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第一話―カイザルク―

・各話基本的に3000字くらいで文量をユルく書いていきます。

・更新は本編優先なので不定期です。

・本編で煮詰まったり、息抜きしたい時にちょこちょこっと書けるものが欲しくて書いています。

 

 イスペリアスクーンに住まう種族としての人間は、伝承では世界に二番目の支配階級種として生み出された種族とされている。


 基本的に穏やかな気性で、勤勉で働き者。特別秀でた能力を持っていない代わりに、様々な道具を発明し用いてことで過酷な環境にも順応することができ、整った身体能力と深い知性を持った優良種だった。

 そして五百年前の戦争を経験し、三種族の中で最も多くの犠牲を出しながらも勝利への立役者として数多くの英雄を輩出した。


 戦後の世界では、戦争で人間の軍を主導していた英雄が作った国が中心となって、『戦い』に役立つ武具や魔法が次々と編み出された。そして人間独自の技術が発展し、聖剣の量産化や魔法を簡略化した魔術などを生み出した。


 人間が住まう領域は大陸中央部と大陸東端まで、そして北方域と南方域に領土を伸ばしている。最も多い人口を抱える種族ゆえに生活する領域も広いが、南方にはエルフの住まう大森林地帯があり、西方は魔族の侵略派が根城にする領域があり、北方は五百年前の戦争以来禁区となっている。その為に中央から東の海までを基本的な支配領域としており、五百年前で最も犠牲者を出したと同時に、最も住んでいた領域を失った種族でもあるのが人間だった。


 戦後処理においても多くの血が流れ、扇動者レダの息がかかった北方領域は『禁区』とすることが戦後に開かれた全種族会議において決まり、その決定を止められなかった人間は生活領圏を失うだけでなく、辣腕だった当時のエルフ王に良いように誘導されてしまい、戦争によって住む場所を失った少数種族の受け入れまでもする羽目になった。


 だが、戦争で特に名を馳せた三大英雄が建国した国々が、王のカリスマ性と共に勤勉と狡猾さを併せ持つ種族の本領を発揮し、人間たちは大きく躍進してエルフや魔族と再び戦える力を持つまで力を取り戻していた。

 その中でも、一時は力を失いかけていた国を一人の異端なる若き王の台頭によって、再び大国として急激に力を取り戻した国があった。



 剣と蒼と自由の国カイザルク王国。

 建国は約五百年前。

 剣聖神ラオを崇める剣の国。

 五百年前の『扇動戦争』の終結後、人間の中で最も武勲を上げた英雄ゼーべ=エレ=ワイレイ=カイザルクによって建国された。

 主な産業は北部のカイザル山脈の鉱山資源、南部の広大な農地による農耕、そして王都ゼーベが誇る『蒼銀工房』による工業。

 現王の『農村でもパンとスープが一日三食は食える国作り』を目標に発展し、貧富の差はまだあるが貧乏でも食うには困るほどにひなびた農村は年々減っている。

 不作や飢饉に瀕しても、豊作期に備蓄する王家紋章の入った備蓄倉庫を各町に設けており、不作時にはそれが開放される。とにかく食うことにだけは困らないように、という方針は一貫して貫かれていた。

 領地がほぼ内陸のみで海に面した領地が極端少なく塩を得ることが出来ないのが悩みではあるが、豊富な食料と工房による工業製品で外貨を稼ぐことによって他国から買い付けている。


 建国当初は英雄の名の下に多くの人間が集まり、カイザルクはあっという間に発展していった。だが、英雄王が死にその血が薄れるに従ってカイザルクは徐々に力を失っていった。

 長寿のエルフや不死の魔族が五百年前の英傑を失わないことに対して、寿命の短い人間はカリスマである指導者が何度も短い期間で移り変わることによって国が乱れるのがネックだった。

 力を失い二大大国の双壁である隣国から攻められ、エルフからも攻められて絶体絶命な折に現れたのが、現王であるゼノン=エレ=ウルダ=カイザルクだった。


 父が戦場で戦死し、王国の窮地で戴冠を迫られた第一王位継承権者だった兄ウゼレが失踪し、突然王位に戴冠した『馬鹿王子』は周囲の嘆きを他所に、奇抜な作戦と王子自身の類稀なる人間離れした身体能力と戦闘能力で何度も情勢をひっくり返した。

