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廃色世界の迷い人  作者: フェイフェイ
1章
3/25

2話:大切なことはいつも最後に

 訳が分からない。


 訳は分からないが、兎にも角にも応急処置をすべきなんだろう。

 傷口は怖くて直視することができない。しかし足元にできた赤い水溜まりが損傷の深さを訴えていた。


 ぽとりぽとりと血が滴り落ちる。

 ポケットに入っていたハンカチで傷口を覆い固く縛る。


 雑居ビルの裏戸の側には緑色のリュックサックが転がっていた。俺のだ。中には財布と携帯電話とキルケゴールの著書『死に至る病』が入っているはずだ。中身は全くもって理解出来なかったが、出来るとも思わなかったが、タイトルが気に入ったので購入した。

 とりあえず財布があることに胸を撫で下ろす。


 その時だった。


 ガチャリ、とビルの扉が開いた。中から女が出てくる。

 背は高い。昔観た映画のジャンヌダルクを思わせる短髪だった。


「すまなかった。また助ける事ができなかったみたいだ」


 女は開口一番に謝罪を表明した。

 そして俺の爪先から頭頂まで視線を流す。顔が合う。女の眉は若干太かったが形は良かった。整えられてはいなかったが、西洋人みたいに綺麗な長い眉をしていた。


「侘びと言っちゃ可笑しいが。応急手当ぐらいはしてやろうか?」


 やや横暴な物言いに引っ掛かる節もあったが、俺は黙って頷いた。

 普通に考えると、見ず知らずの人間を助ける義務も義理も無いのだ。だからきっと悪い人では無いのだろう。

 本音を言うと、単に誰かの助けを求めていただけなんだけど。


 俺は「お願いします」と頭を下げた。

 女は少し頬を緩めて首肯した。


「こっちだよ」と踵をひるがえし、目の前の雑居ビルへと入っていく。

 ビーチサンダルの間延びした音が響く。俺は急いでそれを追う。

 デニムとタンクトップと青白のストライプシャツ、女はラフな格好をしていた。。

 上背があるせいか、その後ろ姿に女性らしさは無かった。今まで出会ったことのないタイプだ。


 暫く廊下を進むと、丁字路に差し掛かった。丁字路の右手には黄ばんだ電灯が点滅する階段があった。

 チカチカ、チカチカ、と電灯は今にも死にそうだった。


「ここの5階。エレベーターは無いから。すまんね」


 俺の返事は大して求めていないらしく、女はそのまま階段を昇って行く。

 階段にはニスの剥がれた手摺が備え付けられていた。壁紙は電灯の明滅信号を受け暗緑色に光っていた。暗くて良く見えないが相当に古いようだ。所々に細い亀裂が入っている。

 その階段を女は一段一段軽やかに昇って行く。引き締まった肢体がデニムの上からでも見て取れる。それを眺めながら俺も黙々と昇って行く。


「着いたよ」


 女の隣には小汚いドアがあった。ドアの上部にはひび割れた小窓が備え付けられていた。女はポケットの中から鍵を取り出す。


「少し散らかってるんだけど……まぁお客ってワケでもないし。いいか」

 女は独りごちながら鍵を開ける。


 中に入るとコーヒーやら煙草やらを混ぜ込んだすえた臭いが鼻をついた。空気までもが黄ばんでいた。

 ここに入るのか?

