第16話 逃亡
新章です。
俺はカインに嵌められた。
今の俺が頼れるのは3人の仲間たちだけ。
一番の学校を破壊し、さらには王子に殴りかかり、そして王女2人と共に逃走した俺をサイギル王国が受け入れてくれるわけがない。
魔王である父上も敵に回るだろう。理由はふたつ。俺は魔族と人間の間に不要な軋轢を生んだ。これを魔王として許す訳には行かないだろう。そして、個人的な付き合いもあったサイギル王国王の国の重要な施設を破壊した俺を個人的にも許さないだろう。
そして、この二国以外に俺を匿ってくれそうなところはない。
4人で他国に逃げよう。それしか道はない。
いや、3人は置いていこう。今ならまだ間に合う。
俺のせいで3人を危険な目にあわせるわけにはいかない。
ここまで考えたところで俺は口を開く。
「もう俺も自分で飛べるよ」
今は風魔法を使えるフェルが俺を、セラリアがノロアを抱えている状態で飛んでいる。
フェルに俺を離してもらい、俺は全力の風魔法で3人を撒こう。
そこからは……そうだな、北にあるカノエアクラ皇国を目指そう。
あそこなら人が少なく、仕事が多いから簡単に雇って貰えるだろう。
先のことはなにもわからないが取りあえず生き抜こう。楽しいことが何一つなかったとしても。
「じゃあ離すわよ」
そういい、フェルは俺を離す。
それと共に、俺は一度に多くの魔法を重ねてかける。
飛ぶと共に加速にも使える風魔法、さらに加速させるための火魔法、水魔法、強化魔法。風魔法で正面の空気を操り、空気抵抗をなくす。さらには正面にあった空気を3人の正面に移動させて減速させる。
本当は空間魔法か闇魔法でワープしても良かったのだが、異空間に入るのにはどうにも勇気がいる。
「あ、ちょ、待ちなさいよ!」
「待ってくださ~い」
「…………」
フェルとセラリアの声が聞こえた。ノロアは声が小さいからか聞こえなかった。
呆気なく俺は3人を撒くことができた。
これで3人は帰り、いつも通りの生活を送れるだろう。いや、学校がなくなったからいつも通りは無理か……。
今どこに向かっているのかわからない。取りあえず近くの町か村を探そう。
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村を見つけたので少し遠くの森に降り立つ。
直接村に降りなかった理由はふたつ。ひとつは村人を怖がらせてしまう可能性があるから。もうひとつは金を得るために森で狩りをしたかったからだ。
味に定評がある鹿か熊あたりがいい。
熊は臭みが強いが、調理法次第ではそれを消し、とてもおいしく加工できるため人気がある。
このあたりをまるまる持って行けば宿泊料と食費、情報料くらいにはなるだろう。
そんなことを考えながら森の中を歩いていると背後でがさっと音がした。
すぐにでも魔法が使えるように手に魔力を集め、音がしたほうを向く。
「チュー」
なんだ、ネズミか。ネズミは可食部が少ないから逃がそう。
損した気分だ。
索敵魔法を発動しながら森を歩く。
しばらくして鹿と思われるものが引っかかった。
俺は音をたてずに、けれども素早く鹿の方に走る。
―――いたッ!
俺は最も速く打ち出せる光魔法の矢を放つ。それは鹿の脳天に吸い込まれ、鹿を確実に絶命させた。
遅くなる前になんとか鹿を倒すことができた。
皮は売れない。食料になる部分の肉だけ剥ぎ取って空間魔法に放り込む。角はその場で加工して短剣にする。魔法の方が圧倒的に強いが役に立つかもしれない。
俺は悠々と村を目指して歩いた。
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村の門の前に付く。
そこでどうして良いかわからずにうろちょろしてると凄まじい勢いで土魔法の矢が飛んできた。
ひとつの小村に強い者がいるとは思っていなかった俺は油断していた。避けられない!
土の矢が俺に当たり、砕けた。
魔族でも土魔法の矢があのスピードで飛んできたら痛みくらい感じると思うんだけど……。
そこで当たったところを見て理解する。
―――さっき鹿の角で作った短剣に当たってた。
こんなに早く役に立つとは思わなかった。
そして、まだ矢の攻撃は続くが一度目の不意打ちを避けた時点で敵が俺に矢を当てられることはない。
相手の矢を捕まえて投げ返した。ただし急所は外してあるから死にはしないだろう。
それは腕に刺さっていた。あまりの痛さからか失神している男が転がっている。
男の頬を叩いて目を覚まさせる。
「お前は誰だ?どうして俺を狙った?」
「最近村に盗賊がくる。それかと思った」
「俺は入っていいのか?」
「盗賊じゃないなら入っても良い。矢打ってごめん」
よし、村に入ることはできた。
さて、まずは肉を売っちゃおうかな。
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肉を売ると、盗賊の侵略で食料難に陥ってたらしく感謝された。
周りを見ると確かにみんなやせ細っている。
今日は疲れた。
さっさと寝よう。
俺は宿屋をとって、すぐに眠りに落ちた。