 そして今、ゼノンは『初代王英雄ゼーベの再来』と呼ばれ、カイザルクは建国当時かそれ以上の繁栄に至っていた。


 なだらかな小山の上に燦然と輝く白亜の城。

 城を頂く小山の麓を囲むように町が発展し、その周囲には町を守るように城壁が築かれている。城壁は町の南側と西側に立てられた城塞に繋がり、王都の守りを堅固なものとしている。

 南部の城塞を避けて東部の大正門から、ゼノン率いる約十二万の大軍勢が帰還を果たした。

 今までで一番規模の大きい出兵であり、兵士の家族たちは兵の身を案じていたが、その兵を一切減らすことなく戻ってきたことに国民は歓喜し、勝敗や情勢を聞かぬままに大歓声が送られた。

 兵士たちは苦笑いだったが、ゼノンは特に気にした風もなく列の先頭で笑顔で手を振っていた。その隣では将軍のユギルが複雑そうな表情を表に出さないように努めながら、隣で愛想を振りまいている王を横目で見ていた。


 カイザルク軍の虎の子である『蒼銀騎士団(セバリルナイツ)』と魔法部隊『青幻魔道師団』は王都に入場してから一直線に王城へと向かい、残りの一般兵たちは王都内を一周回って無事の帰還を国民に報告した後、城塞と各周辺都市と砦へと帰還を果たす。


 王と兵たち無事な帰還を祝福する一方で、国民たちは約二十日前に起こった未曾有の天変地異と、それによって起こった魔石を用いた道具類の不調――使用不可となったことに混乱していた。

 だが、火を起こす際に使っていた火の魔石が使えなくなっても、火打ち石を使えばいいだけのことであり、元より魔法に頼り過ぎない国作りを進めていたゼノンの政策が功を奏し、便利なものが何故か使えなくなった――程度の混乱で済んでいた。


                  ◇◆◇


「――ということは、この世界から神霊力(マナ)が無くなった……というわけですか?」


「我々が見た限り、そう判断せざるを得ない」


 王都ゼーベの王城。

 ゼノンたちが帰還後、すぐに王国運営の要である枢密院に召集が掛かり、王城の一室にてこの国を動かす首脳たちが集まっていた。

 重厚だが細密な彫刻が施されたテーブルを囲み、宰相、大臣、将軍三名、宮廷魔道師筆頭、大司教、統括軍師といった国を運営する中でも、各機関の最高責任者たちである。


 早馬により予定よりも幾分早い帰還が知らされ、世界中の空を覆いつくした厚い雲とそこに浮かび上がった不気味な紋様は只事ではなかった。そこへ無傷で帰還を果たした大軍勢。城を預かっていた者達も、一体何があったのか気にならないはずがなかった。


「扇動者レダ、異世界の黒龍、神霊力(マナ)の消失……俄かには信じられない、という心境ではあります。レダや魔族による集団幻覚という線は――?」


「あり得んだろう。我々だけならまだしも、エルフの女王や魔族の王も同様のことを体験したと言っていたそうだ。そして扇動者レダにも予想外のことが起きていたように、我々は感じた」


 質問をしたのは、カイザルクの若き宰相アロン=ソウ=モルデリク。

 答えたのは、カイザルクの将軍ユギル=ダグ=ウェルダム。

 

「――なるほど。ウェルダム将軍が仰るならば、間違いはないでしょう。幸い我が国は、国民の生活に対して魔法に依存していた部分がかなり少ないので、国民の生活には大きな影響はないでしょう。問題はむしろ――」


「軍、か」


 気の重そうな表情で息を吐いたユギルにアロンが頷く。


「マナが消滅したとなれば、恐らく魔術はおろか魔法も使えないでしょう……リテア魔道師?」


「はっはいっ!」


 アロンに声を掛けられて椅子を倒すような勢いで立ち上がったのは、見た目は十代そこそこだが実際も十七歳という若い魔道師だった。

 蒼地のローブに身を包み、頭には銀製のサークレット。いつもは被っている唾の広いとんがり帽子を、会議の場ゆえに壁に杖と一緒に掛けている。


「ま、魔法は確かに使えなくなっております……最上級から最下級の魔法まで、私とおじ――祖父エレドと共に試してみましたが、一切使えません……」


 本来は宮廷魔道師にして『青幻魔道師団』創設の立役者である大魔道師エレド=ドル=リテアが座るべき枢密院の椅子なのだが、老衰で三日に一度しか目覚めない祖父の代わりに若くして宮廷魔道師筆頭となった孫のローザ=ドル=リテアが代わり出席していた。