 相当に渋い顔をしていたはずだが、女は気にしていないみたいだ。


「ちょっと待ってな」

 女は明かりを点ける。


 部屋は病院の待合室を思わせた。受付のカウンターが手前にある。中央には大きめのローテーブル。その四方を黒い革張りのソファーが囲んでいる。奥側のソファーには雑誌と専門書が雑多に積み上げられていた。


「取り敢えずそこに座んなよ」

「はい」


 俺は言われるがまま、手前のソファに腰を下ろす。座り心地は案外に良く、俺の身体を優しく支えてくれた。少し硬めの反発力は俺好みだった。物の価値を見極め、正しく選ぶ。それはソファに限らず生きる上で重要なスキルのひとつに違いない。安物を買って、壊して、買って、それを繰り返す人は当然生きることが下手糞なのだ。

 俺は年期が入っているであろうソファを、犬や猫と同じ様に優しく撫でる。


「ちょっと待ってなね」


 左右に部屋があった。女は右側の部屋に歩いて行った。

 冷蔵庫と流しと大きなゴミ箱が見える。それだけだった。

 女は冷蔵庫からアイスコーヒーの入ったペットボトルを取って床に置く。続いて、奥の方から銀のボールを取り出した。

 そして「あったあった」と言いながら、ボールに一度軽く口づけをする。

 冷凍庫から氷を取り出し、その容器の中に落とし込む。ちゃぽんちゃぽん、と冷たい音が部屋に響いた。


「お待たせ」


 右手にコーヒーとボールを、左手に2個のグラスを器用に持ち、待合室へと戻って来た。荷物を机の上に並べながら、俺の対面に座る。それからグラスにコーヒーを注ぎ、俺の前に置いた。


「どうぞ。取り敢えず、飲んで気を休めなよ」

「……はい」


 これは飲んでも大丈夫なものなのだろうか?

 俺は訝しがりながらもコーヒーを啜ることにした。酸味と苦味が口の中に広がる。その味覚を受け、緊張が解れた気がした。


「気分はどうだ?」

「少しは」


 一息着いた所で、俺はもう一方の容器を見る。

 銀色のボールの中には、氷と一緒にキャップみたいな物がプカプカと浮かんでいた。それらはオレンジ色で大小様々だった。大きいのでペットボトルのキャップくらい、小さいのでサインペンのキャップくらい。


「これ何だと思う?」

 俺は首を傾げる。

「リアクション薄いな。ま、いいや。ちょっと手を出してみて」


 俺は黙って左手を差し出す。女は薬指に巻かれたハンカチを解いていく。ハンカチは真赤に染まっていた。


「また綺麗にやられたね」


 俺は焦点を合わさずに傷口を見る。フィルター越しには赤だけでなく、白い物も確認できた。切断されたんだから、骨だって露出するか。


「第二関節から付け根、基節の中央を一刀両断か」

「……そうですか……切れちゃってますか……」

「ん~。切れちゃってるね」


 女は眉を寄せて「困ったね」と呟いた。

 鼻筋が真直ぐに通っていた。切れ長の目には長いまつ毛。薄い化粧に飾り気は無かったが、それでも綺麗な顔だと思わせた。


 俺が人を愛することに意味は無い。この二十年の人生で痛いほど分かっている。それでも人を好きになってしまうのは、完全なるプログラムの欠陥なのだろう。友情であれ、恋愛であれ、報われない。


