5話:借物
伏見美玲と言う女には訊きたいことが沢山ある。不自然な点があまりに多い。
こちらに来てどれくらいになるのか? どうして日本語が喋れるのか? なぜ俺に頼んだのか?
しかし今は置いておこう。もし関係がこれからも続くなら、そこでいずれ知れるだろうし、続かなければ、それはそれで良い。
彼女が俺を愛すか否かを俺が決めろ、彼女らそう言った。そんな関係はちょっと気持ち悪くてごめんだ。到底愛されているという実感も得られないだろう。だから関係が続かないのは望むところだ。
まぁ先のことはいいんだ。今は話を前に進めよう。
「じゃあ、約束の男の件だけど」
彼女は手にしていたグラスをテーブルに置く。
「すまないけど、俺は戦って勝てるほど強くない」
「そうでしょうね」
随分とはっきり言う。しかも何故かどこか嬉しそうに。
「寝床を見つけて、寝込みを襲う。それくらいしか勝算は無いと思ってるけど」
寝込みを襲う。勝つ見込み。ケンカひとつしたことない俺が? どうもいまいちピンと来ないんだよな。
「他に案は無いかな?」
一応美玲にも聞いてみる。
「私に考える頭はございません。その様に生きてきませんでしたから」
どこか誇らしげに彼女は語る。思い悩んだり、考え込むことが自分には必要ない。俺はそう理解した。実際そうだったんだろうな、美しい彼女は。
「ですが身を守る為にも武器は必要でしょう。幸太郎様は華奢な体であられますから。あの男の様にナイフなどは如何でしょうか?」
「殺傷能力の高いものはなぁ。殺す気はないんだよ」
美玲は不思議そうに首をかしげる。
「相手は殺すことも厭わない男です。必要でしょう」
自分が戦う姿も、勝利する姿も、相手が要求に素直に応じてくれる姿も全く想像できない。まだ話し合って交渉する方に可能性がありそうだ。
「武器であれば、良いお店がございますが?」
なんで知っているんだ、とも思ったが口にするのはやめた。俺だって異世界に流れ着いたら、身を守る術くらいは調べるはずだし。そう無理矢理納得した。
「分かった。じゃあ明日行こう」
今日はもう眠い。時計の針も一日の終わりに向かっている。武器屋とやらも閉まってるだろう。
「いえ、明日まで待たれる必要はありません」
「ん?」
「その御店は夜に開いているのです」
俺は2人分の飲食料を支払う。想定よりか少しだけ高かった。
エールハウスを出ると満月が俺たちを見下ろしていた。
「着いて来て下さい」
この先は美玲に案内して貰う。
彼女は中心地から少し外れた風俗街を通って、その裏道に周る。
土地勘のある地元民でもあまり知らなさそうな道――その先に目的地はあった。乏しい想像力を駆使してイメージした武器屋の姿は微塵もなかった。それは何の情緒もないただの雑居ビルだった。付け加えると、そこは俺が薬指を失った事件現場でもあった。
「この建物の五階になります」
「いや、ここは……」
俺は事情を説明する。
あの日『二度と来るな』と言われた。俺を無慈悲に拒絶する言葉を一字一句覚えている。思い出すと胸が痛む。
美玲はにっこりと笑った。
「困った時は頼って良い……なんてよく有るセリフだがな……私を頼るのはやめろ。今後二度とその惨めな顔を見せるな」
どうやら葛切さんの口調を真似ているようだ。似てはいない。声に丸みを帯び、葛切さんほど棘がなく聞こえる。
「じゃあ参りましょうか」
「じゃあ、じゃない。俺の話をどこかで聞いていたのか?」
「ちゃんと聞いていましたよ。それが何か?」
なぜソコにいたのか? 葛切さんとの関係は? 今までなぜそれを黙っていたのか?
