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転生魔王と騎士  作者: 如月文
第一部
13/112

私は陛下じゃありません

 どうしよう、どうすればいいんだこれ。封印術って私にもできるかな・・・。いやいやここにいる人たち皆にばれちゃっているんだから今更無理でしょ。生まれも育ちも日本な私はこんな風に跪かれたりすることなんてなかった。えと、ドラマや漫画ではどうやっていたっけ?苦しゅうない?おもてをあげい?よきにはからえ?なんか違う気がする。


「陛下?どうかなさいましたか?もしや怒っておいでですか?私があなたのご帰還に気付かなかったからでしょうか?それとも書庫であなたに無礼な態度をとってしまったからでしょうか?」


 黙ったままの私に不安になったのかレティスが不安そうに尋ねてくる。怒ってません、むしろ気付かなくてよかったんです。だから不安そうな目で見上げるのはやめて。無礼な態度?なにそれ?


「やはり怒っておられるのですね。この償いは必ず致します。ですからどうか、再び我らをお導き下さい、陛下。」


 レティスの言葉に私は首を振ることしかできない。違う、私は陛下じゃない、あなたたちに傅かれるような存在じゃない。導くなんてできない。


「っ陛下!怪我をしているのですか!?手首に血が!」


 青ざめたレティスが立ち上がり、私に手を伸ばす。ああ、イオレスの血が付いてしまったんだ。レティスの手を反射的によけようとほんの少し後ずさる。とん、と背が何かにあたる感触がした。




「触れるな。」




 突然背後に現れたアレクがレティスの手を弾く。そしてそのまま私の体を抱き込んだ。彼の体温を感じてほっと息をつく。いつの間にこんなに彼を信頼するようになっていたのだろう。

 その様子を見てレティスはアレクを睨みつけた。


「アレク、あなたこそ離れなさい。不敬ですよ。」

「彼女が嫌がっているように見えるか?大体少女一人をこのように大の大人が取り囲む方が不敬だろう。サーヤが怖がっているのがわからないのか?」

「陛下が我らを怖がるなどありえません。」

「そもそもそれが間違っているんだ。サーヤは陛下ではない。」

「あなたこそ何を言っているのですか。陛下は陛下です。彼女の魂は紛れもなく陛下の物なのですから。」

「陛下は死んだ。今ここにいるのはカミシロ・サーヤという名の少女だ。」

「陛下は転生し、戻ってこられたのです。あるべき所へと。」

「陛下は彼女の望みを聞くよう言っていた。サーヤの望みは元の世界に戻ることだ。魔王になることではない。」

「ですが陛下は・・・」




「あ~も~うっせぇ!」




 二人のやり取りを黙って聞いていたアギルが叫び立ち上がって近づいてくる。彼の言動に二人の言い争いも止まったが、もしかしてアギルも私の事を陛下だと言うつもりなんだろうか?伸ばされた手に反射的に身をすくませアレクの服をギュッと握ってしまう。

 アギルは私の頭にポンと手を置くとそのままわしゃわしゃと撫で、安心させるように微笑んだ。


「悪かったなサーヤ、怖がらせて。それと、イオレスを助けてくれてありがとな。」


 変わらないアギルの態度に安堵し微笑み返す。アギルの頬がかすかに赤くなったのは気のせいだろうか?


「つーかお前ら二人ともサーヤの意思を無視してんじゃねえよ!しかも陛下だ、陛下じゃないってうるせえんだよ!」

「俺はサーヤの意思を尊重している。なにしろ俺は彼女に騎士の誓いを立てたのだから。」


 アレクの言葉にその場が静寂に包まれる。ああ言っちゃたよ。



「「・・・・・・」」




「「はああああああ?」」




 一拍おいてアギルとレティスの声が重なる。平伏していた兵士たちも一斉に顔を上げ、こちらを見て呆然としている。


「どういうことだアレク!まさか精霊石を介した誓いじゃねえよな!?」

「それ以外に何がある。」

「陛下の存在を我々に隠すだけでは飽き足らず、そのような抜け駆けまでするとはっ!アレクっ、あなたどういうつもりなんです!」

「隠すのは当たり前だろう。こうなることは予測がついていたからな。」

「陛下が転生したのなら再び我らの王となっていただくのは当然でしょう!」

「彼女の願いはチキュウに帰ることだ。王になることではない。」


 また同じ押し問答が繰り返されようとしている。このままでは埒が明かない。


「あのっ」


 声を発した瞬間その場にいた全員の視線が集まる。き、気まずい。


「あのですね、アレクの言うとおり私はあなた方の陛下じゃないし、魔王になるつもりもありません。だからその・・・レティスさんの希望にはこたえられません。」


 はっきりそう言うと、レティスは絶望的な顔をした。


「そんな陛下!我らをお見捨てになるのですか!」


 縋り付いて来ようとするレティスを払いのけたアレクは、全員に聞こえるように宣言した。


「聞いたとおりだ!彼女は陛下ではない。よって彼女の意に反して魔王に仕立てようとするものがあれば、俺を敵に回すと思え!」


 そう言い放つと、レティスの制止も聞かず私を連れアレクの私室へと転移した。




*****




「怪我をしたのか?見せてみろ。」


 私室に着くなりアレクはそう言って手を取った。


「大丈夫。この血は私のじゃなくてイオレスのなの。」

「イオレスの血?」


 訝しげなアレクにあの場で起こったことをかいつまんで説明する。


「ごめんねアレク。魔力は使うなって言ったのに使っちゃって。」

「お前が謝る必要はない。イオレスを救ってくれたんだろう?俺もお前に感謝する。ありがとうサーヤ。」


 アレクの言葉に安堵するも、不安も芽生える。これからどうなるんだろう。


「封印が解けたってことは覚醒もしちゃうのかな・・・。」


 そう呟くと、アレクは考え込む。


「覚醒しやすくなっているのは事実だ。そもそもお前にかかっていた封印術は異世界のものだ。お前の魂が本来あるべき世界へ戻ってきたことで力が強まり、術者と離れたことで封印が弱まったのだろう。この世界に滞在することで覚醒が早まると考えられる。」

