一寸先は闇
初投稿です。よろしくおねがいします。
「沙綾〜朝だぞ〜。」
大好きな兄の声がする。心地よいこの声はむしろ眠りへと誘っているようだ。
「沙綾〜今日から大学の講義が始まるんじゃなかったのか?初日から遅刻か?」
その言葉で一瞬にして頭が覚醒する。ガバリと起き上がり、
「 え、遅刻?もうそんな時間?」
と、焦る私を兄は苦笑し、落ち着かせようと頭を撫でる。
「大丈夫だ。まだ時間はある。だが、俺はもう出なくちゃだし、準備もあるだろうから早めに起こしたんだ。」
その言葉にほっとし、ならもう少し寝てもいいのではないかという思いが頭をよぎる。だが兄はそれを見透かしていた。
「二度寝はするなよ。朝食はちゃんと食べろ。戸締まりも忘れるなよ。」
「もうわかったから、早く行って!」
はいはい、と言いつつ、兄は部屋から出ていく。私はもそもそと準備を始めた。
兄の作った朝食を食べ、身支度を整えて最終確認をする。準備はバッチリだ!少し余裕を持って出ていける。そう思って玄関のドアノブに手をかけたその瞬間・・・。
『やっと見つけた。』
頭に声が響きわたり、一瞬にして世界は暗闇に染まった。
周りを見渡し、はあ、と溜め息を吐き、またか、と思う。
明らかに異常な事態が起きているというのに、私は至って冷静だった。それもそのはず、私や兄それに周りにいる友人達にも、不思議な力があったのだ。そしてその力で悪戯をしたり、されたりというのは日常茶飯事だった。多分今回もそれだろう。
ただ、直前に聞いたあの声には聞き覚えがなかったことが気にかかる。
まぁ、それは後で考えよう。私は目を閉じ、この空間を作っている力の源を探す。物であれば破壊を、人であれば捕まえて解除させるか気絶させればいいのだ。
(あった!)
見つけたと思った瞬間、背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ。
本能が感じとる、これに触れてはいけない、と。目覚めさせてはいけない、これが起きる前に逃げなくては!だが、力を使って無理やり脱出しようとすればこれは起きてしまうだろう。動くに動けない、まさに八方塞がりの状況だ。
恐怖で体は震え、出してはいけないと知りつつも、か細い声が漏れ出てしまう。
「だ、だれか・・・たすけて・・・。」
その時、再び頭の中に、声が響いた。
『こっちだ!』
最初に聞こえた声とは別のものだ。驚いてあたりを見回すと、黒い皮手袋に包まれた人の手がこちらに向かって伸ばされていることに気付く。正直ホラーだ。
『早くしろ!手を掴め!』
打開策は他にはない。私は思い切って、その手を掴んだ。それを待っていたかのように、強い力で、ぐいっと引き寄せられる。手を掴んでいる右手が闇の中へと消えていく。不思議と不安はなかった。その手に触れた瞬間、何故かこの手の主は信用できると思ってしまったのだ。
そして私の体はすべて闇の中へと飲み込まれていった。