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転生魔王と騎士  作者: 如月文
第三部
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杏仁豆腐の定義

 昨日は結局、夕飯後姿見の方の魔法が切れてしまい、それからすぐに解散となった。もう一度魔法を、とはさすがに言えない。夕食時のアギルと駿の疲労感漂う姿を見たら、ね。

 ターンテーブルの上に乗っかった異様なオーラを放つ黒い物体。これを見れば大方の察しはつく。つまり彼らはレティスの調理場侵入を阻止できなかったのだ。

 とてもいい笑顔で私の目の前にその黒い物体を回転させてくるレティス。「食べてください!」と期待に満ちた瞳をキラキラと輝かせる彼とは対照的に、「食べたら死ぬぞ!」と死んだ魚のような目をした瞳でどんよりと見つめてくる二人。


「い、今はエビチリの気分かな!」


 そう言いながらそっとテーブルを回転させる。私の目の前にはアギル作のぷりぷりのエビチリ。そして黒い物体はアギルの目の前へ。ごめんね、アギル。わざとじゃないんだ。

 自分の目の前に来た黒い物体に青ざめたアギルは、慌ててテーブルを回転させようとするが、駿がそうはさせじと氷でテーブルを固定する。お前は鬼か!自分の事は棚に上げて心の中でツッコんだ。

 アギルの魔力コントロールでは、氷だけ溶かすのは不可能だ。それは彼も重々承知の上らしく、早々に諦めたかのように見えた、が、ここで彼が起こした行動は本当に見事だった。

 彼はガタリと立ち上がると、溶解スライム爆弾が乗った皿を持ち上げ、


「デザートは後にしような、サーヤ。これはちゃんと冷やしておくからな。」


 え、それデザートだったの?冷やしておくって?彼の眼にはそれが何に見えているというのか。私には黒い拳大の岩石にしか見えないのだけれど・・・。だが、その皿を下げてもらえるのはありがたい。夕飯を食べ終えた後は、お腹いっぱいとかなんとか言って部屋に引っこもう。


「う、うん、お願いねアギル。」


 慌てて彼に返事を返し、皿を持って調理場へ戻る彼を見送った。ありがとうアギル。ちゃんと処分もお願いね。これで難を逃れた、という考えは甘かった。

 ひとしきりアギルが作った中華料理を堪能し、そろそろ部屋に戻るかとなった時、レティスに引き留められた。


「お待ちくださいサーヤ様。私の作ったデザートがまだですよ。」


「ご、ごめんねレティス。もうお腹いっぱいで・・・」


 用意しておいたセリフを返し、早く退散しようとすると、彼はとてもいい笑顔でこう返した。


「でしたら、お部屋の方でお召し上がりください。後でお持ちしますので。感想聞かせてくださいね。」


 終わった・・・今日は私の命日だ・・・。感想を聞かせろという事は、部屋に持ってきたところで、彼がいなくなった後に処分するという方法も使えない。どうあがいても逃げ場がないというのなら、駿とアギルがいるこの場で食べた方が私の安全のためには最善だろうと、再び椅子に座りなおした。


「やっぱりここで食べる。アギル、持ってきて!」


 死を覚悟してアギルが黒い物体が乗った皿を持ってくるのを待つ。しかしアギルが持ってきたものは・・・


「杏仁豆腐だ・・・」


 まごうことなき杏仁豆腐である。黒い岩石ではなく、プルプルの柔らかい白い物体。これは一体!?

 驚いてアギルを見ると、ぐっと親指を立てられた。なんというファインプレイ!


「おや、私が用意したものと違いますね。」


 レティスの言葉に私を含め、3人がギクリと肩を揺らす。


「いや、お前が作ったのは杏仁豆腐だっただろ!冷やしたら柔らかくなったんだよ。これはちゃんとお前が作ったものだ!」


 あれって杏仁豆腐だったの!?どうして彼はあれが失敗作だと気付かないのか。眼鏡の度数あっていますか?今度新調してあげるべきか・・・。いや、真にすごいのはあれを杏仁豆腐と識別できたアギルだ。駿は「あれが杏仁豆腐、だと!?」と驚愕している。やはり長年の付き合いのなせる技なのか?でもね、冷やしたら柔らかくなっただなんて、レティスが信じると思う、アギル?ここは私もフォローを・・・


「杏仁豆腐というものは冷やしたら柔らかくなるものなんですか?どうりで以前アギルが作った物とは違うなと思っていましたよ。」


 信じた!?というか、そこで自分が作った物が杏仁豆腐じゃないって気づこうよ!いつになれば彼は自分の壊滅的な料理センスに気が付くというのだろうか。先は長そうである。

 まあそんなこんなで、夕飯が終わるころには私を含めたレティス以外の三人は疲労困憊。それでもまだ魔法の効力が切れていない手鏡の方で彼らの様子を探ろうとすると、エイラに取り上げられました。


『昨日はちゃんと寝ていないんでしょ、サーヤ?今日は早く休みなさい!』


 有無を言わせぬ勢いで布団をかぶせられるが、気になって眠れない!と一応訴えてみた。すると彼女は優しく微笑んでこう言った。


『何かあればちゃんと起こすから。ね?』


 まるで駄々っ子を寝かしつけるようなエイラを、お母さんと呼びたくなる。いや、年齢を気にしているらしい彼女にそれはまずい。せめてお姉さん、かな。

 優しくポンポンと叩いてくる彼女と、寝不足、疲労感に負けいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。



 朝、私にしては早く目覚め、アギルが作った美味しい朝食をいただき、さあ昨日の続きだ!とレティスと駿に姿見に魔法をかけてもらう。そうして映った光景は・・・


「なんでエルディラの王様まで捕まっているの!?」


 とんでもない急展開だった。

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