「ん~、サイズはコレくらいか?」


 ボールの中からキャップをひとつ取り出し、俺の薬指の根本に嵌め込む。確かにサイズはぴったりだった。


「ちょっと痛いけど我慢しなよ」


 女は慣れた手付きで、薬指の根本部分を紐で締め上げる。


「ほら。応急手当はおしまいだ」


 女は白い歯を見せる。


「親から貰った体は大切にしろよ」

「はい。親から貰った体は大切にします」


「よろしい。その言葉を聞けて嬉しいよ!」


 微妙に可愛げのある声で女は応え、ニカリと笑った。

 大人な印象とちぐはぐなその笑顔に、心を奪われる感覚を覚えた。


「ありがとうございます」


「じゃあ、時間もあるから。少し聞かせてくれるかな?」

「俺についてですか?」

「いや、残念ながら君にはあまり興味はないんだ。けど、まぁ社交辞令として、名前くらいは聴いとこうか?」

 彼女の言葉に邪気は無い。


「上山幸太朗です」

「ん。じゃあ私も名乗っとくか。私は葛切。よろしく」


 下の名前も聞きたかったが、やめた。呼ぶ機会は無いだろう。


「はい。葛切さん。よろしくお願いします。

 俺は荒牧大学の二回生です。歳は二十です。特技は絵を描くことで、趣味は読書、視力は良い方で……」

 誰にでも自慢できる唯一の長所が視力だけ。救い様が無かった。

 それ以上アピールする部分が無いと早々に悟ったのだろうか。

 葛切さんは手でその先を制した。


「自己紹介はいいよ。年齢まででお腹一杯だから。先に言った通り、君に興味は無いから」


 真正面から興味が無いと断言されると少し傷つく。


「俺の方は葛切さんに少し興味あるんですけど」

 彼女は渋い顔を浮かべた。


「ちょっと人の顔を見過ぎだな。怖いよ君」

「君じゃ無いです。上山です。幸太朗でも良いです」

「怖いね。そこまでアレだと、君は深い友人を持たないだろう?」


 葛切さんは人に言っちゃいけないことを簡単に口にした。


「いませんよ友達。今はまだ……ね。 あとせめて上の方で良いんで、名前で呼んで下さい」

「んん? 変なテンションだね」


 確かに変なテンションだ。気持ちが落ち着かない。女慣れしてないからか?


「あと、ごめんね。君とは会話が上手くいかないみたいだ。だから先に言っておく。君は無い。テンションどうこうじゃなくてね」

「そうですか」


 動かざること山の如く、疾きこと風の如く。頭に浮かぶ撤退の二文字。

 これ以上仲を深めることはできないかもしれない。

 別に恋人になろうとか、そんなわけではないんだけどな。俺を知って欲しい、彼女のことを知りたい。それだけなんだけどな。


 葛切さんは溜め息を吐く。コーヒーの香りが混ざり、若干酸味がかっていた。


「質問するのは私だけ。君は答えるだけ。私の質問が終わったら、終わったって言うから。その後でなら君は質問しても良い。分かったかな?」


 俺は頷いた。彼女の表情はまだ渋いものだった。

 グラス表面から垂れた水滴が机を濡らしていた。


「君を切った男に面識はあるか?」「容姿は?」「背丈は?」「服装は?」「声は?」「匂いは?」

 事務的な詰問の最後に彼女はこう尋ねた。


「男は何か約束したか?」


 俺は眩暈を覚える。頭の中が、脳が痺れる。


「……恨むなと約束させられました」

「そうか。以上で終わりだ」


 葛切さんは胸ポケットから煙草を取り出し一服を始めた。煙草の箱にはラクダが描かれていた。一八八〇年代のオリエンタリズムの流行りに乗った図案は、異邦への旅を彷彿とさせる。それを見ながら、俺は言う。


「じゃあ俺が質問して良いですか?」

「いいよ」

 彼女は目を細める。


「あの男のこと知っていたんですか?」

「知ってる。が、無論知り合いって訳じゃない」

 葛切さんは深く煙を吸い込み、深く吐き出した。そして淡々と語り出した。



 どうやら俺みたいな被害者は初めてでは無かったようだ。事は2年前から始まったらしい。俺の他に被害者は8人いて、皆必ず左右の指のどちらか一本を切られた。犯人は被害者と必ずひとつ約束をする。そして被害者がこの雑居ビルの裏口の前で立っている所に、彼女が遭遇する。

