*第5話*
「大学生にもなって外でキャッチボールかぁ?」
光がちょっと馬鹿にしたように見る。
私はむっとして
「光みたいにインドアすぎる人には外の空気はつらいねっ?」
とわざとらしく言ってやった。
光は芸術専門の大学に通っている、美術家。
得意単元は絵画で、工作も好き。
小さい頃から図工の成績『だけ』はよかった。
「わざとらしくていらっとするけど、まぁスルーしてやるよ。
んで?そちらの、イケメンは誰?」
玲君の方を向いて、光は首を傾げる。
玲君にイケメンと言っている光だけど
高校のときかなりのモテ具合で、そのときにも
私がよく一緒にいたから溝ネコ!とファンクラブの人たちに言われたんだ。
アレは悲惨だったなぁ・・・ってそんな事は今はいいとして・・・
「新羅玲君。同じ大学の同じクラスだよ」
「新羅玲です、よろしくね?」
にっこり甘く笑う玲君はいつになくかっこよかった。
かずはその笑顔を見てうきゃきゃと幼稚園児のようにはしゃいでいた。
「俺は風間光!よろしくー」
こっちもこっちで元気よく笑っていた。
光は玲君とは真反対の黒髪ロングの髪を後ろにポニーテイルで結んでいる。
香りはいつもフルーツのさわやかな香り。
「あ・・・今思ったけど、もしかして、玲と美唯って付き合ってんのか?」
光の意味不明な言葉に私はあたふたとしながら
「ち、ちがうよ!あくまで友達!」
「ふーん、そっか。なーんだ、おちょくるネタができるとおもったのに」
・・・こいつ。私のあたふたを返しなさい!
外で適当に雑談して光は家に入っていった。
「私達ももう家はいろっか」
「そうだね」
「ふぁ・・・僕眠いよ・・・」
私達3人も家にはいっていった。
「和羽くん寝るの早いね」
和は家に入るなり2秒ほどで睡魔に秒殺された。
「和羽は良く寝る子なんです。けど、大きくならないんですよね」
苦笑いをしながら言うを、玲君は優しく笑って
「きっと、大人になったらかっこいい子になるよ。
なんてったってお姉ちゃんがこんなに可愛いんだからね」
と甘い台詞をはいた。
「あ、あまいです!言葉が甘すぎます!」
「そうかな?俺は正論を述べたんだけどな・・・。ま、いっか。」
「もう何も言いませんー!」
「ごめんごめん、そんなに拗ねないで」
「その台詞最近毎日聞いてます!」
「唯が拗ねるからじゃないかな?」
「・・・玲君、夕飯私の家で食べていきませんか?」
無理やり話をそらして、夕飯を誘った。
「いいの?」
「はい、どうせ二人なので」
「それじゃお言葉に甘えて。あ、でも親御さんは?」
「父と母はいません。父は私が中1のときに出て行きました。
母は私が中2のときになくなりました。私達、ほとんど二人暮らしなんです」
そのせいで、和は父母ともに顔も名前も知らない。
その存在さえ記憶にない。
「そっか・・・ごめんね、またいらんこときいちゃって」
「いいんですよ。玲君はいつもそう穏やかに受け止めてくれますから」
「俺は信頼されてるのかな?」
「はい、とっても」
今信頼できるのは、玲君だけと言っても過言ではない。
周りに人はいない。幼馴染はいる。けど、こんな事はなせなかった。
近所の人には「父が海外に長期出張」となっている。
母の死は皆知ってる。母は町内でも綺麗で評判だった。
「晩御飯、バジルパスタなですけど、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。俺トマト意外なら食べれるよ?」
「トマト、嫌いなんですか?」
「嫌い・・・まぁそうだけど、たべるとアレルギー症状おこしちゃうんだよね」
「そりゃ食べないほうがいいですね・・・。それじゃぁ晩御飯作るので
くつろいでください。あ、和邪魔なら言ってください。部屋に運びますから。」
和は玲君の膝枕で寝ていた。
なんて大胆な弟なんだと私ははじめて思った。
「大丈夫だよ。可愛い弟君なんだから。」
「そうですか、弟も喜びますよ」
はじめてきた人に和がなつくのは久しぶりに見た。
和は人見知りっていうわけじゃないけど
人になつくという事はなかった。
どちらかというと親しくなるのを怖がっているように私は見えていた。
「ね、唯」
「なんですか?」
「その、敬語。やめない?」
敬語・・・あ、そうだ。私ずっと敬語だったんだ。
でも、タメってなれないな・・・
「タメ・・・ですか?」
「うん、そう。それじゃぁ今から敬語使ったらペナルティーね。後君ずけも」
「え?!そ、そんな・・・!わ、わかりま・・・わかった」
難しい。タメから敬語は簡単でも敬語からタメは難しい。
どうしても「です」口調になってしまう。
「そうだな。ペナルティーはそのたびそのたび俺に甘い台詞をいってもらおっかな」
「ひぃっ」
「がんばってね」
意地悪に笑う玲く・・・玲はなにかちょっと不気味だった。
やっぱり玲、って意地悪だよね・・・
「もっと甘いはずだったのにな・・・」
なんとなくつぶやいた言葉を玲は拾っていて
「そんなに俺って甘いかな?」
とにっこり甘く笑った。チョコレートようにあまい。
けどあまったるいってわけじゃなくて・・・
「唯、パスタ沸騰してる」
「え?!あ、うわぁっ!!!あっちぃっ」
沸騰した水がはねて顔に当たった。
「あははっ、考え出すとやっぱり一点を見つめちゃうんだね」
「癖っていった・・・でしょっ」
「はいはい、わかってるよ。それより麺、のびちゃうよ」
「そ、そう・・・だね。」
どきまぎしすぎの会話にか、わたしの言動にか
玲はずっと笑っていた。
やっぱり君の笑顔、甘いです。