導入部1―この世界の成り立ち―
・各話基本的に3000字くらいで文量をユルく書いていきます。
・更新は本編優先なので不定期です。
・本編で煮詰まったり、息抜きしたい時にちょこちょこっと書けるものが欲しくて書いています。
その世界――イスペリアルクーンは剣と魔法によって繁栄する世界だった。
剣聖神ラオと魔法神イースによって創造された世界。
剣聖神ラオの祝福を受けし鍛治師が剣を打てば、剣は祝福を受けて聖剣となる。
魔法神イースによって選ばれし者は、魔力を行使して秘儀と奇跡を実現できる。
それらの源となるのが純粋なる奇跡の源が――神霊力であり、強力すぎるマナを世界に住まう者達も扱える存在へと変換されたものが霊子と魔力だった。
マナは世界全体に満ちており、その定量は定まっているのだが、霊子や魔力へと変換されたものが行使されると、放出した霊子と魔力は大気と混ざり、やがて大地に吸収され、またマナへと変換されて世界に戻るという循環を繰り返すこととなる。
イスペリアルクーンは巨大な一つの大陸から成り立つ世界で、外海は現在とある事情から隔絶されており、行き来できない状況となっている。
それでも広大な大陸では様々な種族が生活を営み、大きな争いごとも無く平和に繁栄していた――そんな折にそれは突如として起きた。
イスペリアルクーンにおいて最初に起きた大規模な戦いは、辺境に住む蛮族たちの暴挙としか言い様の無い突然の侵略によって始まった。
巨人族を味方につけた蛮族は、北方の極寒の地より世界を蹂躙した。大陸の約半分を瞬く間に自らの領地とした蛮族たちは、更なる版図を求めて南へ南へと進軍していった。
今までに種族間規模で領地を脅かすような争いを経験していなかった各種族たちは、すぐにはこの暴力の波に対抗することが出来ず、破竹の勢いで進軍する蛮族を止められなかった。
他種族に比べ知性の低い蛮族は、話し合いなどには一切応じず、領地を奪うとそこに住まう他種族を次々と奴隷にして、自分たちが住んでいた極寒の地へと移動させ過酷な労働を強いた。
この第一次蛮族侵略によって滅びた国は六つ、死亡・行方不明になった者は数百万人に上ると言われている。
この逼迫した事態に対して、侵略を受ける種族たちは同盟軍を結成し、蛮族の侵略に対し阻止鎮圧を図ることにした。
そして同盟軍は大きく分けて、大陸で最も繁栄している三種族を中心とした軍となった。
大陸中央と侵略された北方に領地を持っていた人間族。
彼らは特に秀でた才覚や能力がある者は少なかったが、武芸・魔法・商工どの分野に対しても柔軟に順応し、その圧倒的な人口から三軍の中心を担い、また幾人かの英雄や英傑を輩出して大いに活躍した。
次に大陸南の大森林地帯に住まうエルフ族。
身体能力では俊敏性に優れ、腕力は強くないものの大地の加護を受けることによって、他種族に比べても負けない力を持っていた。また、弓術と魔法に対し造詣が深く精霊魔法に対しては他種族の追従を許さないほどの研究心を持ち、大地に深い信仰を持っていた。独自の通信手段と優秀な騎馬持つエルフたちは、連絡役の他に射手や獣使い兼精霊術師として活躍した。
最後に大陸に表立った国家を持たず、辺境の廃城や大陸各所に点在する遺跡や洞窟を住処とする魔族。
一括りに魔族といっても形態も能力も千差万別であり、魔族という概念は持っているが、知識階級が上位になるとそれぞれ更に細かく種族が分裂している。またそれぞれが持つ能力に加えて、上位種は暗黒魔法の使い手が多く、血族の眷属や中級階級以下の魔物を使役する。彼らは蛮族による侵略行為そのものには静観していたのだが、彼らにとって『蛮族よりも人間たちの方が面白いので全滅されては困る』という理由で参戦をした。彼らはその個体として持つ絶大な力ときまぐれな性質から、遊撃隊として真価を発揮した。
後に英雄三軍と言われることとなる軍勢は、三者で力を合わせ十年に及ぶ戦争の末に、紆余曲折を経て蛮族のほとんどを倒し、わずかに残った者も再び北方の大地へと押し返した。
その後の戦後処理の過程で、蛮族を扇動した存在が首謀者として浮かび上がった。
便宜上その者の名は、『戦争を扇動せし者』という意味を持つ名で『扇動者レダ』と呼ばれた。
レダは史上最高の死霊術士であり、死んだ蛮族と巨人――そして同盟軍の死者を何度と無く蘇らせ戦いを長期化させた。更に召喚術士としての能力にも優れ、大局を左右する戦に強力な魔獣やおぞましい怪物を呼び出し、同盟軍を大いに苦しめた。
だが、遂に最後まで同盟軍の前に姿を現すことのなかったが故に、その存在が何者であったかはようとして知れず同盟軍の中軸を担った者達は、得も言われぬ不気味さを抱きながらの勝利となったのだった。
そして、一つだけ分かった事実として、レダが側近としてダークエルフを幾人か置いていた事が判明した。その事からエルフ族は人間を筆頭とした他種族からの糾弾を受け、その矛先を変えるためにダークエルフとは絶縁するという布告を出した。
それ以降、ダークエルフたちはどの種族からも爪弾きにされ、時代を追うにつれて認識は歪んで捩れ、やがて迫害の対象とされていった。
あの戦いを経験したことにより、イスペリアルクーンに住まう者達は争いの恐ろしさを知ると同時に、生物が根源的に持つ闘争本能が呼び覚まされ、高潔さと邪悪さを併せ持つようになっていく。
その過程で、大陸に住まう者達は『戦い』という行為そのものに魅了され、それぞれに芽生えた闘争本能と、そのための技術革新を開始し、その目覚しい発展で数多くの武具・魔法・技巧技術を作り編み出していった。
そして、固い結束で結ばれていたはずの同盟種族は、それぞれに芽生えた理想と野心――そして戦いとその勝利によって齎される喜びを渇望し、それを満たしてくれる指導者の下で愚かにも戦争を始めた。
幾つもの戦いと経て、戦うことについて成長していった各種族は、あの戦い以前には持ち合わせていなかった様々な邪な感情と複雑な思惑を持ち、現在へと至る。
◇◆◇
時は新暦五百年。
あの伝説の戦いから五百年の時を経て――遂に人間、エルフ、魔族の三軍は長年の決着をつけるべく、運命の戦場へと集っていた。
彼らは五百年の間に幾度も戦争を行い、各種族間には憎しみや怒りもそれなりに育っていた。だが、争うことは各種族間の総意ではなく、あくまで国家単位で好戦的な者たちが行っているのもまた事実だった。
ともあれ長きに渡る戦いに決着をつけるために集った三軍は、それぞれが持ち得る最大の武力を持って集い、神さえもさじを投げる愚かさで殺し合いをしようとしている。
その開戦の瞬間を、あの五百年前の戦いの首謀者――扇動者レダが待ち望んでいることを知らずに――。
ご意見ご感想はお気軽にお寄せください。
とても励みになります。
ありがとうございました。