「じゃあもう一度封印術をかけるのは?そうすれば覚醒を遅らせられないかな?」

「お前が望むのならかけてもいいが・・・そうすると俺の力も制限されることになるからな・・・。」

「え、何で?」


 別にアレクに封印術をかけるわけでもないのに何故彼の力が制限されるのだろう?


「サーヤの魂と俺の魂は誓いによって繋がっているから俺にも影響があるんだ。以前の封印術は誓いをする前にかけられたものだったからほとんど影響はなかったんだがな。お前が魔王の魂の保持者と知られた今、レティスを始め様々な思惑で狙われる可能性が高い。だから俺の力が拘束される封印術はあまり望ましくはないな。」


 確かにレティスはまだ諦めていない様子だった。平凡な日本人だった私が魔王に?いやいや無理でしょ。

ならこれまで通り魔力を使わないという方針をとるしかない。


「こうなれば仕事は後回しだな。なるべく早くチキュウへ帰る方法を見つけなければならない。だが今日はやめておいた方がいいだろう。城内はお前の話題で持ちきりだろうからな。」


 思えば彼には迷惑をかけ通しだ。このお礼は必ず!と心に誓う。


「これからは一人で出歩くなサーヤ。外に出たいときは必ず声をかけろ、いいな?」

「はい・・・。」


 結局は彼の目の届くところにいるのが一番迷惑がかからないのだとこの一件で十分に理解したのだった。



*****




 これからの方針をアレクと話し合っていたとき、コンコンとノック音が響いた。もしやレティスでは?と考えてしまった私にアレクは「大丈夫だ。」と微笑んで扉を開けに行った。そこにいたのはアギル、そして今にも倒れそうな青白い顔をしたイオレスだった。


「イオレス!大丈夫?顔色悪いよ。寝てないと。」


 小走りに近寄り、イオレスの前に行くと彼は勢いよく頭を下げた。直角90度、体勢きつそう。


「あのような騒ぎを起こしてしまい申し訳ございませんでした!しかもサーヤ様が陛下の生まれ変わりだなんて知らずに数々の無礼を働いてしまい・・・」

「ちょっと待ってイオレス。皆にも言ったんだけど、私は陛下じゃないし魔王になる気もないの。前世の事は全く覚えていないし、今の私はただの沙綾っていう異世界人だから!」


 今にも土下座をしそうなイオレスに待ったをかける。魔王扱いなんてされたくない。するとアギルがイオレスの頭を無理矢理引き戻した。痛そう。


「だから言っただろ。サーヤは気にしてねえし、謝罪は必要ねえって。それよりほかに言うことがあるだろうが。」


 イオレスは首を抑えつつ、アギルを恨みがましい目で見つめた後、先ほどよりも浅くお辞儀をした。


「先ほどは助けていただきありがとうございました。お礼と言ってはなんですが、僕もサーヤ様に協力します。僕にできることがあれば何でもお申し付けください。」

「肩っ苦しいなぁ~。もっと砕けた口調で言えないのかよ。」

「お前が礼儀知らずなだけだ!アレクシス様の前だぞ。しかもサーヤ様は彼の主だ、礼を尽くして当然だろう!」


 小声で反論しているが聞こえているよイオレス。地が出ちゃってるよ。そんなイオレスを軽くスルーしてアギルがずいっと前に出て私の手を握る。


「もちろん俺も協力するぜサーヤ。泥船に乗ったつもりでいろ。」


 泥船・・・何とも頼りない。イオレスの口の端が引きつっている。


 ゴスッ


 すごい音と共にアギルの手が離される。今まで黙ってみていたアレクが剣の鞘でアギルの頭を殴ったのだ。アギルは頭を押さえて呻いている。っていうかアレク、さっきまで剣持ってなかったのにどっから出したの?


「いっっってぇな、おいっアレク!いきなり殴んじゃねえよ!」

「泥船、腹が減った。」


 アギルの怒りなど何処吹く風でアレクは言い放つ。なんて横暴な。


「どうせ作ってきたのだろう。さっさとよこせ。」

「お前の為じゃねえよ!」


 そう言いつつ脇に置いてあったらしいカートを部屋の中へと入れる。その上には焼き立てらしいスコーンと色とりどりのジャム、それからティーポットが置かれていた。


「・・・これアギルが作ったの?」

「ええ、そうですよ。アギルは見かけによらず料理が得意なんです。」

「見かけによらずってなんだ。見かけによらずって。」


 イオレスの言葉にアギルがツッコむが正直イオレスと同意見だ。根っからの軍人と言うあの見た目で?世の中には不思議がいっぱいである。


 それから4人でこれまでの事と今後の方針を話し合いつつ昼食タイムとなった。



次回はアギル視点です。

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