まさかの初体験!?~膝枕は突然に~
彼は誰?
強い既視感。だが、姿は朧気ではっきりしない。
『すまない。君には迷惑をかける。』
『え?』
あの暗闇の空間に連れて行かれる直前に聞いた声と似ている。だが、あの声は寒気をもたらすほどのぞっとするものだったが、こちらの声には温かみがあった。まるで親が子を心配するような・・・。
『これは私の咎だ。だが、君が選択していかなくてはいけない。』
『どういうこと?』
『もう目を覚まさなくては。大丈夫、私は君の味方だ。それに、あいつなら君の力になってくれる。』
『あなたはだれ?あいつって?』
『説明している時間はないんだ。けどまた会えるよ。さあ目を覚ましなさい。』
優しくてどこか悲しげな声に導かれ、少しずつ意識が浮上していく。
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パチパチと火が爆ぜる音。さらさらと髪を撫でられる感触。
どうやら私は意識を失っていたらしい。最後の記憶は誰かに抱きとめられた所で終わっている。おそらく、助かった事に安心して気が抜けてしまったのだろう。助けてくれた人には、ひどく迷惑をかけてしまった。
それにしても、私が頭を預けているものは妙な感触がする。枕にしては固く、かといって地べたに寝かせられているにしては柔らかい。・・・何だろうこれは?少しつついてみる。なんだかはりがあるな・・・。
・・・はり?
「起きたのか?」
男の人の声だ。私を助けてくれた人の声。それが真上から聞こえた。
・・・真上?
恐る恐る目を開ける。すると目の前には美形のドアップが!?
「ひゃあああああああ!」
「おわっ!」
驚いて急に起き上がる私。頭突きがヒットするかと思いきや、すかさず体をひいて避ける美形。うん、反射神経はいいらしい。
じゃなくてっ!膝枕!人生初の膝枕が見ず知らずの男性!しかもする方ではなく、される方とは!
「というか、何故膝枕!」
「地面に寝かせるにしても、木に寄りかからせるにしても固くて寝にくいだろう。女にそんな手荒な真似はできん。」
どうやら親切心だったらしい。冷静な声を聞いて我に返る。
あたりは薄暗く、草木が鬱蒼と繁っている。ただ焚き火だけが辺りを煌々と照らしている。
改めて恩人の姿を見てみる。年は20代後半だろうか?髪は黒。というか全体的に黒い。まるでファンタジーアニメや漫画に出てくるような黒い騎士服らしき装いをしている。しかも、腰には黒い剣?を帯刀している。その中で、肌の白さと、深紅の瞳が強く印象に残った。
ふと、自分の体に黒い外套?が掛けてあることに気付く。彼が掛けてくれたのだろう。それを畳んで彼に差し出す。
「あの、これ、ありがとうございました。」
「いい、着ていろ。」
彼は一瞥しただけで受け取りはしなかった。正直肌寒かったので、お言葉に甘えて借りることにする。
「あの、それと助けてくれた、んですよね?そのこともありがとうございます。」
「いい、気にするな。俺は俺のやるべきことをした。それだけだ。」
どういう意味だろうか?彼は慈善事業家なのか?そんな馬鹿な。だが、助けてもらったことは事実だ。
そういえば、自己紹介がまだだった。人付き合いの基本はまずはお互いの名前を知ることからだ!それに、後でお礼をしなくてはいけない。私は今まさに無一文の状態だった。
「私、上代沙綾といいます。あなたの名前を伺っても?」
「アレクシス・ヴェルドリアだ。アレクでいい。カミシロが名前か?」
「いえ、沙綾のほうです。えと、アレクさんは外国の方ですか?日本語上手ですね。」
そう言った私をアレクさんは怪訝な顔で見る。何か変なことを言っただろうか?
「敬称と敬語は不要だ。それと俺はニホンゴとやらは話していない。」
では何故会話が通じるのだろう?というかこの状況、なんだか嫌な予感がひしひしとする。いやもしかして私は知らない間に外国語をマスターしていたのかもしれない。すごいな私。英語の成績は5段階評価で2だ、ありえない。
「ちなみに、ここはどこでしょうか?」
「ディウレウス国のアルディエルの森だ。」
・・・どこ、そこ?
頭の中の地図を検索してみる。・・・聞いたことがない。外国、しかも小さな国なのだろう。っていうことは、私は不法入国をしてしまったのだろうか?大変だ、どうやって帰ろう・・・。パスポートはもちろん持っていない。いざとなったら、兄に連絡をして・・・。
考え込んでいると、目の前の人物から今一番聞きたくなかった言葉が飛び出した。
「異世界に来たのだから動揺するのも無理はないが、そろそろ本題に入らないか?」
その言葉で、私の頭はフリーズする。
現実逃避していいですか?