第17話 盗賊退治
朝、宿の屋根から漏れてくる光の眩しさに目を覚ます。
「ん?なんだか騒がしいな」
外で騒ぎ声が聞こえる。
宿から出てみると、そこには怪しい格好をした数人の男たちがいた。
「どうしたんですか?」
近くにいた年若い女性に聞く。
「盗賊が来たのよ。一回食料を渡してしまってから調子に乗ってしょっちゅう来るようになっちゃったの」
なるほど。それでみんなやせ細っていたのか。
「さあ!この袋いっぱいに食料を入れてもらおうか!」
やたらと高いテンションで盗賊が告げる。
村人たちが少量の食料を入れていく。
「おいおいおいおい!どうした!?足らねえぞ?」
見たところこの村に戦えそうなやつはいない。
ならば……。
「お姉さん、俺を袋に入れて中がわからないようにして盗賊の袋に入れてくれ!」
俺は土魔法で土を大量生成すると、原子を操ってビニールにする。
「頼む、俺ならあの盗賊共をどうにかできるから」
お姉さんは沈黙する。
しかし、少し考えたあと、わかったわといって俺を袋に詰め始める。
「おいおいおいおい!早く!食料を!もってこーい!」
お姉さんが俺を盗賊の持ってきた袋に入れた。
貴重な肉をまるまる一匹入れたと勘違いされたのか、お姉さんに冷たい目が向けられる。心の中で謝っておこう。
「よし、またくるぜぇー!」
盗賊が動き出した。
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30分ほど袋の中で揺られたあと、盗賊の声が聞こえた。
「へいへい帰ったぜ親分!」
そろそろいいだろう。
俺は索敵魔法で敵の数と場所を探る。数は4。みんなで固まったるから倒しやすそうだ。
袋を破り捨てて脱出する。
まだ盗賊たちは気付いていない。
火魔法で親分とやらを含む3人を焼き尽くす。
盗賊は混乱している。
そこへ忍び寄って鉄魔法で作り出したナイフを盗賊の喉元に突きつける。
「さあ、質問に答えてもらおうか。正直に答えてくれれば殺さない」
「ひぃっ!」
盗賊は情けない声を上げる。しかもこいつ失禁してやがる。汚い。
「質問は3つ、場合によっては2つだけだ。まずひとつ目。食料以外に取ったものはあるか?」
観察魔法で嘘をつかないか、表情を読み取る。
「なっ、ない!」
ふむ、嘘はついていないらしい。
取ったものがあるなら聞こうかと思ったけどないらしいからいいや。
「次だ。他に盗賊仲間はいるか?」
「いないっ!4人だけだ!」
これも本当らしい。
こんな雑魚3人でよく盗賊なぞやろうと思ったものだ。
まあいいや、こいつは村に差し出そう。
素早く縄で縛り付ける。
怪しまれると困るからゆっくり歩いて帰った。
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帰ると多くの人に感謝された。
もう一年ほどもあの盗賊たちに苦しめられていたらしい。
帰り道にいた熊を差し出すとさらに感謝された。
その日の夜はお祭り騒ぎだった。
俺が差し出した熊を村一番の料理人が調理し、みんなに配っていた。
臭みもとれててなかなかにおいしかった。
俺はもう一晩宿に止まってこの村を出ることにした。
この調子なら、気持ち良くこの村を出ることができそうだ。そう思っていた。
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ドタドタドタ!
誰かの足音で目が覚める。
騒がしいな、などと思っていると勢い良く宿のドアが開けられた。
「おい、あんたこれ……」
宿の店主が持っていたのは俺の顔写真が貼られている手配書だった。
くそっ……。
俺はやけくそ気味に宿の壁を叩いた。
思った以上に国の対応が早かった。
既にこの村の位置は聞いていた。王都から遠いから問題ないと思っていた。
「詐欺め!盗賊退治したのも食料を提供したのも何かの企みなんだろ!?」
あぁ……これからどこ行ってもこんな感じなのか……?
俺の胸中は絶望に彩られた。
覚悟が甘かった。手配書ひとつでここまで対応が変わるものだとは思っていなかったのだ。
宿屋の店主がナイフを持って襲いかかってくる。
ああ、やめてくれ……俺は手加減が苦手なんだ。殺してしまう。
「やめなさいよ!」
そこには昨日のお姉さんが立っていた。
「この子はこの村を救ってくれたのよ!?その恩人を疑うなんて礼儀も知らないの!?私は後で後悔したとしてもこの子を信じるわ!」
こんなことを言ってくれる人もいるのか。ならば昨日村を救った意味もあったのかな。
「ありがとう……お姉さん」
俺はそう残すと、村を後にした。