ツッコミどころがあまりに多すぎるので、全ての疑問を一度闇に葬ることにする。
美玲の汚れない瞳が痛い。
「……二度と来るなって言われたんだぞ?」
自分で言って、自分で傷つく。
「はぁ」と彼女は嘆息を漏らす。
「それだから幸太郎様には恋人はおろか、御友人もいらっしゃらないのです」
お前は俺の何を知っていると言うんだ。
「いいですか? 押して駄目なら、更に押してみるのです」
唖然とした。確かにお前はそうなんだろうな。お前は。俺は言い返す。
「それじゃあまるでゴリラじゃないか」
「ゴリラとは何ですか?」
「いや。いい」
俺のユーモアは通じない。まぁ誰かに通じたためしもないんだけど。
「強引さは必要です。幸太郎様は自分が傷付きたくないだけでしょう?」
「お前は俺の何を知っているんだ?」
違いますか? とでも言いたげに彼女は首を傾げる。
「……ごもっとも。でもな心の傷は治らないんだぞ?」
体の傷も治らない場合が多いが。
「自分から傷ついてこそ、男というものです。男も女もそこに惚れるのですよ?」
そういうものかも知れない。
「では参りましょう」
押しが強すぎる。拒否することはできなかった。
階段を昇りながら、あまり気が進まない話を聞いてみた。
「指を取り戻せば魔法もまた使える様になるのか? 指は元通りくっつくのか? そもそも腐って手遅れだったりして……」
彼女は振り向かずに応える。
「それはその時、幸太郎様が御考えなされば良いことです」
丸投げか……全幅の信頼とは程遠いものだった。
その心を読み取ったわけではないのだろうが、彼女は言葉を付け足す。
「私にも手が無いわけではありません。しかしそれも事後の御話になります」
「そっか」
一段一段がきつい。この荷物、降ろせないかなぁ。重いんだよなぁ。
「そういや、なんで美玲は……」
俺のことを、と言い掛けた時に武器屋の前に到着する。
「では幸太郎様?」
結局、肝心な所は俺に任せるスタンスらしい。
俺は軽くノックする。不快な音にならない様に気を付けて。紳士的に。
応答はない。
美玲がこちらを見る。催促されもう一度ノックする。
応答はない。
「いないなら仕方ない。別を当たるか」
美玲は言う。
「幸太郎様。押してダメなら……ですよ? 私に惚れさせて下さい」
糞が!
俺は思い切りドアを蹴り飛ばした。
イノセントな羊達と戯れる牧歌的な生活がまた遠のく。
「殺すぞ!」
勢い良く扉を開けたのは年端もいかない少女だった。
錠を解く音、扉を開ける音、少女の罵声、全てが同時に耳に届いた。
「舐めてんのか!」
少女がどぎつい言葉を放つ。
短パンにティーシャツに素足、日に焼けた肌。ティーシャツの首元は少し伸びていて、やせ気味な胸部が覗いていいる。
俺と美玲は目を合わせる。
「何もあんなに強く蹴らなくても……幸太郎様はゴリラでしたか」
こいつは……。
「あぁ? なんとか言えよ」
そう言って少女は俺の膝を蹴る。
蹴る。蹴る。蹴る。その度に結わえた髪が乱れる。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
何故、こんな年端もいかない少女に平に謝っているかと言うと、奥に葛切さんがちらりと見えたからだ。物凄い不機嫌そうな顔で睨んでいた。
「申し訳ございません。少々躾が行き届いていない様で、ご迷惑をお掛けいたしました」
美玲の言葉で少女は蹴るのをやめる。殴る方向にシフトチェンジしたのだ。
「申し訳ついでに、葛切様に御相談があるのですが」
「お前に用があるってさ、モヤシ男とゴリラ女の御用だ。どうする? 葛切? 断る? 断るよなあ?」
葛切さんの返事はない。
「では、失礼致します」
少女を押しのけ、美玲が中に入る。
「ちょ、ちょっと待てよ」