「なるほど……我が国における最高位の御二人がそう言われるのであれば、間違いなく魔法は使えないのでしょう。そうなると、我が軍の戦力低下は避けられないですね……」


 その言葉にローザはビクっと体を震わせて、顔を伏したまま机の下で手を何度も握ったり開いたりしていたが、やがて意を決したように顔を上げた。


「ま、まだ……魔法が失われたと決まったわけではありませんっ! 我々魔道師に時間を下さい! 必ずや魔法を再び使えるようにしてみせますっ!」


 必死な訴えだった。だが、それも無理はない。

 魔法の元は魔力であり霊子である。

 だが、それらを生み出す大元は神霊力(マナ)だ。

 それがこの世界から失われたとなれば、魔法や魔術といったものは当然使えなくなる。そうなれば、魔道師たちの存在意義が危うくなるのは当然といえるだろう。

 魔法、魔術が使えない魔道師に価値があるのか?

 それを問われないはずがないのだ。


「……」


 若き魔道師の悲痛な声に部屋は重苦しい空気に包まれた。

 そしてその場にいた全員の視線が部屋の最奥、テーブルの主席に座する国王を見た。


 ゼノンは黙したまま右肘をテーブルに突き、口元に手を添えてじっと物言わず目を開けたまま何か思考に耽っている様子で微動にしなかった。

 一同が固唾を呑んで見守る中、一向に物言わず微動だにしない王に誰も声を掛けられずにいたが、不意にユギルが険しい表情でギロリと鋭い視線を王に向けて注意深く見つめ始める。その雰囲気を察して、枢密院に集まりし国の重鎮たちは顔を見合わせ、やがて宰相であるアロンに視線が注がれる。

 全員の視線を受けたアロンは、ふぅーっと溜息をついて一度咳払いをすると、高らかに声を上げる。


「枢密院規定特例法の実施を宣告します。 賛同者は挙手を」


「……」


 全員が無言で一斉に手を上げ、一人訳が分からずローザが視線をキョロキョロと彷徨わせる。それを察して、隣に座っていた女性の将軍が小声で『大丈夫。エレド殿も迷わず手を上げられる場面よ』と伝えると、ローザも恐る恐る手を上げた。

 全ての人間が手を上げていることを確認したアロンが頷く。


「特例法は満場一致で採択されました。ユギル将軍、お願いします」


 指名を受けたユギルがさっと立ち上がり、部屋の隅から『王打許槌』という意味の文字が書かれた巨大な大槌を引っ張り出してくると、それを大きく掲げて精神を統一する。

 それに対応するように、テーブルの上の資料やティーセットを持って枢密院のメンバーたちが立ち上がり、テーブルから離れる。ローザも訳が分からないままそれに順じ、自分のティーカップを持って立ち上がった。


 そして精神統一を終えたユギルが、カっと目を開くと叫びながら大槌を振り下ろした。


「寝るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 渾身の力で振り下ろされた一撃は正確にテーブルの中央を捉え、テーブルを真ん中で叩き割り折れて跳ね上がったテーブルの端がゼノンの顔面に直撃してぶっ飛ばした。

