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転生魔王と騎士  作者: 如月文
第一部
16/112

果たし状、それは譲れない戦い

『へ~陛下の生まれ変わりっていうからどんな子なのかな~と思っていたら、想像以上に可愛いじゃん。それにアレクさんに騎士の誓いされたんだって?いいなあ~。なあ、俺の主様の誓いも受け取ってくれよ!主様ってば、あんたに会えないもんだから虫の居所がわりぃのなんのって・・・』


「ウィズ、近けぇよ。」


 一瞬で私の前に移動し、不躾にじろじろ見始めたウィズと呼ばれたチャラ男をアギルが遠ざける。


『なんだよおっさん。自分がモテないからって八つ当たりすんじゃねえよ!』

「誰がおっさんだ、誰が!それにモテてるわ!」

「男にな。」

「それは言うな!」


 また話が脱線しそうな気配を感じ軌道修正を試みる。


「えっと、アギルが男にモテるのはわかったから、とりあえずそれは置いといて、あなたは誰ですか?」

『ん?ああ、俺としたことが名乗るのを忘れるなんて、しかもかわいい女の子を放置しておっさんにかまけるなんて不覚だ。』


 そう言うと、彼はアギルをすり抜け再び私の前まで来る。そして私の手を取ると、


『初めまして愛らしいお嬢さん、お会いできて光栄です。俺は風の大精霊のウィズ。主様ともどもよろしく、サーヤちゃん。』


 ちゅっ


 頬に柔らかな感触。ん?あれ、今頬にキスされた?


「てっめぇ何しやがるこのエロ精霊!レティスに言いつけんぞこの野郎!」


 アギルが怒り心頭という顔つきでウィズを投げ飛ばす。ウィズはそれを意に介すことなくふわりと空中にとどまる。

 彼らの話から察するに、ウィズの言う主様というのはレティスの事だろう。封印が解けた直後は彼を警戒していたが、あれから姿を見せることが全くなかったので忘れかけていた。いけないいけない。


『モテない男の嫉妬は醜いぞおっさん。それにおっさんが自分から主様に会いにくるってんなら俺にとっちゃむしろ好都合。何しろ主様ってば執務室に閉じ込められてストレスが限界値突破してっし。おっさんならいいサンドバッグになれそうだ。』

「レティスさんそんなに忙しいの?」


 アレクもここ最近寝る間も惜しんで働いていたみたいだし、もしかしてレティスも同じような状況なんだろうか?


『いんや、むしろ暇だね。仕事はアレクさんにすべてまわしているし、やることなくなったもんだから部屋の掃除までしだしちゃって、どこもかしこもピッカピカよ主様の執務室。』


 は?仕事はアレクにすべてまわしているって・・・アレクの多忙の原因それだよね明らかに。


「・・・なんでそんなことになっているの?」

『だから執務室から出られないからだよ、物理的に。んで、腹いせにアレクさんに仕事押し付けて、その結果手持無沙汰になっちゃったんだよな~主様。そうなった理由はアレクさんに聞いた方が早いと思うぜ。』


 そう言われてアレクの方を見ると、あからさまに視線をそらされた。


「アレク?」

「俺は悪くない。」

「いやいや、お前のせいだろ、どう考えても。」

「お前だって見て見ぬふりをしただろう、共犯じゃないか。」


 どうやらレティスの監禁にアギルも関わっているらしい。まさか二人がそんな犯罪行為に手を染めていたなんてあれだけ近くにいながら気付けなかった。こんなことをするような人たちだとは思わなかった。普段は大人しい子で・・・じゃなくて。罪を擦り付け合う二人にお説教態勢を作る。