 これらのことから、彼女はこの事件を『指切り事件』、犯人を『約束の男』と名付けたらしい。



「指切り事件に、約束の男ですか」

 指を切ってから約束する……順序が逆だし色々おかしいだろ、と心の中で突っ込む。


「気に入ったかな?」

 トントンと煙草を叩いて灰を床に落とす。


「いや、気に入るとかは無いですね」

「そっか。センスはあると自負していたんだけどな」


 葛切さんは天井を見上げて煙を吐く。煙は白い筋となって換気扇の中に飲み込まれていく。煙草はゆっくりとその身を削っていった。

 寿命を終えた吸い殻は、飲みかけのグラスの中に放り込まれる。


「ん? 何か?」

「いえ。汚いなって思いまして」

「そっか」


 反応が薄い。しょうがない。眼中に無い男から何を思われても良いのだろう。このまま何も無いまま終わる。9人の被害者の内の1人として記憶に残るだけ。加害者Aと被害者ABCDEFGHI。事件が解決するまで被害者は増えるのだろう。であるなら、この後には被害者JKLと続くわけだ。

 一番の悪者が彼女の記憶に最も深く刻まれ、いたいけなこの被害者Iは端役の中の端役である。好感度も無ければ、印象も薄い。何もできない。何も残せない。記憶から消える。納得できなかった。


 それは嫌だ。


 唾を呑み込む。


 彼女が興味を引くであろうことを打ち明ければ?

 何がある? 興味を引くことは……何が……。

 何か無いか?

 何か……考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。


 カチリ、と音がした。


 それはそのまま口から飛び出した。止めようとしたが手遅れだった。


「実は俺……魔法が使えるんですよ」


 こうして俺は彼女に、今思い出した大切な秘密を打ち明けたのだった。


 なんて恥ずかしいことを言ってしまったんだ。顔が火照る。

 後悔しながらも、しかし妙策ではあると思った。

 興味が引かれる、少なくとも何かしらの印象を残せる言葉では無いか?


 俺は彼女の顔を覗き込む。

 どうだろうか? ちょっとは気になる話だろうか?


「そうか」

「あれ? 興味無いですか? 魔法ですよ? 魔法?」


 あまりにそっけない応えだった。

 そして葛切さんは眉間に親指を突き立て「分かった」と溢した。苦虫を噛み潰した様な顔で、だ。

 一番イタイ奴……そんな印象を残すことだけはできたか……?


「で、君はどんな魔法を使えるんだ?」

「やはり聞いてしまいますか?」

「まぁ一応ね。社交辞令として」

「火の魔法ですよ。火。業火とまではいきませんが……まぁ火ですね」


 彼女は煙草を取り出し、口に咥える。


「じゃあこれに火を点けて貰えるかな?」

「お安い御用です」

 俺は煙草の先に目を凝らし念じる。



──死ね。



「ん?」

 葛切さんの目は冷めたものだ。冷淡に俺を見据える。


──死ね。死ね。


「まだかな?」


──死ね。死ね。死ね。


 値踏みする様な視線を感じる。汗が額を伝う。


──シネシネシネシネシネ。




 煙草の先に火が点いた。様な気がした。


「おかしいな……火が付かない」


 嘘だろ?


 恥ずかしさで顔が赤く火照り、驚きで顔が青ざめ血の気が引く。

 解読不可能な衝撃に俺は狼狽する。

 やれやれとでも言いたげに彼女は首を振る。


「……君は魔法を使えたのだろうさ」

 ライターの石が擦れる音が鳴る。

「おかしいな。おかしい。俺は魔法を使えるはずなんだけど……」

 どうしたんだ? 本来なら『死ね』と念じた対象が燃え上がるはず……。


 魔法を俺は使えたはずだ。


「信じるさ。……魔法とやらをこの目で見たことは無いけどもね」

 女の声が聞こえるのだが、頭に入ってこない。

「いやさ、君で九人目。皆が皆、言うんだよ。魔法を使えるって」

 平静を保った声が俺を苛立たせる。

「で、皆が皆、己の身体の欠損をあまり気にしない」

 俺はそこら辺のモノを睨みつけ念じる。


──シネシネシネシネシネシネ!


