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少年よ、○○を抱け ~風木和真の場合~  作者: 大山
第一話 人選は的確に
9/22

露出派? 着衣派?

 服越しに香るアルエの体臭に、えもいわれぬ心地良さを感じて目を細めた和真は、自分の身体にも学ランではない服の質感があることを知った。

(置いてあった服か。ってことは、身体の泡を落とした後で、着せられたんだろうな。元々見られてはいたが……なんか恥)

 まるで赤ん坊ではないか。

 そんな自分を隠すように、更にアルエの谷間へ顔を押し付けると、乾きかけの頭がそっと撫でられていく。

 目だけを上にやれば、同い年ぐらいの容姿に母性を宿した瞳が、和真のことを優しく見つめていた。

 タオルから解放された黄みがかった茶髪が、柔らかな波を描いて流れていれば、なおさらに。

(母性……って、そっちにもあんまり、いい思い出はないんだが)

 脳裏に過ぎる一家の大黒柱――を日々揺さぶる、一家の鬼将軍の姿。

 一応、それなりに子として守られてきた記憶はあるものの、その守り方たるや、小熊を守る母熊の気性そのもの。

 守られているはずなのに、自分の方がうっかりで始末されそうな気配がひしひし漂っていた。

 とはいえ、アルエにあるのは優しさだけに見えたため、知らず知らず調子に乗ってきた和真は、倒れた拍子についた左手で、彼女の胸を僅かに揉んだ。

 するとアルエは少しだけ目を見張り、瞳を潤ませては微笑みを深めていく。

 だがそれは、母性に留まらない艶めきをアルエにもたらすもの。

 それに惑わされる形で喉を鳴らした和真は、肌蹴たままのブラウスから覗く、白い曲線を目に留めると、果実を貪るように口を開いて食もうとし。


「姫!」

「うおっ!?」


 背後からの怒声に驚いた和真が動きを止めたなら、アロマがブラウスを脱ぎ脱ぎ、肩紐のない、レオタードを髣髴とさせる下着のカップを、上からぺろんと捲って見せ付けてきた。

 左右の内、手跡のついた左側の胸を堂々と揃えた手で示しながら。

「触るのでしたらまず、私からにして下さいませ! アルエばかりそんな、優しくなんて酷いですわ!」

「なっ、いきなり何言ってんだ、お前……?」

 正気とは思えない訴えを受け、アルエに後頭部を預ける格好でアロマに向き直った和真は、赤みがかった茶髪の毛先で見え隠れする淡い先端をチラ見しつつ、涙目になっている青い瞳へ眉根を寄せた。

 のぼせが取れないせいで、男の本能に準じてしまう和真に対し、アロマが四つん這いで迫ってくる。

 和真の胸で交差する、アルエの腕の前まで覆い被さったアロマは、ぐっと顔を近づけると、今にもキスしてしまいそうな距離で言った。

「お願いします、姫。湯浴みのお世話が終わってしまった今、次に姫にお会いできるのは、明日の湯浴みの時。……それなのに私の胸にあるのは、姫に慈しんで頂いた高鳴りではなく、錯乱した手に乱暴された痛みだけなのです。ですからどうか、もう一度、私に触れて、愛して下さいませ」

「あ、愛?」

 思わぬ単語に、和真の目がぎょっと剥かれてしまう。

 錯乱していた事については弁明の余地もないが、だからといって、それ以前に触ってしまったのは、単なる事故(故意含む)であって愛からではない。

 だが――。

「姫……私にも、どうかお情けを」

「お、お情けって……どう考えても可笑しいだろ、それ。普通、男で断る奴なんていねぇし」

 ぽろり、本音が和真の口から零れたなら、ぱっと顔を明るくさせたアロマが「では!」と、期待に満ち満ちた目を向けてきた。

 何がそんなに嬉しいのか、和真にはさっぱり理解できないものの、普通は無条件で触れないところを、望まれて触れるのは、色々とおいしい気がした。

(けど愛って……どうすりゃいいんだ? さっきみたいにしたらいいのか?)

 迷いながらも下向きになっているアロマの胸へ、手を伸ばしてみる和真。

 しかし、アルエの胸を直に触っていたはずの左手ともども、腕が異様に重くなっているのを知っては、眉毛が怪訝に顰められていく。

「あ、れ? 腕が、なんかすげー、重くなってんだけど」

 するとこれをどう受け取ったのか、一瞬表情を曇らせたアロマ、続けざまに不敵な笑みを浮かべてきた。

「!」

 女難の経験がそうさせたのだろう。

 途端に、どことは言わないが、きゅっと縮む思いを抱いた和真は、アロマから遠ざかるように足を掻いていく。

「ひゃっ、姫、くすぐったいですわ」

 しかし、どれだけ後ろに進もうとしても、アルエの胸に頭が埋まるだけ。

 乗じてアロマの笑みが黒みを帯びたものになっていけば、ブラウスの中で胸を肌蹴させた姿も、別のものに見えてきた。

 たとえば、そう、神話等によくある、上半身は女の身体、下半身はヤバげな感じの――

「姫……」

「な、何だ!?」

 想像を逞しくしてしまったのが間違いか、静かに呼ばれただけでビクついた和真から、引っくり返った返事が出てきた。

 今にも涙ぐみそうなそれへ、アロマは少しだけ怪訝な顔をしたものの、再度微笑むと、境界線だと思われたアルエの腕をあっさり越えて、自身の胸を惜しげもなく和真の前に突きつけた。

「腕が動かないのでしたら、姫のお口で」

「……は」

(はい……?)

