*第49話*
私は、インターホンの音に、初めて手を止めた。
「もう30分たったんだ・・・?」
はやいなぁ・・・。
「はーい、今行くね」
インターホンごしの玲に呼びかけて、楽譜類を大学のかばんにいれて玄関に向かう。
たぶん玲も、大学の用意をしてきてると思うから、そのままいけばいいだろう。
幸い、小学校と駅は同じ方向だからね?
「お待たせ玲ー」
ドアを開けながら、言うと
「おはよう」
と甘い笑顔で返ってきた。
私はいきなり顔を真っ赤にしただろう。
「ん?どうした?」
「・・・ん?どうした?じゃないよー・・・。朝からそんな笑顔を振りまかないでよね?」
「どうしてよ?」
意味ありのどうしてよ?を発する玲。
絶対わかってるくせに・・・!
「ふんっ・・・。絶対分かってるでしょ?・・・そ、そういうことなの」
玲を見ると、玲はクスクスと笑って
「そんなに俺の笑顔に惚れてるの?」
といわれた。
「・・・惚れてる・・・というか、・・・うん、惚れてる・・・」
認めるとまた笑われて、私は弁解を始める。
「あ、ちがう、あのね?!笑顔だけじゃないよ?!玲の全部が大好きだからね?!」
必死に弁解すると、玲は「はいはい。わかってる」と言って、私の頭をポンポンと叩く。
「むー・・・」
「ふくれっつらもかわいいね」
相変わらず甘い台詞を尋常なく吐く玲を、少しだけ恨めしく思った私だった。
******
「ほんとごめんね?参観なんかに付き合わせちゃって・・・」
和の学校に向かう途中、私は改めて玲に謝る。
ほんと・・・悪い事しちゃったなぁ・・・
「大丈夫だよ。どうせ朝っぱらからやることもないし、こんな早くから唯と和に会えるなんて光栄だよ」
そういって微笑む玲。
もう・・・玲ってば、優しいんだから・・・
ムリとかしてたらどうしよう・・・?
「ムリ、してない・・・?」
「ないない。俺は自分の意思でここまできてるんだから。むりするぐらいなら来ないよ」
そういわれ、ホッとする反面、心の広い・・・というのだろうか。
そんな玲を尊敬した。
和の学校、園田小学校までは歩いて30分もかかる。
毎日この距離を歩くのは、とてもきついだろうなぁと思いながらも
私達も30分かけて、園田小に着いた。
校門前は、参観にきた__夫婦の方々がたくさんいて、にぎわっていた。
・・・そして、私は毎回、この場になじめずに俯くんだ・・・。
「唯?」
玲が心配して、私の顔を覗きこむ。
「ん・・・なんでもないよ。行こう」
玲の手をギュッと握って、和の教室まで下を向いて歩く。
・・・どうしよう。毎回のことなのに・・・どうしてか、また、胸が痛む。
・・・また、和はやな思いをするんだ・・・。
そんな苦しさに、立ち止まる私。
・・・なんて、自分勝手な・・・。
「唯」
「・・・なに・・・?」
玲がいつもの、優しく温かい声で私を呼んだ。
「ねぇ、唯。いま、この場だけさ、俺が和の‘お父さん‘役、してもいいかな?」
玲の申し出に、私はバッと振り向く。
・・・と、すぐに眩暈が私を襲う。
「おっと、大丈夫?急な動きは厳禁って、海莉さん言ってたでしょ」
「ん・・・ごめん・・・。驚いて・・・」
「眩暈が治まったら言って?話の続き、まだ時間ありそうだからする」
そういわれ、1分ぐらい玲に掴まったまま、目を閉じて下を向いていると、眩暈は治まった。
「治まった・・・」
「よし。それじゃぁ、さっきのこと。・・・唯は、ここにいる夫婦達がいやだったんだよね?」
・・・完全に、心読まれてるじゃない・・・私・・・。
「・・・うん・・・」
「それは、自分がいやだった?それとも和羽がいやな思いをするのがいやだった?」
そう聞かれ、私は後者のほうだと伝えると、玲は「やっぱり」と言った。
「やっぱり、って・・・」
「唯は大体コトが和羽優先だからねー?ま、だからさ。ここだけ、俺が和の父親代わりとして
振舞ってみようかなって。そしたら、少しでも和羽のやな思いが軽減されるかな・・・なんて。
どうかな?唯」
玲の提案に、私は嬉しくなった。
「・・・うんっ。ありがとうっ」
やっぱり・・・玲は優しいね?
和のことも、私の事も考えてくれるのだから。
本当に、玲が和の父親だったら・・・
私達はどれだけ幸せなんだろう?