 天井に跳ね上がったゼノンはそのまま天井でバウンドして、頭から折れたテーブルの上に落ち中央でヘシ折れて傾いているテーブルを滑り落ちて真ん中で止まった。


 あまりの衝撃にハンマーと着弾地点からは煙が出ており、それによってゼノンの尻だけが見えている。

 目の前で起きた信じられない展開にローザの目は点になっていた。

 周囲を見渡すと、他のメンバーたちは動揺した様子も無く手に持ったティーカップからお茶を啜っていた。


 しばらくすると、部屋の外から兵士の慌しい足音が聞こえて扉が叩かれる。


「衝撃音と揺れを感じた者がいたのですが、何かございましたかっ!」


 兵士の切羽詰った声に部屋の人間たちが顔を見合わせる。


「ひょっとして、この部屋に掛けられていた魔法も効果が薄くなっているのでは?」


 軍師の言葉に全員がそれだ!っと頷き、アロンが扉を僅かに開けて廊下に顔を出して一言二言何かを言うと、兵士は敬礼をして持ち場へと戻った。


「――お、おぉ? あれ、何で余がヘシ折れたテーブルの上に?」


「陛下、枢密院会議の途中でお眠りになっていたので、このアロン僭越ながら宰相の権限により枢密院規定特例法を実施させて頂きました」


「おーそうか、アロン大義!」


「恐縮であります」


 テーブルから身を起こしたゼノンは何事もなかったかのように体の埃を落として、目の前で大槌担いで眉間をピクピクさせているユギルを見ると、その背中をバシバシと叩く。


「ユギルも大義! でも魔法使えないのにテーブル壊したのは頂けんなぁ。余の勅命を持ってテーブルの修理を命ずる」


「むぐっ!?」


 いつもは魔法で直すテーブルを魔法が使えない事を話していたにも関わらず、いつもと同じように破壊してしまった事実に気づき、ゼノンの理不尽極まりない命令に対して反論できずに口篭る。

 そして首をゴキゴキと鳴らしたゼノンは、近くで呆然と自分を見上げているローザに気づくと一瞬不思議な顔をしたが、すぐにローザが誰だか悟って肩を叩く。


「おーエレド爺の孫娘が。一瞬、魔法の実験を爺が失敗して若くなって性別まで反転したのかと思ってワクワクしてしまったぞ」


「へ、へへへへ陛下っ!」


 あまりに奔放な物言いに困っていると、不意にゼノンが王として相応しい鋭い表情に変わる。


「今日は爺の代理だろ? こんなむさ苦しいところに来るとは災難だっただろうが、お前が今気に病んでることは大きな意味では事実だが、小さな意味では杞憂だ」


 突然真面目な話をされて、その差に戸惑っていると周囲にいる重鎮たちの表情も先ほどまでの様子とは打って変わって、この国に国事を預かる者達の顔になっていた。


「魔法は神霊力(マナ)がなければ使えない。そしてこの世界からマナは無くなっちまった。いや、正確には一瞬でほぼ全てが無くなって、今もなお無くなり続けている。まぁ、この違いに大した差はねぇーわな。結論を言えば余は今の状況から考えれば魔法はもうダメだと思っている。何か外部(・・)からでも新しい進展が起きなければ、この世界の魔法は潰えたと思ったほうがいいだろう」


 その言葉を聞いて、ローザの心は真っ暗な闇に突き落とされたような気分だった。

 カイザルクの王は『魔法は終ってしまった』と言っているのだ。だが、事実今の自分達は魔法を使えないただの人間に他ならないし、解決の糸口すら掴めていないため反論が出来なかった

 きっとこれから自分たち魔道師は冷遇され、いずれは国からも追放されるかもしれない。

 今まで魔法が使えたから敬われ、戦力として期待されて騎士と同等の待遇を受けてきたのだ。だからこそ、魔法が使えなくなった魔道師に価値が認められるはずがない。

 それに元よりこの王は『脱魔法依存』を訴えて、十年前に多くの魔道師を隣国に流出させたのだ。

 気落ちして青いローブを掴んで顔を伏せたローザに、ゼノンは話を続けた。


「そんで、お前ら魔道師にことだが……身分や給金は据え置きだ」


「……え? 今……なんと?」


 自分に都合のいい幻聴が聞こえたと思って、非礼な行為と分かっていたはずなのに、ローザは思わず王に対して聞き返してしまった。


「待遇を改めたり、給金を下げることはしない。騎士たちから不満の声が多少は出るだろうが――ユギル?」


「はっ。常日頃よりこういった事態に備えて、一兵卒に至るまで魔道師に対する考え方には一定の精神的教育を施しております。まったく出ないことはないと思いますが、対立化するほどのことはないと存します」


「うむ、大義。ローザよ、余を侮ってくれるな。お前の祖父エレドは偉大な魔道師だ。余は魔法だけではなく人が何かに依存し、それを失った時に恐ろしく脆くなることを知っている。ゆえに隣国フェザーリンが魔法を奨励して国を挙げて魔法に傾倒していく様を見て、もしそれを失った時のことを思うと恐ろしく思えたのだ」


