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転生魔王と騎士  作者: 如月文
第三部
109/112

カオスは突然やってくる

間を開けすぎてしまい申し訳ございません。

「重いッつーの!さっさとどけ!」


 苛立ったアギルの叫びにハッと我に返る。いやいや、アレクと微笑み合って和んでいる場合じゃなかった。周りを見渡すと、こっちに引き寄せられた反動の為か、積み重なって倒れたアギル、駿、レティスの姿。もちろん一番下になっているのはアギルだ。大の男二人分・・・そりゃあ重いよね。アレクが庇ってくれなかったら一番下になっていたのは私だと思うとぞっとする。まあそもそもこの現状を作り出したのは半分ほど彼のせいなのだけれどね。

 次に目に映ったのはレイとギル。とりあえず、後ろの騒がしさは放置してアレクの腕から抜け出すと、驚き目を見開いている二人の元へと速足で歩みより、レイの手をガシッと掴む。


「レイ!よく頑張ったね!あなたは化け物なんかじゃないんだからね!」


「サ、サーヤ様・・・」


 やっと言えた!化け物と呼ばれるつらさは身にしみてわかっている。それは近しい存在から言われたものであればなおさら心を抉るのだ。確かに私達には人間が持たない力があるが、悲しんだり喜んだりする心は彼らと同じ。心を持たない化け物とは違う。

 レイは涙で滲んだ瞳をゴシゴシ擦る。ああ、そんなに擦ったら赤くなっちゃうって!せっかくの王子様フェイスが台無しになってしまう。えーっとハンカチハンカチ・・・。ポケットをごそごそしていると、目の前にスッと白いレースの付いたハンカチが差し出された。


「あ、ありがとう、ギル。可愛いハンカチだね。」


「・・・可愛く、ないです・・。」


 ギルに礼を言い、それを受け取ると彼は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。しまった!50オーバーのギルにとって可愛いは言っちゃだめだよね!しかも今彼は不本意な女装をしているのだから、もっと気を使ってあげるべきだった。例え、フリフリのドレスが似合うなあとか、すぐにハンカチをだせちゃう女子力の高さとか思ってても声に出してはいけないのだ。


「ギルもお疲れ様。代役ありがとう。」


 彼をねぎらいつつ頭をなでなでする。子ども扱いするとまた不機嫌になるかもしれないけれど、何度見ても可愛いのだから仕方がない。声には出せないのだから大目に見てもらいたい。


「クレイ・・・」


「え?」


 てっきり手を払われるか「子供じゃない。」と反論されると思っていたのに、なぜここでクレイの名が?


『なんだ?』


「ひえっ!い、いきなり出てくるのはやめてよ、クレイ!」


『すまん。』


 クレイに限らず大精霊たちは突然現れることがあるから心臓に悪い。あれ?私以外に誰か叫び声を上げたような・・・多分アギルかな。またレティス達に何かされているんだろう。それより、どうしてクレイを呼び出したのかの方が気になる。


「服・・・」


『似合っているのに?』


 コテンと首を傾げて言えなかった言葉を言ってしまうクレイ。激しく同意だが、その言葉を聞いたギルはぎろりとクレイを睨みつけた。主の怒りを汲み取ったクレイは、即座にその場から消え、どこか遠くから「何者だ、きさ・・・!」という叫びとゴスッと鈍い音が耳に届く。

 そして戻ってきたクレイの手にあった物は言わずもがな、牢番であったであろう兵士の服。何があったかは明白。追剥ぎ、窃盗、犯罪、そんな言葉が頭の中を駆け巡るが、出した答えは一つ。よし、見なかったことにしよう!大体こんなに騒がしくしているのに様子を見に来ないのだから、怠慢もいい所だ。これを教訓にちゃんと仕事をするように!あ、でも風邪はひかないようにね!

 そしてクレイに犯罪行為をさせた張本人はというと、服を素早く受け取り隅の方へと移動していた。でもその服だとちょっと大きくないかな?役目を果たしたクレイはいつの間にかいなくなっているし・・・。それはそうと、なんだかさっきより後ろが騒がしくなったような・・・レティス達を諌めるために振り返る。


「アギル、レティス、兄さん!レイのお父さんとエルディラの王様がいる前で・・・」


 目に映った光景に一瞬にして青褪める。そこにはレイに詰め寄る彼のお父さんとエルディラ王の姿が!


「レイ、これはいったいどういう事なんだ!」


「彼女は一体何者だ!?どうして鏡の中から?一瞬にして現れたあの男性は!?」


「お、落ち着いてください、父上、叔父上!」


 私にとっては日常的な事でも彼らにとっては違うことをすっかり忘れていた。鏡から出てきたのはさすがに初体験だけれど。いずれにしてもこの状況はまずいよね。こういうときはとりあえずレティスだ!

 彼を探して、辺りを見渡すとレティスと駿の下敷きから解放され、へたり込むアギルに「だらしがないですねえ。」と見下すレティスが!「誰のせいだ、誰の!」というアギルの叫びに彼を慰めたくなったが今はそれどころではない。もちろんそのすぐそばで、駿がアレクに掴みかかっていようと気にするものか!アレクなら大丈夫だろうしね。


「これはまさしくカオス・・・」


 とりあえず最優先はエルディラ王族兄弟を落ち着かせることだろう。国際問題になんてなったらシャレにならない。アギルには怒りを抑えてもらって、レティスを引きはがす。そして彼には説明役という大役を与えよう。別に自分で説明するのが面倒臭いとか思ってないよ、全然。ただ、人には向き不向きというものがあって、こういう事はやっぱり宰相に任せるのが・・・ってあれ?誰か今肩叩いた?


「着替えた・・・です。」


 わあ、大きくなったギル久しぶり~。牢番の服が良くお似合いで・・・でもやっぱり丈が短いかな?ギルは結構体格もいいし、実は騎士の中で一番背が高かったりするんだよね。最低身長から最高身長へ!なんてね・・・


「しょ・・・少女が・・・男に・・・」


「大きく・・・なった?」


 あ、いやな予感・・・そう感じた瞬間王族兄弟は二人そろって仲良く気絶。明らかにキャパオーバーですね、はい。


「父上!叔父上!」


 牢の中でむなしく響き渡るレイの悲鳴。本当にごめんなさい。




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