第2話 校長と初めての友達
2017/09/11 下品な表現を消してまとも(?)な内容に訂正しました。あまり面白くないと思ったので。その過程で元々より若干文章が短くなりました。
今朝の騒ぎのことで怒られるのかとビクビクしながら俺は体育館から校舎に繋がる渡り廊下を歩いていた。
……とりあえず周りの流れに身を委ねよう。
そしてやたらと広い校舎の中を数分歩いた頃、俺は不意に声をかけられる。
「ねえ、校長室はこっちじゃないと思うわ」
「えっ?」
「だから、校長室はこっちじゃないと思うわよ?」
声をかけてきた銀髪美少女の蒼い瞳を見つめながらリンクは固まる。
「…………え?」
俺の喉の奥から漏れ出た声は自分でも聞き取れないほどにかすれていた。
大きな騒ぎを起こした上に呼び出しにすら応じない。
そんな問題児だと思われたら俺の学校生活は予想してた華々しいものではなく教師、生徒問わず学校に存在する全員から冷たい視線を向けられる地獄へと変貌するだろう。
あぁ、闇が見える……。
リンクは震える声で銀髪の少女に校長室の場所を尋ね、教えて貰うと、またもや転移魔法の存在を忘れて一目散に駆けていった。
▼
「時間かかってすみませぇぇぇぇぇええええええええんッッッ」
ものすごい勢いで叫び声を叫びながら校長室に飛び込む俺、その勢いに驚いて椅子から滑り落ちる校長、まるまると肥えた校長が滑り落ちたことによって起こる震度5の地震に匹敵するくらいのものすごい振動、その振動で倒れる棚、落ちる小物。床が抜けるところまではいかなかったが俺の腰が抜けた。
もともと綺麗に整理整頓されていた校長室は今や混沌としている。
「バカ者!」
あまりの剣幕に怯んでいると、校長を中心に物凄い勢いの竜巻が巻き起こった。
ここまでの威力の竜巻は恐らく風魔法の中でもかなり上位だろう。魔族である俺ならこのくらいは容易いが。
とにかく、この竜巻のせいで校長室は凄いことになっていた。
校長が椅子から滑り落ちた勢いで散らかっていたものがさらに竜巻によって散らばる。
校長が椅子から落ちたときには耐えていたものまで拡散されている。
俺がやるわけではないけど片付け大変そうだなぁ……。
▼
校長の竜巻と反対の向きに同じ威力の魔法を打ち込むことによって魔法を相殺させた俺は今、校長から謝罪を受けていた。
「ぐおっほん(咳払い)、すまぬな、つい取り乱してしまった。あんな高威力な魔法を使うつもりはなかったんじゃ。許してくれ」
「い、いえ、それは構いませんがどういった要件で私を呼び出したのでしょうか……」
実際構わないなんてことはないのだが、あまりあの竜巻を起こされても困るのでに早く話題を変えて先程のことは忘れたい俺は早速本題に入ることにする。
「うむ、今回呼び出したのはお主に感謝を伝える為じゃ。お主が朝素晴らしい力を見せつけてくれたお陰で他の生徒たちは慢心することなく魔法を学ぶことができるじゃろう。国王のやつの狙いは早くも達せられたことになる。ありがとう」
あまりにも予想外の目的で俺は口をポカンと開ける。
いや、予想が外れたからだけではない。さっきまでの下品な面影は全くなく、真面目な顔でお礼を言うからかなり驚いた。
人間界に来てから驚かされてばかりだと思う俺。
魔界にいた頃にはめったに起こらなかった思考停止が頻繁に発動している。
戦闘中にはいかに予想外のところから攻撃を仕掛けられようともうまく対処してみせる俺だが、日常生活での予想外は思考停止を発生させるようだ。
これが戦闘中にまで発動するようになってしまったら拙いことになる。早く克服しなければ……。
「まぁ、そういうことだ、ゆっくりしていけ」
「……!?」
さっきの「バカ者」とは打って変わった優しく、穏やかな声に俺は戸惑いを隠せない。
それに気付いていない筈はないが、敢えて気付いていない風に振る舞い、紅茶を入れる校長。
「いただきます」
かなり良い紅茶なのだろう。
今まで飲んだ紅茶の中でも最高レベルでおいしい。
「これは感謝の印じゃ、困ったら使え」
と言ってどこかの貴族の紋様が印されたカードを渡してきた。
この国で一定以上の身分を持つ家系には、家系を表す紋様があるのだ。
「何ですか?これ」
「わしの家系はそこそこ大きな貴族でな、街に出たときにそのカードがあれば多少は融通がきくだろう」
校長が貴族だと知って俺は驚いたが、意識して放心状態にならないようにする。
俺は暫く校長と雑談を交わしたあと、自分の教室に戻ったのだった。
▼
俺が教室に戻ると午前の授業が終了していた。
どうやら校長室に予想以上に長居してしまったらしい。
……仕方ないじゃん……ソファとかふかふかだし紅茶おいしいし校長との話も飽きないんだもん……。
「何の用だったの?」
うん?俺に声をかけてくるような友達はいないんだが……とか思いながら声のする方を向くと、そこにはさっき道を教えてくれた銀髪の美少女がいた。
長い銀髪に宝石をはめこんだような蒼く美しい瞳、雪のように白い肌。
とてつもなく美しいその少女に見つめられ、俺が口を開けないでいると、
「あぁごめんなさい、私はフェルラータ、気軽にフェルって呼んでくれていいわよ」
と軽い感じに自己紹介をしてきた。
「お、俺はリンクだ。よろしく」
俺たちは握手を交わす。
初めての友達ができた瞬間だった。
フェルと別れて自分の席に座る。
弾む胸──フェルにドキドキしたとかじゃなくて授業への期待だと信じたい──を落ち着ける為に俺は居眠りをすることにした。