第6話 真夜中の戦闘
3人が寝静まった頃、近くの山で爪を噛んでいる女がいた。
彼女は、リンクとノロアの2人諸共フェルラータを殺そうと思っていた。
そのためにわざわざ手間をかけて生きたままの海獣をとってきたのだ。
今回の作戦を実行するために一流の漁師と一流の冒険者を多く雇った。
それを一撃で葬られた。これ以上の屈辱はない。
彼女は倒せないまでも明日の散策に軽く影響が出る程度には怪我を負わせるつもりだった。
しかし、それができなかったのだから仕方がない。
明日の作戦だけでは不安だ。
彼女は一流の暗殺者を3人、リンクたちの寝ているテントに向かわせた。
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俺は人の気配で目が覚めた。
手練れの冒険者ですら気付かなそうな微弱な気配。
しかし魔族の超感覚と日々の鍛錬がこの微弱な気配を感じ取るに至らせた。
人の気配ひとつひとつにいちいち気を配っていたらまともな生活を送ることはできない。だから普段は意識の外に追い出しているのだが今回はそれを許さなかった。
微弱ながらも冷たい気配。
間違いない、今までに何人も殺ってきている人間だ。
俺はフェルラータとノロアを起こす。
しかし2人とも起きることはない。寝起きに弱いタイプなのだろうか。
いずれにしても今回は俺がひとりで相手をするしかなさそうだ。
手練れの暗殺者3人か……。
つらい戦いになりそうだ。
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いよいよ気配が目の前まで迫ってきていた。
気配は3つ。
並みの相手であれば魔族である俺の敵ではない。
しかし、隠密行動がここまでうまいと実力も大したものだろう。
敵の動きが変わった。
今まではただただ気配を殺してこっちに歩いてきてただけだが、俺の存在に気付いたのか、素早い動きで俺を包囲しようとする。
いくら俺でも相手の実力がわからないうちに囲まれたら分が悪い。
相手が俺に気付かれてないと思っているうちにひとりでも敵を減らしておくべきだと判断した俺は、魔力の動きに相手が気付かないほど早くに魔法を放つ。確実にひとり減らすために速度の速い雷魔法を選択。
刹那、俺の人差し指から飛び出た一筋の閃光が敵のひとりを感電させる。
見た目はただの微弱な電気だが、そこには物凄い量の魔力が込められている。
敵は反応もできずに死に至る。
流石にひとりが死んだとなると他の2人も警戒を始める。
如何に雷魔法が速いといっても警戒してる手練れ相手には通じないだろう。雷と命名されてはいるが、実際の電気の速さには届かない。
敵は電気での攻撃を恐れたのか、土魔法で盾を作り出す。
こいつらは暗殺だけが取り柄だと言うわけではないらしい。
俺は擬似的な雲を作り出し雨を降らせる。
天候操作はできないが擬似的な雲を作り出すくらいなら造作もない。
ただの水魔法だと避けられそうだしこれが一番楽だ。
俺の降らせた雨で敵の盾は溶ける。
土は水に弱い。
さらに敵の足元の地面を土魔法で操作する。
俺の魔法で弱くなった地面は雨水を吸って泥沼になる。
相手が足を取られて動けなくなったところで弱めに雷魔法を撃つ。
片方は調整を間違えた為に死んでしまったが、もう片方は気絶に留めることに成功する。
気絶している間に縄で縛る。念の為無属性魔法の原子操作で縄の材質を変化させて絶対に抜け出せないようにする。
そして俺は再び眠りに着くことにした。
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次の朝、森の中にてある女が地団駄を踏んでいた。
暗殺者を3人も送り込んで失敗するとは思っていなかったのだ。
仕方がない。もうこうなったら意地でも次の作戦を成功させてやる。
もともとこの作戦が本命だ。
そんなことを思いながらも女の顔には憤りと恐怖が刻まれている。
彼女はリンクの力を過小評価していた。
フェルラータを倒したことや、彼があの魔王の息子だということは調べてあったが、それでも学生レベルに留まるとの調査結果だったのだ。
しかし、アマン国立魔法学校に忍び込んだスパイは知らない。リンクがフェルラータを殺さないように手加減して戦っていたことを。
今回の作戦は無数に落とし穴が仕掛けられた森の中で立体的に戦うというものだ。
フェルラータが空中戦をするには魔法を使うしかない。それに対してこちらはニンジャと呼ばれる身軽な動きが得意な者を雇っている。魔力が尽きたときこそフェルラータの終わりだ。
女は二度もリンクに痛い目にあわされながらもまだリンクを過小評価しているのであった。
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「えぇ!?そんなことがあったの!?」
過剰に驚くフェルを不思議に思いながらも頷く俺。
フェルとノロアにムチャをしたことを怒られながら、合宿の2日目はスタートした。