どさくさに紛れて俺も中へ。こんな少女と二人きりにされては堪らない。つい本気を出して、やってはいけない事をやってしましそうだ。
「おい、お前ら……勝手に」
美玲は少女を無視して進んだ。その所作は堂が入っていた。
ソファに座った時の葛切さんの面食らった顔はちょっと面白かった。
俺と美玲の前には葛切さん。その隣にはソファの背もたれに手をあて、機嫌そうな少女が立っていた。
「葛切、なんだコイツラは?」
少女は俺達を指差す。
葛切さんは額に手を当てて溜息を吐いた。煙草に火を点ける。
「二度と来るなと言ったろう」
「す、すみません」
今宵は何度謝れば済むのか。先が思いやられる。
「で、伏見美玲。今度はなんだ? こんなよく分からん無礼な男を連れて来て。お前は私に恩があるはずだが?」
「まずはこれを」
ニコリと笑ってから、ワンピースのポケットから携帯電話を取りだしテーブルに置く。
「役に立ちました。ありがとうございます」
「もういいのか?」
「ええ」
葛切さんと美玲が会話を進める。俺の存在など無視するかの様に。俺は置いてきぼり。
「私は今日、御恩を返しに来ました」
「それが、コレか?」
葛切さん……いや葛切氏は、俺の方を煙草で差す。
「おい。コイツラはなんだ?」
「例のアレだ」
「そうか……例のアレか」
「分かったら少し口を閉じていて貰えるか?」
「例のアレ……例のアレ……」
少女は「何だっけなぁ……」と呟く。やがて沈黙し、その場に座り込んだ。
それを一瞥してから美玲が口を開いた。
「葛切様、今日は御恩を返しに来ました。ですので、この殿方にあう武器を見繕って頂きたく」
「単刀直入すぎる」
「ナイフでもカタナでも何でも良いのです」
「だから……」
「それとも嫌なのですか? 葛切様は困っている私を一度ならず助けて下さりました」
「いやいや……」
「助けた。で、あれば……最後まで責任を持って助けるべきでは?」
あまりに一方的な話。葛切氏は頭を掻き毟る。そして溜息とともに大きく煙を吐いた。
「ナイフやカタナとか物騒なものをホイホイと貸す奴がいるか。目的は?」
「約束の男を倒して差し上げます」
美玲が胸を張る。ワンピースに皺ができ、彼女の二つの果実のシルエットが強調される。
「この幸太郎様が私の為に戦って下さるのです」
葛切氏は俺の方を見る。
ようやく俺の喋る順番が回ってきた。
「そうなんです」
「この女の為にか?」
「……コイツの為と言うか、俺の為です」
そこでプッと少女が噴き出した。
「戦う? こんなヨワッチイ、ガリ●ンポがか?」
葛切氏は少女の頭をわしゃわしゃと力強く撫でつける。
「そっか。例のあの件だったな……黙っとく」
そう言って少女はまた小さくなった。
「君は、戦闘行為に向いていないぞ? 自覚はあるだろう?」
「それは分かっています。でも許せないんです」
「許せない? あの男を恨んでいるのか?」
「そうです」
恨んでいる。確かにそうだ。俺は恨んでいる。俺の魔法を奪ったあの男を。
「約束の男との約束を破るか……」
その時だった。
少女が立ち上がって、俺の方へずかずかと歩み寄ってくる。
俺の肩を掴み、額と額が触れるくらいに顔を近づける。
「ははははは! 面白いな! オマエ! 例のアレってアレか!」
「な、なんだよ……」
少女の狂気染みた笑みに、俺は引いてしまう。ドン引きだ。
「ガリ●ンポの癖しやがって! 約束を破るってか!」
葛切氏が少女を諌めるような仕草をするが、それは叶わない。少女は葛切氏の方に目もくれない。
「おもしれ! 貸してやれよ! さっき渡したトッテオキ!」
「ちょ、ちょっと落ち着けよ」
俺は目の前の光景にビビってしまう。
「葛切! それがオマエの仕事だろ!」
葛切氏は何も言わない。
美鈴は「まぁ。とっておきという物を貸して頂けるのですか」と手を合わせて喜んでいる。
「持ち主が貸してやれって言ってんだ! 葛切、持って来い!」
