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転生魔王と騎士  作者: 如月文
第一部
12/112

封印解けちゃいました

 アギルが吸血族だという衝撃の真実がもたらされた今も、話題の彼は乱闘真っ只中にいる。しかも延々と気絶から復活した兵士たちは果敢にも再び彼に挑んでいき、訓練という名の乱闘へと戻っていく。いつ終わるんだろう、これ。


 なんだか退屈になってきたので、ふと思い出した事を聞いてみる。まさかそれがあのような事件に発展するとは露程思わずに。


「そういえば、イオレスって獣人族なんでしょう?その耳って犬?」

「いいえ、僕は狼の獣人なんです。」

「狼!ってことはイオレスは狼男なの?えっと、人狼?ワーウルフっていえばいいのかな?」

「いえ、狼の獣人は・・・」


「たかだか獣人族と俺たち誇り高き人狼族を一緒にされるのは心外です、サーヤ様。」


 イオレスの言葉を遮りガラの悪そうな兵士二人がこちらへと歩み寄ってくる。馬鹿にするようにニヤニヤと笑っているが一人には左目にくっきりと青痣が、もう一人の右ほおには靴跡が付いている。思わず笑いそうになったが、必死に耐える。


「獣人族は完全な人の姿にもなりきれず、獣の姿にもなりきれない中途半端な弱小種族。」

「魔力も少なく、他種族に頼るためにこの王都周辺に集落をかまえる数しか能のない種族。」


 人狼族であろう二人は格好つけているようだが、顔についている青痣と靴跡のせいで正直様になっていない。


「なんだとてめえら!俺たちを侮辱する気か!」


 突然の声に振り向くと、傍で気絶をしていたウサ耳の獣人が怒りをあらわにして立っていた。彼の声を聴いた他の獣人族も次々に集まってくる。緊迫した空気なんだろうけれど彼らの頭についている動物の耳のせいでそれが半減されている。


「侮辱も何も、本当の事だろうが!そもそも魔法が使えないアギルが将軍なんて地位にいるから魔力の少ない獣人族がつけあがるんだ!」

「アギルが将軍になってから『魔法が使えなくても強くなれる』って勘違いした獣人族の軍への志願者が増える一方だ。こっちは迷惑しているんだよ!」

「なんだと!アギレシオ将軍に一度として勝ったことがないくせに!貴様らが馬鹿にしている獣人族のイオレス様にも劣る奴らがよく言えるな!」


 なんだか本当にやばい空気が漂ってきている。おそらくアギルとの乱闘で気が立っているのかもしれない。一触即発。


「みんな落ち着け、客人の前だぞ。イールもキースもアギルに負けて悔しいのは分かるがこんなところで鬱憤を晴らしても仕方ないだろう。それからお前たちも、この二人が他種族を貶すのはいつもの事だろう。こいつらを黙らせたいのなら、実力を示してやればいいんだ。ほらさっさとアギルを倒してこい!」


 イオレスが仲裁に入り、獣人族が大人しくなる。だが青痣イールと靴跡キースは違った。


「ハッ、やっぱり弱小種族だな。次期族長がこんな弱腰じゃあ仕方ないか。まさしくしっぽを巻いて逃げる、だな。」

「アギルと仲がいいってだけで補佐官になった奴だしな。俺もアギルとお友達になっておけばよかったぜ。」


「な、んだと・・・!」


 訓練へと戻ろうとした獣人族たちが足を止める。


「おい、お前たち、いい加減に・・・」

「イオレス様は黙っててください。俺たちは次期族長のあなたを馬鹿にされて大人しくしているほど誇りを失ってはおりません。」

「僕たちはあなたがしてきた努力を知っています。あなたが将軍補佐となったときどれだけうれしかったことか!」

「あなたは我らの誇りであり、目標なのです。」


 獣人たちは武器を手に取り、人狼族と向き合う。


「あぁん?やろうってのか?」

「弱小種族が、俺たちに歯向うだなんていい度胸だな。」


 人狼族も武器を手にする。ど、どうしよう、というかなんでアギルはこちらの様子に気付かないんだ!鈍感か!