 効果は無いようだ。


「人と喋る時はな……」


 俺は胸倉を掴まれ、前に座る女に強引に向き合わされる。目と目が合う。綺麗な鳶色の目だ。黄色人種の目の色。平均より少し濃い色をしていた。


「……ちゃんと人の顔を見ろ」


 有無を言わさぬ迫力があった。俺の体は小さくしぼんでいく。自分よりも人として格上。積み上げてきたものが違うのだろう。


「はい」


 俺がそう応えると、彼女は満足したのか手を離した。


「魔法が使える。信じるさ。そして約束の男に会った夜――事件後からは使えなくなる。信じるさ」

「……みんなそうだったんですか?」

「どうやら、そうみたいだ」

「葛切さんは使えますか?」


 葛切さんは手の平を左右にパタパタと振る。


「残念ながら使えない」

「……そうですか。じゃあその約束の男が俺達の魔法を奪ったってことですか?」

「多分そうじゃないかな? 断言はできないけど」

「ちなみに他の8人に会えますか?」

「さぁ。今何処にいるかは知らない」

「名前は? 分かります?」


 葛切さんはソファに積まれた雑誌の間から一枚の紙を引き出す。そして俺の眼前に突き付けた。紙には丁寧な字で8人分の名前が書いてあった。


「連絡先は?」


 葛切さんは雑な字で数字を書き殴った。


「……3人分しか無いですよ?」

「それだけしか聞いてないからな」

「分かりました」


 気怠そうに彼女はこちらを見る。

「そう言えば……君は約束の男に、何故魔法を使わなかったんだ?」

「何故って?」

 忘れていたから……。そうだ忘れていたんだ俺は。

 約束の男に指を切られた時に覚えた激しい喪失感の正体。


 魔法か……。


 なんでこんな大切なことを忘れていたんだろう……。


 そう言えば約束の男に足を踏まれた時に違和感を覚えた。

 ……約束の男も魔法を使えるのか?


「他に何かあるか?」

「……」

 助けて下さい……そう声が出掛った。しかしなんとか押し殺した。


 葛切さんは煙草を床に押し付けて消す。


「さぁ。後は警察やら病院やらの仕事だ。私が出来る事はここまでだ」


 俺は縋るように彼女を見る。


「困った時は頼って良い……なんてよく有るセリフだがな……私を頼るのはやめろ。今後二度とその惨めな顔を見せるな。いいな?」


 力を込めた声でそう告げる。


「二度と来るな。私はそう言っているんだ。

 厄介事とは、厄介な奴が厄介な奴を巻き込む事で起きる。つまり君という男は、例に漏れず厄介な輩だ。君は自身の厄介さ加減を自覚し、大人しくしておけ」



 俺はまだ彼女と話したかった。一緒にいたかった。しかしやめた。


 奪われたのだ。奪われてしまったのだ。指も魔法も。残されたのは体と心に刻まれた傷跡だけ。

 泣きそうになったが、もう涙は出なかった。


「……分かりました。色々とありがとうございます」


 後ろ髪を引かれる思いはあるものの、俺は雑居ビルを後にした。



 夜の街を歩く。気を抜くと倒れ込みそうになる。

 ……そこまで血を失ったのか?

 虚弱な自分の肉体を呪う。


 よろめきながら歩く俺を、すれ違う人達は白い目で見てくる。


 そうだ……救急車……初めにするべきことは救急車への電話だったろ……。

 いつもそうだ……最初にすべきことが最後になってしまう。

 景色が朧になる。

 膝が折れ、地面に手を突く。

 横になって見上げた空に、星はなかった。

 子供の声が嫌にはっきりと聞こえる。




『なぜ君は殺されたのか?』


──世界に愛された英雄が殺される理由?


『あははははは! やっぱり君は面白いことを言うね!』


──なぜ笑う?


『だって、こんな簡単なことも忘れるなんてさ!』


──どういうことだ?


『おやすみ。世界に愛された英雄さん』




 意識が途絶えた。

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