第8話 フェルラータ・サイギル
ブックマークとPVが増えていて感謝しか浮かびません!
私、フェルラータ・サイギルはサイギル王国の国王夫妻の長女として生まれた。
いわゆる王女とかお姫様とかいうやつだ。
3歳のときには言葉を標準レベルで話せるようになり、5歳で種類が多く、扱いが難しいとされる光魔法、闇魔法を含む基本魔法を全て習得。その後武術でも才能を発揮し、多くの人に期待された。
流石にリンクが使っているような時空間魔法―――時間魔法と空間魔法の総称―――や原子魔法のような規格外は使えないが、人間としてはこれでも十分に驚異的だ。
しかし、弟や妹は違った。
弟は武術では十分に騎士になれるレベルだが魔法はほぼ使えない。
そして妹は魔法の才能には優れ、光と闇以外は一流だが武術の才能は皆無。
普通ならば親からも褒められ、期待されるだろう。それほどに片方に限れば才能があったのだ。
けれども2人が周りから認められることはなかった。
得意分野ですら私に負ける。
2人がかりで数の利を活かしてようやく私ひとりに勝てるレベル。
本来なら褒められるのに私ひとりのせいで何も期待されずに育ったのだ。
2人も最初のうちはやる気で溢れていた。
お姉ちゃんを追い越すのだ、と。
しかし、いくら努力しても私に追いつけないことに気付いていった。
―――それでも2人は努力続けていた。
2人で支え合い、励まし合い、共に成長する。
厳しい訓練の毎日に、2人はみるみる成長していった。
2人が10歳を越えた頃、2人は既に並みの騎士くらいなら1対1でも勝てる程度には成長していた。
当然だ。
元の才能もあり、その上毎日寝る時間と食事の時間以外はほぼずっと訓練していたのだから。
―――だからこそ、2人は挫けた。
10歳にして騎士に勝てるレベルの自分たちより遥かに高いところにいる。
そんな私を見て次第に2人は訓練をしなくなっていった。
10歳の時には週に80時間以上訓練していたのが11歳で50時間に、そして12歳で30時間に。一度堕ちた人間はそのまま堕ちてゆく。13歳の誕生日を迎える頃には訓練に対する熱意だったものは全て私への怨念に入れ替わっていた。
だから私は2人の信頼を得る為に尽くした。
やれと言われたことはどんな無茶なことでもやった。
それで私は2人の信頼を得れたと安堵していた。
ある日、私は父上に学校の転入生について聞かされた。
そう、リンク・エンシャーのことだ。
その人物については弟、妹も聞かされていた。
さらに時は流れ合宿のグループ決めがあった日。私は2人にリンクと同じグループになったことを言った。
普段はあまり会話をしない2人に話すほど、私はリンクと同じグループになれたことが嬉しかったのだ。私と分け隔てなく話してくれるのはリンクくらいだから。
リンクは自分を殺すためにグループに誘ったと思っているがこの時点ではそんなことこれっぽっちも思っていなかった。
しかし、2人の反応は予想外のものだった。
「私は魔族、それも魔王の息子がうちの国の学校に通うのはどうかと思うの」
「僕もそれには同感だな、父上は何を考えているのだろう」
「そうだ!事故に見せかけて殺すことにするわ!姉上、リンクをおびき寄せる役、やってくれますよね?」
リンクのことは好きだが、2人に嫌われたくない私はそれに逆らうことができなかった。
私はその役目を引き受けると共に合宿中の予定を全て2人に伝えた。
合宿2日目、計画通りにリンクを脇道に誘い込む。
しかし、そこで起きたことは予想外だった。
忍者たちが忍術を放つ。そこまでは予定通り。
しかし、忍術は全て私を狙っていたのだ。暗殺対象であるリンクが守ってくれなければ私は今頃死んでいただろう。
信頼を勝ち取れていたと思っていた弟と妹の裏切りによって私の心はズタズタに引き裂かれた。
信頼を得るためにやっていたことが実は自分を殺すためにやっていたことだなんて滑稽だ。
―――どうしてこうなったのだろう……。
私はただ兄弟たちと仲良くしたかっただけなのに。
―――どうしてこうなったのだろう…………。
私はただ兄弟たちに自分たちの才能を自覚してほしかっただけなのに。
―――どうしてこうなったのだろう………………。
そんな思考だけが頭をぐるぐると巡ってゆく。
もうじき私は死ぬだろう。
裏切ったやつを命を張って助ける人なんているわけがない。
リンクもノロアも私を助けようなんて思わないだろう。
浮かぶのは後悔。
―――兄弟たちともっと話したかった。
―――兄弟たちともっと遊びたかった。
―――兄弟たちと笑いあいたかった。
浮かぶのはあるはずのない未来への願望。
私のことを友達だと思ってくれたリンクとノロアを裏切ったことを謝りたい。もっと仲を深めて本当の友達だと言いたい。この合宿を全力で楽しみたい。
浮かぶのは幸せな日々。
兄弟たちが私を恨む前。リンクとノロアと笑いあった僅かな日々。
頭の中を幸福と願望と後悔が埋め尽くし、グチャグチャになっていく。
―――そんなとき、私は体に触れる人の感触に気付いた。
その温かく優しい感触に私の頭が冷えていく。
もしかしてリンクとノロアが助けてくれたのだろうか。
そう期待して私は目を開けた。
名前回。
人の過去を書くのは初めてなので違和感などあったら感想で指摘していただけると幸いです。