 隣国フェザーリン

 魔法神イースを崇める魔法の国。

 魔法至上主義を唱え、元より魔法技術において他国の追随を許さない国だったが、ここ十年でそれにさらに磨きが掛かり実質的に騎士制度を廃して、軍備すら魔法に傾倒した国。


「ゆえに、それまではフェザーリンに置いていかれぬ様にと魔法技術の向上に躍起となっていた頭を冷やすべく。

余は十年前に『脱魔法依存』を宣言し、一時は騎士よりも上位にあった魔道師の地位と給金を同等に引き下げた。唐突だったこともあって、これによって矜持の高くなっていた魔道師はフェザーリンへと流れてしまったが、その中でお前の祖父エレドは余の考えに賛同して多くの魔道師を説得してこの国に残ってくれた」


 その話を聞いて、何故魔道師の地位を突然下げてしまい、隣国に優秀な魔道師を多く抱えて待遇良く迎えてくれる国があるにもかかわらず、そこへ行かなかった祖父への疑問が晴れた。


「余はエレドに感謝している。そしてエレドの説得で残ってくれ、今日この日までカイザルクの発展に貢献してくれた魔道師たちに感謝している。だから勘違いをしてくれるな、ローザ。余は強力な魔法が使えて、戦場で戦力になるから、お前たち魔道師を重用していたのではない」


 呆然と自分を見上げる若い魔道師を見下ろしながら、ゼノンは自分の正しい見識を述べる。


「余は魔道師の誇り高さを買っている。才気に溺れず勤勉に世の理に挑み、力に溺れず仲間の身を守る想いを買っているのだ。魔法が使えないのであれば、余がこの十年で築き挙げてきた聖剣工房の発展に協力してくれればいいし、文献や遺跡の解読調査に加わってくれればいい。魔法だって、もう二度と絶対使えないなんて保証もないんだからな。だから――」


 そこまで一気に言い終えると、ゼノンは部屋の中にいる全員の顔を見渡してから最後にローザに視線を戻すと大きく頷く。


「賢き者なら頭で勝負だ。うちの魔道師二万人は優秀だ、だろ?」


 年甲斐も無くウインクしてきた王に呆然としていたが、次第に自分の心配が杞憂だったことを理解して、その実感が湧いてきてローザの目尻から涙がこぼれた。


「は、はいっ陛下……っ」


 自国の若き魔道師の肩をポンポンと叩くと、ゼノンは部屋にいた全員の顔を再度見渡すと、その場にいた全員が頷く。それに対して満足そうに笑みを浮かべた。


「実際、我が国よりも状況が影響が深刻なのがフェザーリンなのは間違いないですからね。陛下の慧眼には恐れ入ります」


「だろ?」


「国民にはいつ公表されますか?」


「マナが消失したことによって生活や商売に支障をきたしている人間がどの程度いるかを調べろ。それが分かり次第、対策を立ててから公表する。今すぐ公表するのは混乱を招くが、ずっと隠しておく必要もない。事実は曲げずにありのままを伝えろ。そうだな……七日で何とかしろ」


「はっ」


「フェザーリンの現状を知りたい。まぁ、大体予想はつくんだが話の種にはなりそうだ。探らせろ」


「はっ」


「ローザ。エレド爺が起きたら件の黒龍について聞いてみてくれ。あと国民への公表と共に、魔導会議から聖剣工房に人を送ってもらうから、その人員の選別を済ませておいてくれ」


「は、はいっ!」


 矢継ぎ早に指示を飛ばすゼノンに重鎮たちが次々と与えられた役割に声を発する。


「よし、今は大体こんなもんだな。アロン、何かあるか?」


「いえ、ございません」


「よーし、余は娘たちが恋しいから後宮に戻る。後は任せた!」


 そして脱兎の如く部屋から出て行った王の後ろ姿を見つめ、ローザが困惑しているとその肩を枢密院メンバーの重鎮たちがポンと叩いて部屋から出て行った。


 ――破天荒だが抜け目が無く、馬鹿だが愚かではない。


 祖父が言っていた王に対する評価を思い出し、ローザは自分の頭をポコポコと叩くと気を引き締めて部屋を退出した。


お読みいただき、ありがとうございます。

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