「首謀者だろうと共犯者だろうと関係ありません!いいから説明しなさい!」

「「はい!」」


 二人の話では私の封印が解けたその日の夜、レティスの執務室で話し合いが決行されたらしい。議題は私の事。私を元の世界に戻したいアレクと魔王にしたいレティス、話し合いは平行線をたどり、空が白み始めたころアレクはついにキレた。彼はレティスに魔法をかけた。扉を開けると執務室、窓を抜け出るとそこにはもちろん執務室。延々と続く執務室ループ。つまりレティスは執務室から出られなくなったのだ。ちなみにこの魔法はレティス限定で、他の人たちは出入り自由とのこと。


「新しく紅茶を淹れ直して部屋に戻ろうとしたら、妙にすっきりした顔のアレクが出てくるから理由を聞いてみればなんか面白い事態になっててよ~。俺も正直いい加減終わらせろと思っていたし、ちょうどいいかと思って放置することにしたんだ。まあ、まさか未だに魔法が続いているとは思っていなかったけどな。つーかよく魔力が尽きないなアレク。」

「お前の魔力も使っているからな。」

「はあ!?いつの間に!」

「お前が寝ている間に。」

「ど、どうりで最近疲れがとれねえと思った。」


 アレクの余罪が判明、魔力窃盗罪及び不法侵入。

 つまりは私の処遇について二人が揉め、アレクがレティスを監禁、その腹いせにレティスがアレクに仕事を押し付けた、と。なんて大人げない。


「だがなサーヤ、あいつはお前を奪還しようとしていた。そんな危険なやつを野放しにはしておけない。」

「そうだぞサーヤ、その証拠に毎日毎日あいつの部下が送り込まれてくるんだ。まあ俺や兵たちがとっ捕まえて簀巻きにして送り返してやっているがな。」


『へ~主様の部下を撃退しているのはおっさんだったのか。なあ、知ってるかおっさん、あんたらが撃退したっつー奴らの中にはただ単に仕事で来ただけってのもいたんだぜ?そいつらもあんたらが簀巻きにしちゃったおかげで、仕事が滞って主様のストレスは増加。俺なんか久々に呼び出されたかと思ったら、いきなり書類の束を押し付けられてあいつらの代わりに使いっ走りをやらされる羽目になったんだ。なるほどな、おっさんのせいだったのか。』

「は?いやいや、俺にあいつらの見分けがつくわけがないだろう。なあアレク?」

「刺客の撃退はお前に一任していた。俺は知らん。そんな事より本題に入れ、ウィズ。」

『あ~そうだったそうだった、はいこれ主様から。』


 そう言ってウィズはアレクに封書を差し出す。


「・・・〈果たし状〉?」


 果たし状って、いつの時代だよ。でもここは異世界だからこれが普通なのかな?アギルが笑いをこらえているところから察するにどうやら違うようだ。そんなくだらないことを考えている間にアレクは呆れたような表情で封書を開ける。そこには流麗な文字でこう書かれていた。


“憎きアレクへ 

 先日は素敵な魔法の贈り物をありがとうございます。おかげで数年ぶりに部屋を片付ける機会に恵まれ、今私の執務室は書類に埋もれていない机に、塵一つ落ちていないピカピカに磨き上げられた床となりました。そしてそんな綺麗な部屋で日がな一日本を読み、食事をし、疲れたら仮眠室で眠るという日常を過ごしております。お返しというのもなんですが、仕事好きなあなたに私の分の書類をお贈りしたのですが気に入っていただけましたでしょうか?そろそろあなたには疲労が見えるころだと存じ上げます。

 つきましては、あの話し合いの決着を私の部隊との模擬戦で着けてはいかがでしょうか。日時は明後日の午後二時。それまで私はそちらに何も手出しをしないことを約束しましょう。色好い返事をお待ちしております。     レティス”


 なんだろう、ツッコみどころが多すぎてどうすればいいのかわからないよ。


「・・・レティスの部隊って?」

「政務部隊って呼ばれている魔法特化型の部隊だ。今の正規軍はアギルのせいで武術・体術に秀でた奴らがメインとなっている。それを補うためにレティスが西棟の連中を中心に魔法に秀でた者たちを集め結成をした。戦争中は協力体制を敷くが、普段はライバル関係にあり年に数度、模擬戦を行っている。今の戦歴は?」

