコーンカーンコーン。
それから、数十分……
おかしい。
待っても待っても先生が
来ないのだ。
うちの学校は進学校で、先生が遅刻
なんてあったことがない。
クラスメイトがざわざわしだす。
「なんで来ないのかなー?千草?」
「体調不良なのかも、
みんな~、一応自習ね!」
村崎が委員長として、クラスメイト
に指示を出す。
それから、それぞれが騒ぎ出した頃
ガラッ
教室の引き戸が開く。
ガヤガヤしていた、教室が少し静まる。
視線が戸に集まるが、そこには誰も
いない、……………
かと思われたが、そこには、
小さくて分からなかったが、
ウサギのぬいぐるみが立っていた。
「なんだ?あれ?」
「うさちゃん?」
また、教室が異様な騒ぎに包まれる。
「ハハッ、何だよこれ?ウサギの
ぬいぐるみが立ってんぞ、
面白れぇ~」
宮本は笑いながらウサギをつまもうと
する。
「おいっ、やめろ!」
俺は何故かそう叫んでいた。
叫んでしまってから、
自分に驚く。
なぜか、この可愛らしいぬいぐるみに
今まで感じたことのない恐怖を
感じていたからだ。
苛められた時だってここまでの恐怖を
感じなかったのに。
クラスメイトは普段静かな俺がいきなり
叫んだので、ものすごく驚いていた。
宮本もぎょっとした顔で見たが、
すぐにニヤニヤを取り戻す。
「なぁに、びびってんだよ?馬っっ鹿
じゃねぇの?」
「そうだよ、あまり触らない方が
いいって!」
村崎も同意する。
ところが宮本は俺の意見に村崎が同意
したのが気に入らなかったらしく、
「大丈夫だって、千草さん。みんな
怯えすぎだよ。ただのぬいぐるみ
だろ?」
そう言ってウサギに手を伸ばす。
ちがう、本当にヤバイんだ。
俺は知ってるんだ……
………知っている?
こんな状況になったこともないし、
はじめて会ったウサギのなにを
知っているって言うんだ?
俺が考えている間にも宮本がウサギに
手を伸ばす。
「……おい、触るな!」
ところが、とうとう宮本がウサギに
触れる。
ザシュゥッ
プシャアァッ
聞いたこともない音がした。
「ほらほら、全然大丈夫だろ?」
宮本が得意気に笑う。
ところが教室は凍りついていた。
「?おい、どうしたんだよ」
バタバタボタッ
何か落ちる音。
宮本が落ちたものをみた。
大量の血。
「!!!うわわっ………何だこれぇ
う……あっぁ……あ」
宮本がバタンと倒れる。
「ぎゃああああああああああああ」
教室に大絶叫が起こる。
ものすごい早技だったが、俺は
しっかり見ていた。
ウサギが思いきり宮本の首をかっ切った
ザシュゥッと。
そして、宮本の首から、大量の血が
飛び散った。
数人が教室から出ようとする。
教室にいる多くは恐怖で動けない。
教室の引き戸にわれさきにと手をかけた
瞬間、
バシュウっと大きな音。
引き戸に手をかけた一人がウサギから
伸びた触手のようなもので
腹を貫かれる。
「……あっあああ」
キャアアアと叫ぶ女子の声が遠くで
聞こえているみたいだった。
ウサギは何も気にする様子なく、
教壇の上にかわいらしい動作で
飛び乗った。
そして、箱を取り出した。
箱には大きく、“生死”と書いてある。
そして、喋った。
「いまから、 “ 選別 ” を
するよ☆☆」
かんだかくて、可愛らしいアニメ声。
キーンコーンカーンコーン
すっかり時間がたっていて、授業の
終わりを告げるチャイムが、
恐怖で異様に静かになった教室に
響いていた。