第3話 俺の魔法が強すぎます。
翌日、今度こそ遅刻しないように早めに家を出た。
流石に二度目だし学校見て思考停止したりはしないだろう。多分。きっと。恐らく。めいびー。
何ひとつ問題が起きないまま、教室までたどり着く。
早く来すぎたせいか、部屋には誰もいない。
SHLの開始時刻は8時30分となっていたはずだが、まだ7時30分にもなっていない。いくらなんでも早く来すぎた。
やることもないし魔法の練習でもしよう。そう思って深く考えることなく魔法の練習を始めた。
まずは教室に被害を及ぼさないように小さい炎を手から生み出そうとする。
俺は魔法の威力と規模の調節が苦手なのだ。端的にいうと不器用。
不器用だと初級魔法のひとつ操るのにも苦労する。
最初のうちは大きくなりすぎたり、かと言って小さくしようとすれば使い物にならないほど小さくなったりとかなりの不器用さを発揮していた。
前よりもマシにはなったものの、今でも魔法の調節は苦手だ。
俺は全身の神経を手に集中させる。
体中の魔力を全て手に集めるイメージで。
ここでは体中の魔力を一点に集めるイメージが大切なのだ。
手に魔力が集まっていくのを感じたら、それを炎に変換する。これもイメージが大切だ。
そうすると炎が手から……ん?
……いつも炎が大きい気がする……。
目をこする。しかし見える光景は何も変わらない。
俺は苦手を克服するために何千回、何万回とこの作業を繰り返してきた。
しかし、炎が大きすぎるなんてことは初めてだ。
このまま校舎に燃え移り、俺の制御下から外れたらこの校舎を全て焼き尽くしてしまうだろう。
この炎にはそれほどの威力がある。
いつも以上に炎が強いからかコントロールができない。つまり炎を消せない。
どうしよう……。
風圧で消そうとすると酸素を送り込むことになり、より激しく燃える。さらに、最悪の場合には風で火が校舎に移ってしまう。
水で消しても良いが、俺の体と服と、教室が水浸しになってしまう。
ここで最も有効なのは酸素を抜くことだろう。
酸素を失った炎は燃えることができずに消える。
俺は風魔法に属する酸素操作の魔法を使う。
酸素のみを移動する。これは予想以上に疲れる。
炎の周囲から酸素を奪っていくと次第に炎の燃える勢いは弱まっていった。
苦労して火を消したときには既に8時を回っていた。
消している間にあっという間にときがすぎてしまった。
火を出すことはできても消すことはできない魔法は意外と使ってみると不便なものだ。
稀に魔法を魔力に戻して体内に吸収できる人もいるが、大概の人はそんなことできない。そして、使用魔力量が変わらないのなら大きさを変えても密度が変わるだけで大した意味はない。
結局その日はずっと突然炎が激しく燃えるようになった理由を考えていた。
魔界で修行したときはこんなことはなかった。
魔法の威力は「自分の魔力量×周辺空間の魔力量」で決まる。
魔界は魔力が薄い。魔族たちが自分が強くなるために乱用したからだ。
つまり、今回炎が強くなってしまったのは魔界よりも濃い濃度で魔力がある人間界でいつもと同じ威力の魔法を使おうとしたからということだ。
「なんてこった……」
俺はこれ以上魔法を弱くできない。
しかし、これでは人間など一瞬で焼き尽くしてしまう。それはまずい。
まあ、おいおい考えてけばいいか……。
▼
今日は早速模擬戦を行うらしい。
勝者に自信をつけさせ、敗者に悔しさを植え付ける為だろう。どちらも成長には欠かせないものだ。
とりあえずは魔法なしで戦えばいいだろう。
苦手ではあるが魔族の身体能力は人間のそれより高い。
きっとどうにかなるはずだ。
事故が起きても対処しやすいように、模擬戦の際には回復魔法が使える教師が一人以上関わるようになっている。
その教師というのは校長先生だった……。
回復魔法まで使えるのか、校長先生はかなり強いな。
そして対戦相手が発表される。
この対戦相手というのは入試のときの評価が近い人同士になる。
ただし、俺は入試を受けていないので対戦相手はクラスで一番入試の評価が高いやつになるらしい。
果たしてその相手というのはフェルだった。
見た目はただの可愛い女の子なので強いとは驚きだ。
試合が開始される。
ルールは魔法ありで相手に攻撃を当てる、あるいは寸止めで勝ちだ。
魔法を使えない俺は最初に距離を詰めることにする。
50メートル離れてスタートだったのだが、その50メートルを一気に20メートル程まで詰める。
しかし、そこまで走ったところで目の前の地面に大きな穴が空く。土魔法の類だろう。
俺はそれを思い切り跳んで避ける。勢いがついていた俺はそれ以外によける方法がなかった。
無論俺も空を飛べるわけではない。風魔法を利用するなど手はあるが、今は魔法にコントロールが効かないので止めておく。
しかし、自由に移動できない空中で戦うのは辛い。
火魔法をものすごい勢いで打ち込んでくる。今のところは全て裁き切れているが時間の問題だろう。
そこで俺は目を思いっきり閉じた。
そしてそれと同時に特大の光魔法を放つ。
その明るさは本来の威力で太陽と同等。空間魔力量が多く、威力の上がっているそれを直視したのだからしばらく目は眩んだままだろう。
その隙に着地を果たし、残りの距離を一気に詰める。
そして全力のパンチを放つ。
しかしそれは何かに阻まれる。
無色の盾。
それは光魔法で作り出した盾に違いない。
土魔法でも盾は作り出せるが、無色は光魔法にありえない。
光魔法は使い道が多い上にひとつひとつの使い勝手が良いが、扱いが難しく使える人は少ない。
そして、盾の解除と同時に高威力の火魔法が飛んでくる。
恐らくわざわざ相手に見えない光魔法を使ったのはこれが狙いなのだろう。
とっさに土魔法で壁をつくり防御する。
そして、土魔法の壁を砂にバラすと同時にもう一度殴りかかる。
全力のパンチが通じないので、強化魔法を使う。
すると今度はあっさりと盾を破壊し、フェルを殴り飛ばすことができた。
「勝者!リンク・エンシャー!」
流石に女の子を思い切り殴り飛ばすのはどうかと思うが、手加減の余裕がなかったので仕方がない。
せめて回復魔法をかけておこう。
不器用な俺だが、威力と規模の調節が苦手なだけなので扱いの難しい回復魔法も操れる。
因みに、回復魔法というのは一般的には光魔法に属している。たまに闇魔法で死者の蘇生を行えるやつがいて、その蘇生も回復魔法に含めることもあるそうだが……。
「あいつ入試の評価が一番だったフェルラータ様を倒しやがったぜ?」
「王女様相手に容赦ねぇな……引くわ……」
「おい、しかもあいつ回復魔法まで使えるのか!?」
え!?フェルって王族だったの!?
後で謝っておこう……。
俺が内心ビビっていると、怪我が治ったフェルが
「楽しかったわ、回復魔法もありがとう」
と笑顔で話しかけてきた。
……不覚にもドキッとしてしまう俺だった。
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