第11話 転校生が来たこと以外はいつも通りの日常
新章でござる
「くそっ、くそぅっ!セラリアも使えねえなあ!」
広々とした部屋に若い男の声が響き渡る。
男は怒っていた。
今までずっと一緒にフェルラータを殺す計画を練ってきたセラリアが1回目の作戦でフェルラータと和解してしまったからだ。
彼はセラリアのような妬みでフェルラータを殺そうとしたわけではない。セラリアのように自分の才能を自覚していないわけではない。
ただ、自分の才能を認めた上でそれより上に立っているフェルラータを邪魔だと思い殺そうと思っただけだった。
最初は自分で努力してフェルラータよりも上に立とうと思っていた。
しかし、10歳で挫けた頃にフェルラータを落とすことを考え初め、13歳で訓練をやめた頃にはそのことしか考えていなかった。
そして彼は思う。
―――セラリアが使えないのなら自ら殺しに行こう。
▼
合宿から1ヶ月が過ぎた。
最初は合宿のことで申しわけなさそうにしていたフェルやコミュニケーションが苦手なノロアとも今ではかなり仲良くなった。
授業を受け、3人で昼食をとり、授業を受け、3人で帰る。
こんな日常がずっと続けばいいと心から思う。
▼
「今日は転校生が2人も来ま~す」
いつもながら軽い調子で担任はそう言った。
そして先生の後ろからついてきた転校生の顔を見て、彼女を知っている俺とフェル、ノロアは驚く。
―――その転校生の片方はセラリアだった。
「……へ?」
情けない声を出すフェルだったが、俺も今はそれを突っ込めるほど余裕がない。
セラリアと一緒に転校してくるってことはもうひとりは第一王子のカインだろう。
「セラリア・サイギルです。よろしくお願いします」
「カイン・サイギルだ。よろしく」
2人は簡単に自己紹介を済ませる。
セラリアとカインの美しい容姿にクラス中から歓声が上がる。
セラリアは金髪碧眼で、長い髪はふわふわとしている。撫でたら気持ちよさそうだ。
カインは男にしては長めの金髪に少しキツい碧眼。
2人とも身長は俺より一回り小さいくらいで整った顔立ち。
クラスメイト達が歓声を上げるのも頷ける。
セラリアが自己紹介のときに俺の方を見てた気がするけど気のせいだろう。
…………気のせいだよな?
▼
午前の座学授業が終わり、昼食の時間になる。
さっさとどこかへ行ってしまったカインと違いセラリアは俺たちのところへくる。
そこで俺は4人でいつも昼食をとっている屋上へ向かう。
屋上につくと、みんなで弁当を広げながらセラリアにどうしてこの学校に転校してきたのか聞く。
「皆さんと一緒に勉強したかったからです!」
勢い良く答える。
「でもセラリアはそうだとしてもカイン王子はどうなんだ?」
「カインは私がお父様に転校したいと言ったときに僕もとか言い出したんです」
王子もフェルのことを嫌っているみたいだし何か企んでいるのか?
「それにしてもよくお父様が許可したわね」
「えっへん!私はお姉様までは行かなくても魔法は得意なのです!」
実際は凄まじいのに少し得意くらいにしか思っていないのがセラリアの可愛いところだ。
あと、呼び方が姉上からお姉様になって前より敬意が篭もってる気がする。呼び方は堅苦しいままだが王族である以上仕方ないのだろう。
「セラリアがすごいのは知っているわ。不思議なのはカインよ。あの子、武術は一流だけど魔法は使えないじゃない」
そう言われるとそうだ。
ここはアマン国立「魔法」学校と言われるだけあって入学試験もすべて魔法。魔法のエキスパート達が集まる学校なのだ。
「お父様も甘いところあるからなあ……」
確かに国王ならば権力で転校させるくらい余裕だろう。
これ以上考えても仕方ないか。
「さあみんな、昼食にしよう」
俺たちは広げっぱなしになっていた弁当を食べることにした。
▼
午後の実技授業が始まる。
多少はマラソンや筋トレ、武術も行うがメインは魔法だ。
比率でいうと1:4くらい。
魔法を的に当てる練習のとき、俺はセラリアを見ていた。
フェルに才能があると言わせるだけあってその魔法は凄まじかった。
必ず的に当てる命中率、的を貫通する威力、ほぼラグがなく的まで到達する速度。どれをとっても一流だ。
命中率は完全に個人の技量だし、みんな同じ魔法を使っているはずのに威力も速度も段違いだ。
普段から俺やフェルの魔法に慣れているため、少し強いくらいの魔法では驚かないクラスメイトたちだが、これには呆然としていた。
因みにカインも全く魔法を使えない訳ではないらしく、一応魔法を的に当てていた。
恐らくクラスで最も威力も速度もなく、命中率もあまり高くはなかったが。
▼
放課後。
再びどこかへ行ってしまったカインを放っといて4人で帰宅することにする。
俺が借りている家と王城、ノロアの実家は学校から見て同じ方向なのだ。
因みに近い順にノロアの実家、王城、我が家で俺はいつもひとりになった後は強化魔法を使って走って帰っている。
他愛のない話をしながらダラダラと歩き、やがてひとりになる。
さっさと家へ帰り家事を済ませる。
風呂へ入って歯を磨いて魔法の練習をし、日付が変わった頃に寝る。
こうして、転校生が来たこと以外はいつも通りの1日が終わっていった。