 幻聴か? それともそれに近い何かか?

 今し方耳にした言葉が信じられず、正気を疑うような目でアロマを見上げれば、まろやかな房の間に嫣然とした表情を浮かべた彼女は、ほんのり頬を染めて言った。

「姫のお口で私を慰めて下さいませ」

(ちょっ、おまっ!? そ、それって女が言って良い台詞か?)

 経験なし、発想のレパートリーにしても少ない和真だが、アロマの台詞は確実に別の場面を連想させてきた。


 側仕えの騎士に褒美を強請られ、下が駄目なら上で、と譲歩されて本気で悩む、真面目と馬鹿が紙一重の姫君――

 もしくは。

 邪悪な魔法使いに攫われ、散々嬲られた挙句、これが出来たら解放する、という絶対嘘だろお前的な提案にすがる姫君――

 みたいな。


(って、どっちも姫の立場ないだろ、それ! くそっ、何で巫女じゃなくて、姫って事になってんだよ、俺! 巫女だったらまだ……って、全然変わんねぇし! つーか、逆にヤベェ!!)

 一度暴走を始めた思考は、ちょっとした単語に反応して、先程とは別の場面を和真に連想させる。

 ベースは先程と大して変わらないものの、対峙する相手が人型以外の異形ばかりとは何事か。

(しかも巫女装束とか、和服は駄目だ! ツボ過ぎる!)

 女が苦手なのであって、決して嫌いではない和真、実は和服女性にグッとくるタイプであった。

 洋服姿の女に絶望し続けた反動で、古き良き時代の大和撫子に、多大な幻想を抱き過ぎた結果だ。


 そしてその結果は今、最悪の形で現れてしまう。


「……あら?」

 最初にソレに気づいたのは、和真の唇に胸を近づけようとして、更に身体の距離を縮めてきたアロマ。

 アルエの両腿に手を置いていた彼女は、少しだけ身を起こすと、探る視線を和真の身体に這わせて下降させていく。

 と。

「あ……ふふ」

 何かに目を留めては、嬉しそうな顔を上げ、再び和真の顔へ裸の胸を近接させてきた。

 それと同時に、意識したと思しき動きでくゆる腰が、アロマの察知した異変を和真に突いて知らせてくる。

(げっ、マジかよ。さっきまでは確かにきゅってなってたろ? 妄想でこれって……)

 迫られる状況と、柔らかく大きめな衣服が、ソレに対する和真自身の察知を遅らせていたようだ。

 挑発的な動きをしていても、口に出すことは憚られるらしく、薄っすら羞恥に頬を染めたアロマが、黒い部分のない、可愛らしい笑顔をした。

 理解に苦しむところではあるが、どうやら一向に触れてくれない和真が、それでも自分に反応していると感じ、喜んでいるらしい。

 そんないじらしいアロマを前にして、不意に和真の心臓がドキッと高鳴った。

(け、けどよ、コイツの動作、可笑しくね? 初対面の時は羞恥の塊みたいだったくせして……ああでも、夢なら何でもありか)

 後ろのアルエにしてみても、つっこみどころは多々あるが、全て夢で片付ければ納得がいく。

 でなければ、この状況、この体勢は色々と無理があるだろう。

 ――とはいえ。

 初対面から過ごしてきた時間は、決して長くはないのに、ここまで鮮やかな表情をしてくれるアロマ。

 そして、浴場での扱いを忘れたように、今も和真を後ろから支え抱き続けているアルエ。

 逃避しかけた目の前の課題を見つめ直した和真は、緊張に粘つく喉をごくっと鳴らした。

(今までの俺の経験からいって――っつっても、こんな状況は皆無だったが、とりあえずこれは罠だ。後ろの感触が許されるのも、目の前の膨らみが曝け出されているのも、俺が触るまで。触れた途端に変態呼ばわりされて、二人がかりでのぼせた身体をボコられるのは確実だ。確実なんだ。絶対なんだよ!――いやしかし)


 和真の目が見つめるのは、自分の手形がついたままの、痛々しいアロマの左胸。


(……どの道、ボコられても仕方ないことしてんだよな、俺。だったらいっそ、罠に掛かってもいいか。どうせこれは、とびっきりの悪夢なんだから)

 思うが早いか、唇を近づければ、「あっ」とアロマの声が小さく零れる。

 照準から外れた尖りが口周りをくすぐるものの、和真が辿るのは、あくまで痛みを与えたと視認できる手形の範囲内。

「姫、舐めて、んひゃっ、他も、やっ、違っ」

 要望通り舌を使えば滑らかな肌が揺れ逃げるものの、返ってくる場所が手形の外なら、頬で受けて逸らしていく。

「アロマばかりズルいですわ。私だって、アロマと同じですのに」

 すると頭上から聞こえる、アルエのいじけ声。

 視線だけを上向かせれば、そこには二つの同じ顔が、和真へ潤んだ瞳を向けており。

(まるで巨人に見下ろされているみたいだな。どっちも俺より身長ないはずなのに……って、あれ?)

 前後から双子の胸責めを受けつつ、ぼんやりそんな事を思った和真だが、ここでまたしても朦朧としてくる意識を知った。

 しかし今度の原因は、何と考えるまでもない。

 いわゆる一つの――


 酸欠だった。







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