「サーヤ様、ここは危険です。離れてください。」


 イオレスの言葉にこくこくと頷く。そうだアギルを呼んで来よう。乱闘中だけど声を張り上げれば届くかもしれない。待っててイオレス、と決意を新たに駆け出そうとしたとき―――――



 ザシュッ




 嫌な音がした。





 恐る恐る振り返る。そこにいたのは獣人族と人狼族の間に割って入り、人狼族の剣によって刺し貫かれたイオレスの姿だった。



*****



 何が起きているんだろう。頭が真っ白だ。目の前にはまるでスローモーションに崩れ落ちるイオレスの姿がある。彼の体から赤い血がどくどくと次から次へと流れだし、地面が赤く染まっていく。

 一瞬周囲が静まり返り、ついで悲鳴が上がる。


「イオレスっ」


 アギルがやっと事態に気付きイオレスに駆け寄る。


「馬鹿野郎!何をしている、さっさと治癒術士を呼べ!」


 アギルの恫喝に周囲が一斉に動き出す。


「俺達は西棟に行く!お前らは救護室に行け!」

「アレクシス様にも連絡を!」


 どうやらこの場に治癒術を扱える魔族はいないらしい。間に合うのだろうか。今もなおイオレスの体から血が流れ出していっている。さっきまで元気に話していた彼の姿は見る影もなく、青白い顔に、くったりとした体、か細い呼吸、閉じられた瞼はまるで死んでいるかのような・・・。




 頭の中で過去の映像がフラッシュバックする。



 車のクラクション。



 急ブレーキ。



 抱き込まれた腕の中。



 衝撃。



 横たわる血の気のない体。








『化け物!お前のせいであの人が死んだのよ!』 

 






『お前が死ねばよかったのに!』










「ごめんなさい・・・」





 無意識に呟きふらふらとイオレスに近づく。アギルが何か言っているようだがよく聞き取れない。


 あの時は助けられなかった。けれど今ならきっとできる。イオレスのそばに座り込み傷口に両手を翳す。

こんな大きな怪我を治すのは初めてだ。漂う血の香りに吐き気がこみ上げるが、ぐっと我慢する。


 集中しろ。自分の中にある力を両手に集める。両手が白く輝き始め、その光を傷口へと当てる。大丈夫、できる。だが傷口の変化はない。まだ力が足りないのだ。


 もっと力が欲しい。私は魔王の魂を持っているんでしょう?だったら私の力はまだまだこんなもんじゃないはず!お願いだから、彼を助けるために力が必要なの!

 強く願うと、体の内側で何かが解けていく感覚がした。その感覚がなくなると同時に、体が軽くなる。自分の中にある力が、魔力が感じ取れる。魔力を開放すると、自分とイオレスの周囲が眩い光に包まれた。




*****




 光が引いた後イオレスの姿を確認すると、傷口は完全に塞がれていた。顔色はまだ悪いが呼吸は安定している。もう大丈夫だろう。ほっとしたのと同時に、あんな膨大な魔力を使ったのに疲労感がないことに驚く。今までなら小さな切り傷を治すだけでも疲れていたというのに。


 ふと、周りの喧騒が止んでいることに気が付く。誰一人として物音すら立てない。さすがにおかしいと感じ、振り返る。その目に飛び込んできたのは、アギルがすぐそばで跪き、残りの者全員が私に向かって平伏している姿だった。


 これはどういう事態なんだろう。正直すごく居心地が悪い。だって誰一人身じろぎさえしないのだ。これからどうしたらいいのか軽い混乱状態に陥る。すると呆然としている私の右側で、ふわり、と風が舞い上がった。


 風とともに姿を現したのはレティスだった。彼は私の姿を見て目を大きく見開き、


「へ、いか・・・?」


 と、呟くとすぐさま私に向かって跪いた。


「陛下のご帰還我々一同お待ちしておりました。まさかこのようなご帰還になるとは思わず、出迎えられなかった我らをお許しください。」


 レティスの言葉にまさか、とたじろぐ。アレクは魔力を使えば覚醒を早めると言っていた。けれど覚醒を抑える魔石は壊れていない。それとディウスの封印が解けかけているという言葉、それらから導き出される答えは・・・









 封印が、解けた?



 





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