*第30話*
30分ほどして、インターホンがなった。
玄関まで行くと、いつもと変わらない優しい笑顔をした玲がいる。
「おはよう」
「おはよう、ごめんね、朝から呼んでしまって」
「いいよ、唯の顔、早く見られるなら俺は何処へだって行くからね?」
そんな冗談のような冗談じゃないようなあいまいな事をいいながら
玲はリビングに来た。「おはようございます」と海莉に頭を下げて
自分も地べたに座った。私もその隣に座る。
「・・・相変わらず綺麗な顔立ちしてるな、お前」
「そうですか?ありがとうございます」
ニコリと笑う玲。・・・私は海莉も綺麗な顔立ちしてると思うけどなぁ
「はぁ。・・・いきなりで悪いんだけど、美唯、玲。
今から俺は少し重い話をする。__記憶の話なんだけどな?」
その言葉に玲は少し反応する。
「記憶の、話?」
「・・・あぁ。美唯は一度、一部の記憶をなくしてるんだ。
・・・本人はそのなくした一部を知らないんだがな?」
「そうなのか?」
「実は、ね?」
「・・・そっか」
「そのなくした部分を俺は今から話す。・・・美唯。この一部が分かったからって
何かが変わるわけじゃねーし、何か抱えなければならない事もない。
ただ、そうだったのかって素直に受け取って適当に胸の奥底でも何処でもいいけど
その辺で転がしときゃいい。それが分かったなら戻るのを待つしかないんだからな。
玲は、こいつがそういうので病み始める可能性大だから、しっかり止めてやって?
ほんと、恐ろしい事にこいつはストレスが溜まるとえらい事になるからな」
ニシシと子供のように笑った海莉。・・・それでも少し硬い気がするのは私だけ?
「大丈夫だよ、海ちゃん。」
「大丈夫です」
しっかり私は海莉に向き合う事を決心する。
・・・大丈夫、私は強いらしいから。海莉、あなたの言葉を信じるよ?
「__美唯がなくした一部の記憶。正確には変わってしまった記憶」
「え・・・?」
変わって・・・しまった?
「・・・美唯は自分に関わった人物の名前をすべてすれ違わせてんだ。
・・・例、といっちゃぁおかしいが・・・。俺の名前は、和羽だ。」
「え?!」
玲がすっとんきょうな声をあげる。
私は目を見開いて固まっていた。
海・・・ちゃんは、無視して話し続ける。
「和羽の名前は海莉。・・・臨夢の名前は光。光の名前は臨夢。
こういう記憶の変化の仕方はおかしい。と言うよりか、初めてだった。
何年後からわからねーが、適当に直るだろって俺以外の医者は言ってんだけどさ」
・・・海ちゃんは、和・・・?
臨夢は光・・・?
「れ・・・い・・・」
「唯・・・。落ち着いて___?」
「落ち着いてって・・・これをどうやって落ち着けって言うの・・・?」
「海莉さんも言ってくれただろ?適当に転がしといていいって」
「ころがしとけって・・・?!こんなことを?!なんで、なんで?!
意味わかんない!なに、これ?私だけそんな変な事になってたの?!
わかんない・・・!どういうことか分からない!!!」
いつのまにか過去吸になる私。
「落ち着け美唯!!」
「ハァッ・・・ハァッ・・・ど、やって、、、おちつけっって・・・ハァッ・・・!」
「玲!どっかに紙袋ねーか?!」
「紙袋ですか?!あ、えっと・・・」
「・・・玲、兄ちゃん・・・。紙袋、なら、台所にあるよ・・・」
「和羽?!わ、わかった」
みんなが何か急いでいる。私は呼吸が苦しい。
あぁ・・・頭が狂ってしまいそうだ。
どうしたらいいんだろう・・・。
「海莉さん!紙袋!」
「おし、美唯!落ち着け!落ち着いて、深呼吸しろ!」
「ハァッ・・・・スーッ・・・・ハァッー・・・・」
少し深呼吸を繰り返せば私の過呼吸は止まる。
そして、玲にギュッ....と抱きしめられる。
「・・・唯、大丈夫だよ。名前がすれ違ってたからなに?って話だよ?
今のままで大丈夫だよ、皆いいよって言うから。大丈夫、唯は変になってない。」
「玲に言う通り、お前は何もかわっちゃいねー。ただたんにお前の脳が
くるくる回ってアホな解釈しやがっただけだ。って、え?!俺なんか泣かすような事したか!?」
海ちゃんはすごく驚く。
そして、私はいつの間にか自分が泣いていたことに気付く。
「・・・このままでいいの?」
「俺はいいと思うよ?」
「別にかまわねー。病院でも海莉って名前で馴染んでるしな」
「俺、も。大丈夫・・・」
和もニコリと笑う。
「・・・ごめんなさい。___ありがとう」
皆笑った。私の言葉でパッと笑顔になり
空気が温かくなった気がした。
ね、海莉。私、こんな性格だから、この事を心の奥底とかに
転がしとく事なんか、当分出来ないと思うの。
・・・けどね、絶対病んだりしないよ?
もう、自分の体を壊して、みんなに迷惑なんて掛けたくないから。
わかったよ?私はもう一人じゃないって。
記憶があってもなくても・・・
私も和も一人じゃないって。




