1
「はぁー?!文乃さぁ、あんた男と一晩同じベッドで寝てるのに朝まで爆睡って、今時の高校生でもありえない。いい大人なんだから一発位ヤリなさいよ。」
ゴホッ
危うく飲みかけのカフェラテを口からブチまけてしまうかと思った。
麗らかな休日の昼下がり。自由が丘のオサレなカフェでする会話じゃないでしょうよ、香穂さま。
ほんっとにありえないわぁ、とブツブツまだ文句を言っている目の前の彼女は、高校からの同級生の中峰 香穂。文乃と同じく、都内の国立大で薬学を専攻し、彼女は大学に残って研究を続けている。
サラッサラの黒髪ロングヘアに切れ長の瞳の美女である彼女はかなりの年下キラーで、彼女に喰われた…もとい虜になった学生達は両手両足じゃ足りないんじゃないかと思う。
千尋の家に泊まってから(泊まったというか寝落ちして寝させてもらったというか。)、もうすぐ1ヶ月が経とうとしている。
あれから、仕事帰りに予約なしで2度ほど店を訪れたが、どちらも閉まっていて会えず仕舞いだった。
今日は香穂と近況報告を兼ねて、前から気になっていたチーズケーキタルトの美味しいカフェにお茶しに来ていた。そこで、千尋の事でぼーっと考え込んでいる文乃に気づいた香穂に詰め寄られ、根掘り葉掘り聞かれて今に至る。
「そ、そんなこと出来るわけないでしょ!それに、まだ千尋さんのこと、知らないことの方が多いし。好きって言うより気になってる段階なの。」
「全く。文乃は心配で石橋を叩きすぎて渡れなくするタイプね。で、千尋さんとやらは幾つ?何してる人?まさか結婚してる人じゃないでしょうね?」
グイグイ質問攻めにする香穂にたじろぎながらも、質問に応えようと考えてみる。
「えっと、歳はわからなくて、料理人で、でも毎日店を開けてるって訳でもないみたい。結婚してるかはわからない。…まぁ、謎が多いというか。ミステリアスというか。」
「はぁー?!何その曖昧な情報は!」
またでっかい声で叫ぶ香穂。
だからここはオサレなカフェであって居酒屋じゃないんだって。
「そう言われても、まだ気になり始めたばかりで…」
「情報収集は基本のきの字よ。結婚してる人を好きになってからじゃ遅いわ。困るのは文乃なの。とにかく、来月の鎌倉会までに千尋さんのプロフィールを入手すること。独身って判明したなら、ちゅーの一つや二つもぎ取っておきなさい。」
いやいやいや。最後のはどうかと思うが、確かに千尋については知らない事だらけだ。もっと、彼の事を知りたいと思う。
「とにかく、鎌倉会までに調べるのよ。そしたら私と智樹でよ〜く吟味しないと!」
吟味って何のだ。
そうは思ったが、突っ込めば墓穴を掘りそうなので、文乃は大人しくアドバイスを聞くことに徹した。