葛切氏はヤレヤレと肩をすくめ、左奥の部屋に入って行く。
持って来たものは長物――俺には無用の長物――日本刀だった。
少女が受け取り、鞘から刀身を抜く。
「これはな、良く切れる刀――グレート・リッパーって名前の日本刀だ。オレの爺が作った業物だぜ?」
グレート・リッパー。そのまんまだな。日本刀に英名って、もっと他にあっただろう。しかし名前がどうあれ、その刀は美しかった。年輪の模様が刃の表面に浮かび上がり、怪しげな光を放っていた。よく時代劇で見る日本刀と違い、反りはあまり深くなかった。
「現代の技術を駆使したらしいからな。まず軽い。通常この長さなら1キロ半ってとこだが……こいつはその半分。オマエみたいなガリ●ンポでも振れるはずだ。そしてこの耐摩耗性よ。見てみろ! コイツは爺が日々の鍛錬で使ってたけど、まだ擦傷ひとつない……おい! 聞いてるのか!」
関心はなかった。こいつは俺にこの刀で何をさせるつもりだ。
鞘に刀身を納めて、少女は満面の笑みで言う。
「まぁ持ってけよ!」
俺に強引に刀を手渡す。そして背中をばしばしと叩いてくる。
「銃刀法違反にひっかかるだろ……」
「相手だって法律を犯してんだ。構うもんか! 目には目をだ。やられたら、やり返すのが男だろ。法律だって大目に見てくれるぜ、きっと」
その目には目をってのは、過剰報復をしちゃいけないって意味なんだけどな。まぁ、綺麗な手のままで終わらせようなんて、そんな虫のいいことは考えていない。貸してくれるのなら借りるまでだ。
「で、貸賃はいくらにするんだ?」
葛切氏が言う。
「こいつらが帰って来た時に決めようぜ? そこの綺麗目な女もいることだし、いくらでも払えるだろ」
少女はにやりと美玲を見る。少女にしては随分といやらしい眼差しだった。
美玲はそれには目もくれず深々と頭を下げた。
「葛切様、そちらのお嬢様、ありがとうございました」
物さえ手に入ればどうでも良いのだろう。俺もここにいつまでも長居するわけにはいかないので、礼を述べて出て行った。
階段を降りる。
この間まで、いや、つい先程までチカチカと死にかけていた電灯は、いまや寿命をまっとうしていた。完全な闇の中を、足を踏み外さぬように進んで行く。この深い闇は、世界にまるで俺と美玲しかいないかのような気持ちにさせる。前を進む彼女。俺はふと夢で抱いた疑問を彼女に投げかけてみた。
「もし、世界に愛された英雄が殺されたとしたら、その理由は何だと思う?」
美玲に尋ねたところで期待するような回答は得られないだろう。俺はそう考えながらも、なんとなく訊いてみた。
美玲は言った。
「簡単です。世界から愛されていなかったか、英雄ではなかったか、どちらかです」
前提条件を否定する時点で、答えにならない。そう思いながらも何かが頭の隅にひっかかった。
俺達は階段を下り、暗い廊下を歩く。
そこで背後から声を掛けられる。
「君、そのまんまじゃ完全に不審者だ。これを持っていけ」
葛切氏だった。
手に革製の細長いバッグを持っていた。ダイワと銘打たれている。どうやらその中に刀を入れるらしい。そう言えば剣道部の連中が肩にさげていたものと良く似ている。
「あまり無茶はするなよ? 君は弱いんだからな。あと美玲、ちゃんと見ていてやってくれ」
「承知致しました。何から何までお世話になります。このお礼は必ず」
美玲がバッグを受け取る。
「これも何かの縁だ。そこまで見送るよ」
俺達は出口に向かって廊下を進む。
光が見えてくる。
夜の光。
そして出口にはふたつの人影があった。
「これで最後だな」
女の悲鳴が耳を突く。
男の後姿。這いつくばる女。舞う血飛沫。
見覚えがある。
俺の初恋の相手、山本薫だ。
左手の親指が地面の上に転がる。
それを視認した瞬間、いやそれよりも前に、俺は走り出していた。
死ね! 糞野郎!