「あ~286勝287敗。」

「負けてるのか。ならば兵の士気も上がるだろう。レティスに了承したと伝えろ。」

『りょ~かいっ!んじゃ、用事は済んだし俺はもう行くわ。またね、サーヤちゃん。』


 ウィズはそう言うと、私にウインク一つ残して風と共に去って行った。


「さて、兵たちに通達してくっか。」


 そう言ってアギルが部屋を出て行こうとすると、アレクが待ったをかける。


「今回は俺が出る。」

「どういう風の吹き回しだ?いつも俺に任せる癖に。」

「今回の模擬戦はそもそも俺とレティスの意見の食い違いが原因だ。ならば俺が出るのが筋だろう。」

「まあ、いいけどよ。じゃあそれも兵たちに・・・」

「それと、サーヤには申し訳ないが、明日は一日兵たちの魔法訓練に充てたい。それも伝えておけ。」

「了解。」

「もちろんお前も訓練に出るんだぞアギル。」

「りょ、ってなんでだよ!別に俺は模擬戦に出ねえんだからいいだろ!」

「いい加減お前も魔法を使えるようになれ。もう魔力は安定しているはずだろう。」

「別に魔法なんか使わなくても勝ててるんだからいいじゃねえか。」

「いいはずないだろう。兵たちも魔法を使わなくなってきている上、魔法に秀でた奴らは皆政務部隊の方に流れていく。悪循環だ。それにイフルもお前が考えなしに子供をポコポコ生むもんだから困っていたぞ。」

「え、アギル子供いたの!?イフルって奥さん?」


 しかも何人も!すごいな、大家族のパパなんだアギルは。あれ、子供を産むって言ってたよね?じゃあアギルが奥さん?アギルを上から下まで見てみる。どこからどう見てもゴツイ男の人だ。いやでももしかしたら・・・。


「誤解を生むような言い方はするなよアレク!つーかあんなごつい親父が奥さんだなんて寒気がする。イフルは俺と契約している炎の大精霊で子供つーのは精霊の事だ。」


 大精霊というのは大体300年から500年に一度代替わりするらしい。そのためには自分と同程度の力を持つ精霊が必要になる。しかし低級精霊は自然発生するが中級以上自然発生しない。低級精霊を自分と同程度にするには時間がかかりすぎる。というわけで、魔族の中から魔力が強く自分たちと相性の良い者を選び出し、中級以上の精霊を生み出すための魔力を精霊の卵ともいわれる精霊石に与えてもらうのだそうだ。そしてその対価として大精霊たちは騎士たちに力を貸す。それが彼らの契約らしい。


 アギルの場合、普段魔力をほぼ使わないうえ制御もできていないため、精霊石に魔力がいってしまい、普通なら5年に1人の割合で生まれる精霊が1年に2,3人生まれている。しかも上級ではなく中級ないし低級。


「お前が考えなしに生むせいで炎の精霊が他の属性の精霊の倍近くになっている。何とかイフルが抑えつけてはいるがこのままではこの国の気温が上がってしまうんだぞ。」


 ディウレウス国でも温暖化現象が深刻らしい。原因が温室効果ガスではなく炎の精霊というのが何ともファンタジーらしいが。


「いいか、これは強制だ。明日の訓練は必ず参加しろ、わかったな?」

「っ・・・わかったよ。」


 どことなく普段より元気のなくなったアギルが部屋を出ていく。アギルはどうしてそんなに魔法が嫌いなんだろう。彼の様子も気になるし・・・


「え~とじゃあアレク、訓練と模擬戦がんばってね。くれぐれも無理をしないように!」


 そう言ってアギルを追って駆け出す。今までアギルは私を助けてくれていたんだから今度は私が彼の力になる番だ。


 


 

 





 

レティスの華麗なる監禁生活。


エイラがアレクをお父様と呼んだのはこのためです。

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