表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オークション工房  作者: とびうお
2/5

第2話「山田、初入店」

 その日、山田はオークション工房に足を運んでいた。

 数か月前に突如として閉店した「すしや工房」に代わり、新たに開店した「オークション工房」は、開店して1か月たった今でも依然として謎に包まれた店だった。


 外装は「すしや工房」の頃とほとんど変化がない。

 温かみのあるベージュの壁に、黒い縁でおおわれた窓、黒い瓦屋根は陽光が反射してまぶしく光っている。堂々とした入口が建物中央に設けられており、和風な自動ドアもそのままのようだ。


 変わったところと言えば、屋根の上にある大きな木材を模した看板と、入り口に設置されている真っ白な「のれん」だ。

 達筆な字で「すしや工房」と書かれていたのが、「すしや」の部分だけ赤い筆でバツされて、空白の部分にまるで蛇が這ったような字で「オークション」と書き足されている。


 要するに、外装に関しては「すしや工房」の頃からほとんど手が付けられてない。

 一見手抜きにも見えるが、別にこだわりもなければこれ以上の手を加える必要がないともいえる。

 まあ、確実に費用の節約にはなっているだろう。


 この奇妙な店の情報は、開店当初から大学生の間で活発にやり取りされた。

 「あれはリサイクルマーケットみたいなものだ」とか、「うちの大学の学生が経営している」とか。


 実際に行ってきた大学生や、憶測でものをいう大学生の情報が混じり合い、いずれの情報も真偽は定かではなく、矛盾している内容も多かった。

 そして、これらの情報のやりとりの結果、実にシンプルな結論を共有するようになった。


「あの店は危険だ。行くやつは頭がおかしいやつらだ」


 もともと、学生の構築した「システム」を潜り抜けてできた店だけに、大学生たちは「オークション工房」に良い印象を持っていない。それに加えて、情報の混乱まで起きている。


 これまでの常識が、システムが通用しない。

 何をしているのかよくわからない。


 いや、おそらくオークションをしているのだろうが、大半の大学生にとってオークションなんて身近なものではない。お世話になることも少ない。自分たちの手に負えない存在にはなるべく近づかないのが人間というものである。「触らぬ神に何とやら」である。


 こうして、「オークション工房」は大学生が寄り付かない店となった。


 山田としても、「オークション工房」に行く気は毛頭なかった。

 今、大学内を取り巻く流れを無視して、周囲(大学生)の目がある中でオークション工房に行くのは、リスクが高すぎるのである。


 とある大学生がオークション工房を訪れた翌週には「あいつはオークション工房に行った奴」として白い目で見られた実例がある。集落社会に近い我らが母校では、その行為は命とりである。


 しかし、山田に撤退は許されない。

 山田は後ろポケットにある財布を取り出して、その重さを確認するように手の中に抱え込むと、深呼吸をしてのれんをくぐった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