大切な物を失う怒りと恐怖で、タガが外れる。
抜刀と刺突、その動作にかかる時間を限り無くゼロに近づける。
カチリ。
心と体が初めて噛み合う。そんな感覚。
――速く
――もっと速く
状況からしても、経験からしても、見誤りはない。
約束の男だ。
――殺す。
「何だ?」
男が気付く。しかし後ろを振り返る暇は既に無い。距離にして半歩。
全体重を、刃先の一点に乗せて、突き刺す。
その瞬間に、俺は目を瞑る。
肉を貫く感触が伝わる。
「約束はしとくもんだな」
俺は目を開けた。
そこには約束の男を庇って、俺の刀に刺される美玲の姿があった。
「なんだよ……それ」
「申し訳ございません、幸太郎様。嘘を付いておりました」
美玲の口の端から血が吹き出る。
刀は見事に彼女の胸の中心を貫通していた。
男が振り向く。
「あらら。これは助からない。助からないわ。残念。良い体してたのに勿体ねえ」
俺は叫ぶ。無茶苦茶に叫ぶ。
「殺す! 絶対に殺してやる!」
「おいおい。誰かと思えば、こないだの被害者Iさんじゃないか」
手が震える。力が入らない。美玲を突き刺したまま、俺は怒りと恐怖で震える。
「そういや、お前も約束したろ? 俺を『恨まない』って? ええ?」
美玲、美玲は大丈夫なのか? 助かるよな? こんな美人が、人生これからみたいな歳で死ぬわけないよな。
「……幸太郎様……これを……」
美玲は胸元から何かを引きちぎる。それを俺のズボンのポケットにねじ込む。
俺の服に大量の血が付着する。彼女の赤い血が。
「生きることには慣れたか?」
男が言う。
「これで流石に生きることには慣れたか?」
男が言う。
「大切なものってのは、自分の手で失くすものなんだぜ? そうやってみんな生きることに慣れていくもんだ」
心臓が激しく脈を打つ。
――殺せ! 殺せ! 殺せ!
怒りで誰が何を言っているのか分からない。
――解放しろ! 解放しろ! 解放しろ!
カチリ。
またタガが外れる。
俺は美玲もろとも『約束の男』を貫いた。
「は?」
男の動揺する声。やってやった。殺してやった。糞野郎を殺してやった。
美玲の体が俺にもたれかかる。それによって視界の障害物が無くなる。
男の胸が見える。
目に焼き付けてやろうと思った。その傷口を。赤黒い血飛沫が吹き出る心臓を。
「なんだ?」
そこで漸く俺も異変に気付いた。
穴だ。
穴が開いている。空中に穴が開いている。
その穴は男の身を守る様に開いていた。
刀の切先は、穴に吸い込まれていた。
その穴は徐々に大きくなる。
三人分の影は穴に飲み込まれた。
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『●●●●、●●●●』
──頭の中で、子供の声がする。
『やっと気が付いたね』
──何か用か?
『さっそくだけどさ』
──なんだ?
『異世界へ行くにあたって……何が欲しい?』
──愛だな。
『愛? 君は英雄みたく愛されたいのかい? それは可能だけど、分不相応だね。あげられない』
──じゃあ、英雄の体だ。
『ごめんね。それは品切れ中なんだ』
──ならば、英雄の心を。
『それは、貰うものじゃないだろ?』
──断るばっかりじゃないか。もういい。俺に見合った能力をくれ。
『まさに他力本願だね! いいよ。じゃあ心臓の傷穴──ヴァルヴィダって能力をあげるよ! 使い方は、まぁ教える必要ないよね。どうせ忘れちゃうし……』
──無責任な。
『じゃあ頑張って』
光の中へ。闇の中へ。光の中へ。