第5話 孤島に忍び寄る怪しい影
とある森の中、黒ずくめの男たちが穴を掘っていた。
穴掘りひとつにも本気で取り組む姿勢と洗練された身のこなしから一目でプロなのだということが分かる。
「3日後にこの森に訪れるとの報告だ。それまでに罠の設置を終えて近くに隠れておけ」
そう、彼らは落とし穴を掘っていたのだ。
落とし穴と聞けばしょぼい感じがするが、意外に有用性は高い。
手練れでもうまく誘導すれば引っ掛けることができ、存在を感知されてもうまく立ち回ればそっちに意識を集中させて隙をつくることができる。
事前の準備が戦闘では決定的な差をつくる。
そして、罠を掘り終えた彼らは近くの木の陰に気配を消して潜む。もう僅かな気配も感じられない。
気配の消し方の上手さといい穴を掘る手際の良さといい、彼らが一流の暗殺者なのだということは明らかだ。
──彼らが狙う標的はフェルラータ・サイギル、ただひとりだ。
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「うひょあああああああああ!きっもちぃいいいい!」
船の上を吹き抜ける潮風が気持ちいい。
俺たちはアマン国立魔法学校から馬車で一時間くらいのところにある港から出ている船を使って近くの小島に向かっていた。
合宿はこの絶海の孤島で行われる。
観光地として有名な島で、住民は少ないものの観光客が非常に多い島だ。
この島から見える綺麗な海や固有種の多く生息する森などの自然に加えて、それを活かした料理や体験が多くの客を呼び寄せる要因となっている。
今回の合宿では班ごとに自由に過ごして良いことになっている。
クラスごとに行動したりはせず、3日後の帰りまで全くの自由だ。
……つまり何かが起こっても誰にも気付かれない。
俺たちは森の中を散策したりバーベキューをしたり、夜空を見上げたりとごく定番なプランを立てている。
1日目は取りあえず夜まで近くの海で海水浴だ。
万年常夏のこの島ではいつでも海水浴を楽しむことができる。学校から馬車と船でせいぜい3時間なのにどうしてこんなにも気候が違うのだろうか。
それにしても海は初めてなので楽しみだ。
噂によるととても気持ちいいらしい。
魔界には海なんてなかったからな。船でも興奮しっぱなしだった。
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海についたらまず、荷物を置くためにテントを張る。
そして全ての荷物を置いたあと、一旦女子勢には外に出ててもらってちゃちゃっと水着に着替える。
男子の着替えシーンは解説しても誰も得しないから省略しよう。
そして5分後。
俺はテントの外に座っていた。
テントの中からは衣擦れの音が聞こえてきて、その音が俺の想像力をかき立てる。
「おっかしいぁ、入らないわ。去年まではしっかり着れていたのに」
何かが聞こえてくるが意識してその言葉の意味を理解しないようにする。
うっ、ダメだ、息子が成長しちゃう……。
「何してるのよ……変な顔して……」
必死の形相で煩悩と格闘していた俺に着替え終わったフェルが話しかけてくる。
若干引かれている気がするが気のせいだろう。原因をつくったやつに引かれたら俺は泣いちゃう。
睨みつけるようにフェルの方を向いて、そして俺は固まった。久方ぶりの思考停止だ。
詰まるところフェルが美しすぎた。
陽光を反射するさらさらの銀髪と白い肌。大きな胸を覆う、シンプルな白いビキニ。程よくくびれたウエスト。水着はシンプルだが、元がいいフェルにはとてもよく似合っている。
「かわいい……」
無意識のうちに言葉が零れる。
それほどに美しかったのだ。
かわいいと言われたフェルの頬は朱色に染まり、それが一層フェルの美しさを際立たせる。
固まった視界の先にノロアが映った。
フェルとお揃いにしたのだろうか、こちらも白いニキビをつけていた。
薄水色のショートヘアーと控えめな胸、白いニキビが素晴らしいハーモニーを生み出している。
美少女2人に挟まれて俺は幸せ者だなぁ……。
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3人でしばらくちゃぷちゃぷしてると、遠くから殺気が近付いてくるのを感じた。
これは海の沖の方からだ。
3人でしばらく警戒する。
次第に近付いてくる影。それの正体は巨大な海獣だった。
海獣はそこそこ危険だ。
魔法は使わないが、海の中を自由に泳ぎ回り強力な物理技で攻撃してくる。
危険度B級に指定されていた気がする。これは全魔物の中でもそこそこ高い戦闘能力を持つということだ。
まずは小手試しだ。一旦海から出ると軽く雷魔法を一発お見舞いしてやる。
海獣の死体が海から浮き上がってきた。
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「いやぁ、楽しかったなぁ」
俺たちは海を十分に堪能し、そのまま海辺でバーベキューをしていた。
さっき倒した海獣の肉を焼きながら零した俺の呟きに2人も肯定する。
「楽しかったわね」
「楽しかった……」
3人で競泳したり、海獣を倒したり、海岸に埋まったりと遊び尽くした。
焼きあがった海獣の肉を頬張る。
予想外にうまかった。
柔らかい肉に香ばしいにおい。正直ここまで美味しいと思っていなかった。
巨大な海獣を食べ終えた頃には皆お腹いっぱいだった。
そしてそのままテントに倒れ込んだ3人の寝息が聞こえてくるまでに時間はかからなかった。
こうして1日目の夜は更けていった。
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