*第39話*
海莉が二階に上がって行ったあと、リビングには誰も居ないので
庭に繋がる窓のカーテンを閉めて、さっさと新しい服に着替えた。
(昨日、パジャマに着替えず寝てしまって昨日の格好のままだった)
カーテンを開けると、いまだに玲の説教(?)は続いており
時々望幸がヘラッとすると玲が物凄い形相で睨んだりと、結構大変そうだった。
玲に怒られちゃいそうだけど、そんな二人を私は少しほほえましいと思う。
前に、玲の家にお邪魔したときに玲が言っていた。
『・・・俺は、きっと冷たい人間になっちゃったんだろうね?』
玲は温かいと伝えたら、いつもの笑顔で笑ってくれたけど
このとき私が言っていなくても、きっといつか自分で気づいていたと思う。
だってね?人を説教できるなんて、人情厚くて、心に体温がある人ぐらいでしょう?
だから、あの空間がとってもほほえましいの。
******
1時間ほど、本を読んだり何なりとしていると、電話が鳴った。
見ると、『園田小』と表示されていた。
「あぁ!!電話するの忘れてた!!!」
急いで子機をとると、「園田小の砂川です」と若い男の先生の声がすぐ聞こえた。
「おはようございますっ」
『おはようございます。進藤海莉君のお姉さんですか?』
「っ・・・」
思わぬところで、和の・・・本名を出され、言葉につまる私。
『あっ・・・失礼しました・・・っ』
失敗と言うか、ほかの先生に言われていたのを忘れて、そのまま言ってしまったんだろう。
私はスーっと息を少し吸って、ちゃんと声を発した。
「海莉がいつもお世話になっています」
・・・少しの、先生へのフォロー・・・ということで。
『あ・・・。あ、えっとですね、海莉君来ていないのですが・・・お休みでしょうか?』
少し焦り気味な先生。
私は落ち着いた声をしっかり出す。
「はい。まだ微熱がありまして・・・。はい、すみません。よろしくお願いいたします」
通話が終わり子機を戻すと、私はへたりとその場に座り込む。
いつのまにか庭から帰ってきていた玲が、ポンポンと優しく私の頭に手を置く。
「よくがんばったね、唯」
その言葉に、また力がへなへなと抜ける私。
タイミングがいいのか悪いのか、海莉も二階からおりてきた。
「何?この状況」
キョトンとする海莉。
「なぁ、海莉。美唯もさ、徐々に前にすすんでんねやな」
腕組しながら、素の物言いで海莉に問いかける望幸。
「ちゃんと、和羽のこと海莉って呼べたで。小さい声やないし、自信なかったんもない。
堂々と、学校の先生に言いよったわ。めっちゃたくましいな」
「望幸・・・私、そんなのじゃないよ?」
「まぁ、今へたっとることに変わりないけどな。でも、前には進んだんやろ」
望幸強い眼差しに、私は目をそらす。
そんな微妙なやり取りにか、海莉が細い息を吐く。
「望幸が言ってるのが正しいんだったら、美唯はちゃんと前に進んでる。
記憶がなんだってんだ。堂々と構えとけ。誰も笑ったりしねぇから」
呆れ交じりの笑顔を向ける海莉。
「そうだよ、唯。周りがどうであれ、一歩踏み出せば唯のものだから」
いつもの優しく甘い笑顔を向ける玲。
・・・これで前に進めた、まっすぐ向けた。




