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転生魔王と騎士  作者: 如月文
第三部
106/112

それでも沙綾は抜けません!

「もう怒った・・・」


 ガタンッと椅子を鳴らし立ち上がり、速足で姿見に近付く。後ろからは「どうした沙綾?」「サーヤ様?」「お、おいサーヤ?」と三者三様の呼び声が聞こえるが、返事なんかしていられない。それくらい、あの王太子とかいう人物にイラついていたのだ。

 ここは剣と魔法のファンタジーな世界だ。それなら・・・


「駿ちゃん!」


「な、なんだ?」


「この鏡、通り抜けられないかな?」


「は?」


「それは物質的に通り抜けるだけでしょうか?それとも、転移という意味ですか?」


 突然の私の疑問に答えたのは兄ではなくレティスだった。もともとこの世界の住人である彼なら魔法に精通しているから、回答者としては申し分ない。


「転移の方。」


「不可能ですね。」


「どうして?」


 鏡を通り抜けたら別世界、なんていう魔法は地球の映画や本でよく見られるファンタジーの王道だ。それなのにこの世界では不可能?


「我々が使う転移魔法というのは、そもそも自分が属する元素を用いて発動させるものです。例えば私の場合、大気に私の風の魔力を同化させ、目的地の元素とその魔力を繋ぐ事で移動先を固定し、それを軸に体を転移させるのです。だからこそ、遠い地へと転移するのは軸が定まらないため、危険であり不可能であるという事なのです。」


「でも前に駿ちゃんはフェルムの森で水のない場所に転移してきたよ?」


 あそこにあったのは媒介に使われた魔物の血だけだ。それは元々フェルムの森にあったものではないから、レティスの言う事には当てはまらない。


「あの時は空気中の水分を使ったんだよ沙綾。地球にいたときも、俺はそうやって移動していた。」


 そうか、だから騎士たちは転移魔法の仕方がバラバラだったんだ・・・。レティスは風に包み込まれるように、アレクは影に呑み込まれるように、アギルがやらないのは彼が魔法が不得意というのもあるけれど、彼が属する炎がどこにでもあるわけではないことも理由の一つなのだろう。


「鏡という属性がない以上、これを使って転移するのは不可能ってこと?」


「そうなります。魔力を司る元素を使用しない転移は空間を捻じ曲げることになります。それは時空に干渉する行為。陛下であれば可能であったでしょうが・・・サーヤ様はいかがですか?」


「私?」


 ああそっか、ディウスができたってことはその魂を持つ私にも可能ではないかってことか。ディウスは思いのほか多才だったようだけれど私は・・・


「・・・地球にいたころは少しの距離なら移動できたけど、まだ力を使いこなせていないし、遠距離となると・・・無理だと思う。でも!地球の能力者は、元素の力がなくても移動できていたよ!」


 ね!と同意を求めるように兄を見る。しかし彼は難しい顔でこちらを見返した。


「あっちの奴らの話では、恐らく(ことわり)が異なっているからではないかという事だ。詳しいことは俺にはわからない。」


「ふむ、元素を使わず、ですか・・・興味深いですね・・・。」


「おい、実験動物を見るような目で見るな・・・俺はできないって言ったはずだぞ。」


「ああ、そうでしたね・・・残念です。」


 レティスは地球に連れて行っちゃだめだな、うん。瞬間移動できる仲間が実験体にされてしまいそうだ。まあ、あちらへ行く方法はいまだに見つかっていないのが現状なんだけれど。


「じゃあやっぱり黙って見ているしかないってことなんだ・・・」


 諦めるしかないという事なんだろうけど、何とかできない物かと鏡に触れる。


『諦めるのか?』


「だって方法がないんじゃ・・・」


『我としては中々に面白き案であると思ったが・・・そなたならできるのであろう?』


「できるかも、だよ。瞬間移動なら少しやったことはあるけど、地球での話だし。長距離なんてしたことないしね。」


 それに私が行くとなれば、ここにいるメンバーはついてくるに違いない。アギルは残るよう説得できるとしても、レティスと駿は無理だろう。つまり最低二人を連れてという事になり・・・他の人と一緒に転移は私には未知の領域だ。被害にあうのが私だけならまだしも、二人を巻き込むのは嫌だ。


『我が力を貸してやろうか?対価はもらうがな。』


「えっ?対価って・・・」


「なあ、沙綾?」


 何?いま大事な話を・・・と思いながら振り返ると、どこか不思議そうにこちらを見る三対の目。


「さっきから誰と喋ってんだ?」


「え?」


「サーヤ様に誰かが念話を?そのような魔力の気配は感じませんが・・・」


「疲れているのか沙綾?昨日はちゃんと寝たか?何時ごろ?歯はちゃんと磨いたのか?」


「ちょっ駿ちゃん!お母さんみたいにっ」


 ズプリ


 なってるから!と続けようとした言葉は声になることはなかった。何故なら鏡にあてていた手が鏡面に埋まっていたから。一瞬の静寂の後・・・


「え―――――――――――っ!どっ、どうしようこれ、埋まってる?え?何これ?」


「お、おち、落ち着け、サーヤ!これはあれだ!鏡から目を話さずにゆっくり後ろに下がるんだ!」


「それは熊に出会った時の対処法だろう!お前がまず落ち着け!」


「良いですかサーヤ様、ゆっくり手を引き抜くのです!落ち着いて!」


「う、うん・・・あれ?抜けない?」


 レティスの言う通りに腕を動かそうとするが、まったく動かない。というよりこれは・・・


「誰かが握ってる?」


「ホラーじゃねえか!おいレティスっ、いわくつきの鏡を用意しやがったな!」


「そんなはずはありません!アギルにならいざ知らず、サーヤ様が使用されるものにそんな怪しげなものを用意するわけがないでしょう!」


「喧嘩は後にしろ!いいからサーヤの腕を引っこ抜くぞ!」


 駿の言葉に我に返った二人は彼に続いてもう片方の私の腕を引っ張る。これはあれですか?私が大きなカブという事でいいですか?

 しかし三人が引っ張っているにもかかわらず、私の腕は引っこ抜かれるどころか・・・


「むしろ埋まっていっているような・・・」


いや、ちょっと待って・・・この手の感触には覚えが・・・ためしにキュッと握ってみると、先ほどよりも少し強い力で握り返された。そこからもたらされるのは恐怖や不安などではなく、安心感そのもの。私の手を握る存在が誰であるかを理解し、フッと体から力を抜く。抵抗する必要はない、彼なら確実に私を向う側に連れて行ってくれる。その瞬間彼が私を引っ張る力が強まり、私の体は鏡の中へと飛び込んでいった。




*****




 ドサドサッと言う音と共に体が倒れこむ。衝撃が訪れることを予期して目を瞑るが痛みは一向にやってこなかった。代わりに誰かに抱きとめられる感覚。瞑った眼を開いて、自分を抱きとめた人物が予想通りだったことに思わず顔がほころぶ。


「久しぶり、アレク。」


「元気そうで何よりだ、サーヤ。」


 久々に見るアレクの笑顔に、美形はやっぱりずるいな、と状況にそぐわないことを考えてしまった。



 








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